11月中旬

11月12日 土曜日 今日もお蕎麦売り切れで嬉しい悲鳴 …

 今朝の6時前の空はどんよりと雲が垂れ込めていました。夕べ漬けたお新香を糠床から取り出すために、眠い目をこすりながら蕎麦屋に着いた亭主。珈琲を入れて目を覚ましながら、小鉢の数を確認すれば、筑前煮は3鉢しか出来ないので合計10鉢。昨日までのお客の数からすれば、週末だからちょっと足りないかも知れない。一番早く出来るのは切り干し大根の煮物だけれど、早朝には蕎麦汁の補充もあったので、洗い物を片付けたら、作る暇はなかったのです。

 家に戻って東の空を見れば、雲間から青空が覗いている。天気予報はあまり当てにならないのが最近の傾向だから、なんとか時間を作って、小鉢を作らなければ。一番大変な状況を見越して仕込みはしておくもの。幸いにもデザートは蕎麦饅頭が冷凍してあるから、作らなくても大丈夫なのです。連日のお蕎麦売り切れで、今日も蕎麦を二回打たなければならないから、少し早めに家を出て、なんとか二回の蕎麦打ちを終わらせなければならない。

 女将の用意してくれた朝食を食べ終わったら、このまま蕎麦屋に行けるだろうかとひと休みしたら、やはり無理だと分かって書斎でひと眠りするのでした。朝ドラの終わる時間に目覚めて、すっきりした頭で髭を剃り、着替えを済ませて再び蕎麦屋に向かうのです。玄関を出れば庭の金柑がやっと色づき始めて、今年も沢山の実がなりそうなので嬉しかった。早朝とは違って雲のない空が広がって、風もなく暖かな朝なのです。やはり天気予報とは違うのです。

 みずき通りの手前のお宅には、もう山茶花が咲き始めていたのです。9時前には蕎麦屋に着いて、看板を出して幟を立て、チェーンポールを降ろしたら、早速、蕎麦打ち室に入って、二回分の蕎麦粉を計量しておきます。次の仕事のことを考えて、750gと500gでなんとか14人分の蕎麦を打てるように、今日は初心に戻ってひと束130gの蕎麦を打とうと考える。段々と雑になって135gとか140gとかになっていた最近の蕎麦打ちを少し反省したのです。

 加水率は43%。この時期はもう温度も湿度も関係ない。とにかく好く捏ねて練っておけば、好い生地に仕上がるものなのです。切りべら26本で130gだから、以前のように少し細い蕎麦が仕上がるのでした。コシはあるから十分な太さで、生舟一杯に14束の蕎麦を並べる。ここでもう10時を回っていたから、二回の蕎麦を打つと、やはり少し時間がかかるのです。次は、厨房に戻って大釜に火を入れたら、大根と生姜をおろして、野菜サラダの具材を刻み始める。

 週末は女将の来てくれる日だから、店の掃除をしなくて済むので助かる。天麩羅油を天麩羅鍋に入れて温め、天つゆの鍋を冷蔵庫から出して温め、沸騰した大釜の湯をポットに入れて、天麩羅の具材を調理台に並べたところで開店の時刻でした。暖簾を出したらすぐにお客がいらっして、ヘルシーランチセットのご注文。帰り際に女将に「今まで食べたお蕎麦屋さんで一番美味しかった」とご主人が言ったと言うので、それを聞いた亭主も嬉しいのでした。

 昼前にはもうひと組お客が入って、お二人とも天せいろを頼まれる。お婆さんを連れたリピーターのご夫婦がいらっして、三人でキノコつけ蕎麦のご注文。皆さん綺麗に汁まで飲んでお帰りになる。その後も客足は止まらずに、亭主も女将も休む暇がなかった。小鉢で出したお新香が「とても美味しい」と、言うお客が何人もいたから驚いたのです。いつもと同じに新鮮な野菜を漬けているのに、糠床が少し緩くなっていたからなのか。確かめておかなくては。

 小鉢がなくなったので「お蕎麦売り切れ」の看板を出して、1時を過ぎたから好いだろうと思っていたら、昼過ぎに電話をくれて、「小一時間はかかるのだけれど」と言うから「今は空いていますけれど」と応えておいた家のご近所の常連さんが、6人連れでやって来たのでした。ちょうど切り干し大根の煮物を作っていたから、小鉢は足りたけれど、蕎麦はもう四つしかなかったから、お二人はうどんで我慢してもらった。全員が天麩羅のご希望なのでした。
 久し振りの混みようだったから、当然のこと亭主は昼を食べる暇もなく、夜は6時から防犯パトロールなのに、明日のお新香を漬けにまた蕎麦屋に出掛けて、カウンターの洗い物を片付け、空になった蕎麦徳利に蕎麦汁を補充するのです。帰りにコンビニに寄って5時過ぎにやっとパンを買って昼飯を食べる。7時前にパトロールから戻っても、まだお腹は空いていないし、昨日作った餃子を焼いてもらって、焼酎を飲むのでした。明日も心配になってきました。


11月13日 日曜日 南風でとても暖かかった一日 …

 5時半過ぎに蕎麦屋に出掛けて、夕べ浸けておいたお新香を糠床から取り出す。外はまだ夜明け前で、向かいの森の際が明るくなっていました。天気予報では曇りのはずが、雲一つない晴天のようなのです。今日は南風だと言うから、日中はかなり暖かくなりそうなのです。最近、デザートで出している蕎麦饅頭がなくなったから、今朝は饅頭も作って蒸かさなければいけない。蕎麦も昨日で売り切れたから、今日も二回の蕎麦打ちと忙しいのです。

 早朝に出来ることは、昨日、女将に頼んで買ってきてもらったキノコを出し汁で煮て、キノコつけ蕎麦の出し汁をつくること。2㍑の鍋に沢山のキノコと鶏肉を入れて煮込むこと20分。キノコの香りが辺り一面に漂い、美味しそうなのでした。出汁醤油で味付けをして、最後に蕎麦汁を加えてつけ蕎麦のタレに合うように、味を濃くしておくのです。季節のせいかこのところ、お客様には大人気で、皆さん汁を綺麗に飲み干して帰られるのです。

 時計が7時を回ったから、家に戻って朝食を食べ、満腹になった食後のひと眠り30分。二回の蕎麦打つのは、それほど大変な事ではないけれど、習慣になった時間の感覚はすぐには変えられない。蕎麦屋に出掛けたのが8時45分で、店に着いて看板や幟を出し、チェーンポールを降ろしたら、もう9時になっていたのです。急いで蕎麦打ち室に入って、750gと500gの粉を計量し、43%の水を計量カップにそれぞれ用意する。後は一挙に集中するだけ。

 蕎麦を捏ねる時は丁寧に滑らかな生地になるまで練らないと、伸して広げたときに四辺の端がひび割れてしまうから、急いでいても急所は外せない。昔読んだ蕎麦打ちの本の中にも、確かそんなことが書いてあった。自分で実際に失敗をしないと分からないから、なかなか難しいのです。9時半過ぎに二つの蕎麦玉が仕上がった頃、女将が来て洗濯物を干し、店の掃除を始めてくれる。暑くなった亭主は水分補給をして、また蕎麦打ち室に戻るのです。

 10時過ぎには14食の蕎麦を打ち終えて、厨房に戻って蕎麦饅頭を作って蒸かし鍋に入れて蒸し始めるのです。それから野菜サラダを刻むから、今日は少しいつもより遅い時間なのです。開店の時刻の10分前には、もう駐車場にお客さんの車が入ってくるから、女将が出て店の中に入れる。お茶だけはお出ししたけれど「まだ準備が終わっていないんですよ」と言っても、お客はもう注文をしたがるから、キノコつけ蕎麦を勧めて野菜サラダを盛り付けるのでした。

 「とても美味しかったわ」と言って女性二人が帰った後は、しばらくはお客が来なかった。日曜日はお客の出足が遅いのは、いつものことなのです。1時前になったら続けてお客入り、天せいろやヘルシーランチセット、三人連れの常連さんはぶっかけ蕎麦にカレーうどん、キノコつけ蕎麦とバラバラのご注文だから手間がかかる。それでも黙々と調理をこなし、女将はお茶出しや配膳、会計にかかり切りになるのです。やっと終わりかと思えばまたお客が入る。

 今日は暖かくなったからか、歩いていらっしゃるお客もいたのです。最後の老夫婦も散歩の帰りらしいのに、温かいとろろ蕎麦は出来ないかとか、煮物の蕎麦はないかとか尋ねたけれど、結局は温かい汁のぶっかけ蕎麦と天麩羅蕎麦に落ち着いて、閉店の時間までゆっくりと食べていかれたのです。カウンターの皿に載せた蕎麦饅頭を、半分ずつ切ってサービスでお出ししたら、奥様が有り難がって礼を言って帰られた。あとは夫婦で後片付けと洗い物なのです。

 今日も9人もお客が入って、今週は随分とお客の来た計算です。蕎麦はまだ残っていたけれど、天つゆもなくなったので、1時半にはまだお客がいたけれど、お蕎麦売り切れの看板を出しました。女将も二日続けて混んだので疲れたらしく、今日はレジの打ちミスをしたらしい。亭主も昨日の混みようと、夜のパトロールで疲れた上に、またしても昼も食べずに仕事を終える。夕食は隣町のスーパーへ刺身を買いに出て、大相撲を見ながら簡単に済ませるのでした。


11月14日 月曜日 今日は寒さが戻って来た …

 午前6時前の東の空には分厚い雲がかかって、昇って来る太陽の光が下から赤く雲を照らしていました。今日は晴れるという予報だから、寒い北風でこの雲を南に向けて押していくのだろうか。朝飯前のひと仕事は、まず昨日の沢山の洗い物を片付ける事でした。丼やお椀が多かったので、みんなカウンターに干したままなのです。昨日は暖かかったのに、やはり季節のせいなのか温かい汁物が多く出た。冷たい蕎麦を頼んだ人と半々ぐらいなのでした。

 天せいろやぶっかけ蕎麦など天麩羅がよく出たので、天麩羅の具材がなくなっていたから、今朝は具材を切り分けて容器に詰めておきました。レンコンも皮を剥いたら輪切りにして、酢水で茹でておくのです。切り分けた南瓜は5切れだけ残っていたけれど、買い置きはもうない。寒い月曜日になりそうだから、それほどはお客も来ないだろうけれど、材料がないと不安ではあるのです。余分に買ってあるのはパプリカだけなので、代用出来るかも知れない。

 混んだ翌日は乾いた洗濯物も多いし、沢山干さなくてはならないから片付けも大変です。家で二人分の洗濯をするのはいつも女将だから、それに比べたら大した量ではないと、元気を出して干しては畳んで戸棚にしまっていく。朝食を食べたら、例によって書斎で横になってひと眠り。これがまた至福の一時なのですが、不思議なことに朝ドラの終わる時間には目が覚める。今日は蕎麦は500gだけ打てばいいから、お茶を入れてもらって一服するのでした。

 思った通りに早朝の雲はすっかり何処かに消えて、みずき通りを渡るときにも青空がずっと続いているのでした。ハナミズキの紅葉ももうすっかり散って、季節はいよいよ冬に向かっているのだと感じさせるのです。今朝は新聞の来ない日だから、直接蕎麦屋の玄関を入る。今朝の暖房の温もりが残っているのか、店の中は外よりもかなり暖かく感じる。看板と幟を出してチェーンポールを降ろしたら、いよいよ定休日前の営業と蕎麦打ち室に入る亭主なのです。

 蕎麦粉を計量して、計量カップに適当に水を入れて蕎麦打ち室の計りに載せると、ぴったり215gで43%の分量になっているから、何か好いことがありそうな予感がするのでした。水回しの手の動きも軽やかに、よく捏ね上げた生地はしっとりと仕上がり、伸して畳んで包丁切りをしても、最初のひと束目から綺麗に等感覚で蕎麦が切れたのです。週末の疲れもやっと抜けたのかも知れない。昨日の残った蕎麦と合わせて10食分を用意して今日の営業に備える。

 他に仕事がなかったから、今朝は野菜サラダの盛り付けも早めに終えて、11時前にはすべての準備が整ったのです。すると、店の前の通りに車を停めて歩いて来る人がいるではありませんか。まさかこんな時間にお客なのかと玄関に出てみれば、「11時半からなのですね」と言うから「もうお湯も沸いていますから、どうぞお入り下さい」と、珍しく30分前に営業を開始したのです。テーブル席に一人座ってんせいろを頼まれる男性は、初めてのお客なのでした。

 「今度は女房と友だちを連れて来ます」と蕎麦を食べる前から言うから、「お近くなのですか」と尋ねれば成田だと言う。仕事でよくこちらに来るのだとか。店の名前や蕎麦の産地などを聞かれて、他にお客もいないから亭主も「霊犀亭のレイは動物のサイのことなのです」などと丁寧に答える。壁に飾ってある名前の出典を知らせたけれど、ちょっと見ただけであまり関心がないらしい。それでも美味しかったと蕎麦湯を飲み干して帰られたのです。

 早くからお客が来ると、もしかして今日も混むのかとちょっと胸騒ぎがしたけれど、寒い月曜日だからそんなはずもなく、12時半になってもお客が来ないから、暇をもてあまして、かき揚げを揚げて賄い蕎麦をぶっかけで食べるのでした。1時まえになってやっと次のお客がいらっして「先日来たら1時頃にもう売り切れだった」と言うから「今週は珍しく混んだのですよ」と応える。いろいろと話をして、キノコつけ蕎麦と蕎麦湯が美味しいと言って帰られた。

 予報よりは少し気温が上がったらしく、窓を開けていても寒い空気は入ってこなかった。県の感染対策室とかから電話が入って、月に一度の店内検査に係員がやって来た。「ご苦労様です」と質問に答えて署名をしたら「また来月伺います」と言って帰っていく。日に十何軒も店を尋ねて歩くのだそうな。こんな小さな店なのに、見てもらえているだけでも有り難いと思わなくては。月曜日の片付けはお客が少なくても時間がかかる。やっと終わったのは3時過ぎ。

11月15日 火曜日 寒さが戻って雨の朝 …

 昨日から続いた寒さの上に、今日は朝から雨だったから、最近になく冷え込んでいました。8時間も眠ったのになかなか目が覚めなくて、蕎麦屋に出掛けて昨日の洗い物を片付け、珈琲を一杯飲むまでは動き回る元気も出なかったのです。昨日の洗濯物は乾いておらず、洗濯機の中の洗濯物をハンガーに干したら、お袋様に電話をする時間です。五日間使って固めた天麩羅油を外のゴミ袋に入れて、マンションまで彼女を迎えに行けば、傘も差さずに元気な姿。

 雨だから農産物直売所にも農家が荷物を持ってこないかと思ったら、次々とトラックがやって来て、採ったばかりの新しい野菜を運んで来るのでした。トマトはいつもの農家から、キャベツも丁寧に作ってあるからここで買う。ブロッコリーは蕎麦屋の常連のお宅から立派な物が出ていた。隣町のスーパーにも出掛けて、今日は金柑がやっと出て来たので少し多めに買い込んでおく。買い物袋に六袋も買って、お袋様に手伝ってもらって荷物を詰めるのでした。

 昼は昨日打った蕎麦を持ち帰ってきたので、天麩羅の具材を揚げたのをグリルで焼いて天麩羅と蕎麦。客が少なかったから、残った分量が多かった。満腹になって亭主は書斎で横になり、例によってひと眠り。よくもまあ眠れるものだと自分でも驚くほどなのです。それでも30分ほど眠ったら目が覚めるのですが、起き上がるまでが時間がかかる。手の指を握ったり開いたりして、血の巡りを好くしてからやっと起き上がるのです。若いときとは違うから大変。

 午後は西の町のホームセンターに、店の備品を買いに出掛けなければいけなかったのだけれど、女将のスポーツクラブの座席を予約しなければいけないから、2時過ぎまではじっと待つ亭主。今日は席を取るまでが大変で、混み合っていてスマホが反応しないのでした。やっと最後に残った席を確保して女将に伝える。小雨の降る中をホームセンターに向かえば、近くの団地の脇にある公園の銀杏がもう散っていた。車を停めて写真を撮るのでした。

 団地の入り口まで帰ったところで、中央にある大きな公園の木々が綺麗に紅葉し始めていたから、また車を停めて写真を撮る。季節は思ったよりも早く通り過ぎているようなのです。先週はコロナの時期には始めてお客が40人を越えたから、随分と賑わった計算。コロナ以前はこれが普通だったと今ではもう思い出すことも難しい。また、感染者数が増えているようだから、外出制限が出るのかも知れない。蕎麦屋に戻って、出汁取りをする亭主。

 温かい汁が沢山でそうな陽気だから、今日は二番出汁を5㍑のなべに追い鰹で取るのでした。これで小一時間はかかるから、今日はもう仕込みを終わりにして、家に戻って女将と一緒に相撲中継を観るのです。新聞をよく読む女将の解説が絶妙です。夜は久し振りに鱈ちりの鍋にして焼酎を煽る。明日の仕事が随分と残ったので、今日は早めに寝て明日に備えようと思うのです。あまり動いていない一日だったから、夜がぐっすりと眠れるかと心配なのでした。



11月16日 水曜日 霧の朝 …


 午前5時半、家を出るときは下弦の月が煌々と輝いていたから、てっきり晴れるのだろうと思っていたら、蕎麦屋に着く頃には空は濃い霧に覆われているのでした。佐倉市の予報では気温も4度まで下がると言っていたから、今朝は初霜なのかと思っていたら、それほどまでは気温も下がらなかったらしい。それでも店の中は14℃と冷えているから、鼻水が出て止まらない。エアコンを入れて室内を温めたら、朝飯前のひと仕事にとりかかかるのでした。

 昨日使って洗ったままの鍋やボールを片付けて、蕎麦汁を蕎麦徳利に詰めていく。残った蕎麦汁は容器に移し替えて、2㍑のこの鍋はキノコ汁を仕込むのに使うのです。鶏肉を小さく切り分けて、二番出汁で煮込んだら、シメジ、エノキ、ナメコ、マイタケ、刻んだシイタケと入れていくと、もう鍋は一杯になる。出汁醤油で味つけをして、更に蕎麦汁を加えて味に深みを出させるのです。少し冷ましたら、蓋をして冷蔵庫に入れておく。

 家に帰って朝食を食べたら、例によって書斎に入ってひと眠り。夕べは床に就いたのが11時過ぎだったから、今朝は少し寝不足なのでした。血行が悪いのか、どうも頭がクラクラするのです。朝ドラの終わる時間まで1時間ほど眠ったけれど、まだ寝足りないと床に入ってもうひと眠り。定休日だから、あまり時間に縛られずに、身体がすっきりと目覚めるまで眠ることにしている。太陽が出て少し暖かくなったから、青空を眺めながら再び蕎麦屋に出掛けていく。

 それでも店の中は16℃だから、またエアコンを入れて午前中の仕込みを開始するのでした。寒くなったせいか、カレーうどんが結構出るので、今日はまずカレーの仕込み。「具だくさんのカレー」とメニューにも書いてあるから、大蒜と生姜をみじん切りにして油で炒めたら、鶏肉を入れ、大きめに切った玉葱と茄子、次ぎに刻んでおいたニンジンカボチャ、シメジを加えてよく煮込んでいきます。その間にミニ菜園にベイリーフの葉を取りに行って鍋に入れる。

 よく火が通るまでには少し時間がかかるから、蓮根の皮を剥いて脇切りにしたら、隣の火口で酢水で茹で始める。南瓜のスライスをレンジでチーンして、午後にやる天麩羅の具材の仕込みを始めておくのです。女将の午後のスポーツクラブがあるから、11時半には家に戻って昼飯を作るのが定休日の亭主の勤め。カレーの残りも持ち帰ったけれど、「古い物から消化して」と言われて、蕎麦屋の残り物を使って、コンソメスープとカレー炒飯を作る。

 午前中に随分と眠ったから、昼飯の後はひと休みしただけで、また蕎麦屋に出掛けていくのです。午後の仕込みのメインは小鉢の筑前煮。朝のうちに塩を振って、重しをかけておいた大根のなた漬けも作らなければなりません。具材を全て切りそろえて、ボールに入れておいたら、鶏肉を刻んで油を引いた中華鍋で炒めて、野菜を入れて次々と炒めていく。二番出汁で煮込んで、ニンジンや里芋が煮えたのを確認して、出汁醤油と砂糖で味付けをするのです。

 筑前煮は材料を刻むのに時間がかかるから、最近は牛蒡も人参も里芋も下茹でをせずに、一気に煮込んでしまう。ひと休みしながらあとは何が残っているのだろうと考える亭主。蕎麦豆腐の仕込みと天麩羅の具材の切り分け。30分もあれば終わる仕事だけれど、洗い物や後片付けがあるから、簡単には終わらないのです。今夜は6時半過ぎから夜の防犯パトロールに出掛けなければならない。帰りにコンビニに寄って、牛乳と卵サンドを一つ買って食べておく。


11月17日 木曜日 朝は昨日よりも寒かったけれど …


 夕べの防犯パトロールが効いたのか、今朝は朝食の時間までぐっすりと眠ってしまいました。やはり最近は、店を往復する以外ほとんど歩いていないから、年配の人たちとの夜のパトロールが亭主のリハビリになっているのです。右足の親指はもうすっかり痛みもないのですが、潰れたという軟骨が変な具合に固まったのか、歩くときに多少足の裏に違和感があるのです。本人はあまり気にしていないけれど、五体満足と言うのは実は大変な事なのですね。

 今朝は蕎麦屋の電線に止まった雀が、近づいても逃げないでいるから写真を一枚。朝ドラが始まってすぐに家を出たのは、小鉢の盛り付けや昨日の洗い物の片付けがまだ済んでいなかったから。筑前煮と大根のなた漬けは、どちらもお客には好評の一品です。定休日の夕刻にぬか漬けを漬けに店に行くのも実は大変なのです。店の中は12℃と、最近にはなく寒かったので、エアコンの暖房を入れて珈琲を一杯入れたら、9時前には蕎麦打ち室に入るのです。

 加水率は43%といつもと同じで、しっとりとした生地が仕上がったから、伸して畳んで包丁切り。切りべら26本で135gにして、ちょうど端切れが残らない程度に切り終えるのです。少ない分量を打つからか、どうしても四辺の隅がぴたっと決まらないのが気になる。最後に切るひと束は、畳んだ隅が丸まっているから、少し長さが短くなるのです。計量して少し多めにも切っておくので、お客にも十分出せるけれど、もっと緻密に蕎麦を打ちたいと思うのは性分か。

 蕎麦打ちを終えて厨房に入れば、昨日の最後にレンジ周りを掃除したのが綺麗で心地よいのです。天麩羅鍋に新しい天麩羅油を入れたら、野菜サラダの具材と大根、小葱、生姜を調理台に並べ、換気扇を回しながら一服して、さあてどれから始めようかと考える。小葱を刻んだら、大根と生姜をおろして、ブロッコリーとアスパラを茹でながら、レタスをちぎり、キャベツの葉を切りそろえたところで、大釜のお湯が沸くのでした。時間は十分にあるから大丈夫。

 ところが、野菜サラダの具材を刻んでいるところで、駐車場に車が入って来たのです。まだ11時過ぎだというのに困ったものです。年配の女性二人だったから店の中に入ってもらって、とにかくお茶だけ出してと思ったら、この間、キノコつけ蕎麦を二日続けて食べにいらっしたお客様。サラダを盛り付ける手を止めて、今日も仕込んであったキノコ汁を温める。蕎麦を茹でるだけだから配膳も早いのです。その間に例の少年がやって来てカウンターに座る。

 「今日はお婆ちゃんの蕎麦をテイクアウトして」と言うので、普通なら断るところだけれど、家も近いから彼が食べている間に、入れ物を捜して用意してやる。テーブル席の小母様たちが「僕ちゃん偉いわね」と褒めて帰られる。3人の盆や皿を洗い終わったところで、隣町の常連さんがいらっしゃる。野菜サラダとキノコつけ蕎麦を頼まれて、例によって話をはじめるのでしたが、駐車場にはまたお客が。ちょうど女将が手伝いに来てくれて助かった。

 あと一人分しか蕎麦がなかったので、「一人なら入れてあげて下さい」と言って、カレー蕎麦と天麩羅蕎麦を仕上げる亭主。もうこれで終わりだろうと、かき揚げを揚げて蕎麦を茹で、奥の部屋で食べていたら、一人のお客がいらっしたとかで、女将に呼ばれる。隣町に住む県の議員さんで、天せいろの大盛りのご注文でした。気温も20℃には届かない寒い日だったのに、木曜日だというのにお蕎麦は売り切れて、今日の晴れた空のように気持ちが好かった。



11月18日 金曜日 同じ寒さでも昨日とはうって変わって …


 午前6時半の東の空です。森の向こうに陽は出ているのでしょうが、太陽はまだ見えない。この時期、まだ日の出は遅くなっているらしいのです。蕎麦屋の中は昨日の早朝と同じく12℃。すぐにエアコンの暖房を入れないと寒いのです。珈琲は家で飲んできてしまったし、とにかく糠床を冷蔵庫から取り出して、水道からお湯を出したままにして糠床から漬けた野菜を取り出す。手が冷たくて仕方がないのです。冬場はもっと冷たくなるのかと考える。

 キュウリ、カブ、ナスとお湯で洗って、包丁で切り分け、小鉢に盛り付けていく。ちょうど八鉢盛ったところで、ほんの少しだけ残ったナスはラップにくるんで家に持ち帰り、朝食の食卓に載せる。寒い朝は温かい豚汁が有り難い。食事を済ませてお茶をもらったらもう書斎でひと眠りの亭主。眠ったのかどうか分からないうちに、30分ほど時間が過ぎて、洗面と着替えを済ませるのです。エアコンの暖房だけでは、ちょっと身体が温まらない。

 女将が見ている朝ドラの終わる時間に家を出れば、バス通りの青く晴れた空に南天の赤い実がよく映えていました。風は冷たいけれど陽射しは暖かく、晩秋の一日の始まりなのだと実感するのです。今朝も「今日はまだ金曜日なんだなぁ」と亭主が言えば「まだ今週は始まって二日目なのよ」と女将が呆れ顔で言い返したのでした。亭主一人で営業しているせいか、週の前半をとても長く感じる。土曜日曜はあれよという間に終わって、月曜日はまた一人きり。

 蕎麦屋に着いて看板と幟を出したら、チェーンポールを降ろす。店の中は今朝方エアコンを入れたままだったから、十分に暖かくなっている。蕎麦打ち室に入って蕎麦粉を計量し、篩で細かく振るえば、さらさらの粉が木鉢に溜まって、水回しの時を今か今かと待っている。今朝も43%の加水で750gの蕎麦粉を打つ。手の小さな亭主には、ちょうど好い分量。生地が滑らかになるまで捏ねたら、両手で包み込むようにして菊練りをする。蕎麦玉を仕上げて厨房へ。

 身体が熱くなったので暖房を消して窓を少し開ける。室温は19℃まで上がっている。これから伸しにかかればまた汗をかいてくるのです。懸案の四隅の角をしっかりと作ろうと伸すけれど、無理をするとどうしても角だけ生地が薄くなってしまうから困った。まだ均等の厚さに伸し広げられていないのに違いない。自然に任せて伸し棒を転がしていくと、いつものように角の丸まった生地に仕上がるのです。それでも、蕎麦切りをするには均等の太さになる。

 130gから135gまでの分量で蕎麦の束を作っていくと、8束と半分の蕎麦が取れた。これが開業の当初に決めた適量なのです。それは年配の女性には少し多いくらいなのですが「130gがちょうど好い」と亭主が最後に蕎麦打ちを教わった、今は亡き老人の言葉なのでした。朝の散歩の折にも、蕎麦打ち室の窓から、亭主が蕎麦を打つのを見守ってくれたのです。彼の打った蕎麦は、ほとんど打ち粉も使わずに、綺麗に四角形に伸されていたのを覚えている。

 大根をおろして野菜サラダの盛り付けを終えたら、今日は11時にはもう開店の準備が終わっていました。昨日の早い時間のお客が頭にあったから、効率よく仕事が終えられたのかも知れない。最後にキノコ汁を温めて、寒い今日はどれだけ出るだろうかと皮算用。しかし、昼を過ぎてもお客はなく、やはり昨日がたまたま多かったのだろうかと思えてきた。1時を過ぎてもお客がないので、亭主は蕎麦を小さな鍋で茹で、おろしと山葵だけでぶっかけにして食べる。

 片付けを始めた1時半過ぎに、駐車場に軽トラックが入って来たので、見れば年配の女性が二人でいらっしゃる。お友だちに「絶対ここで食べてみて」と言われて来たと言うのですが、ヘルシーランチセットの天せいろを頼まれて、ゆっくりと話をされていかれたのです。メニューを見て「これだけ多くのメニューを全部一人で作るの?」と驚いておられた。亭主はそれでも独りの営業になって、メニューから削った品が多かったので心苦しい限りなのでした。

 お客の帰ったのはなんと2時半で、結局、使わずに済むと思った大鍋も天麩羅鍋も、バットも洗って片付けたから、家に帰ったのは3時過ぎなのでした。珍しくスポーツクラブから帰った女将の方が先に家に着いていた。夜は、定休日に作ったカレーの残りを持ち帰っていたから、カツカレーと朝から決めていたので、亭主が車でショッピングモールに出掛け、さぼてんでロースカツを二枚買ってきた。昭和の新宿で有名だった店のカツだけあって美味しかった。

11月19日 土曜日 風は冷たく陽は暖かく …


 午前五時半に家を出て、今朝は返しの仕込みが朝飯前のひと仕事なのです。一週間は寝かせないといけないから、早め早めに仕込んでおくのが肝要。減塩醤油も再仕込み醤油も、もう残りの本数がなくなってきているから、発注をかけておかなければ。隣の火口では天つゆの仕込みをしながら、寒い朝も元気にスタートを切るのでした。空になった蕎麦汁の徳利に新しい蕎麦汁を詰めて、今日一日の蕎麦屋の賑わいを祈るのです。

 家に戻って朝食の食卓に付けば、今朝も熱い豚汁が身体を温めてくれる。釜から自分でご飯をよそったら、いつもよりちょっと多すぎたけれど、おかずも沢山あったのでなんとか食べ終えたのです。朝の早い日は、例によって食後は書斎に入ってひと眠り。今日はぴつたり1時間も寝てしまいました。朝ドラもとっくに終わって、女将は洗濯物を干すのに忙しい。髭を剃って着替えを済ませ、「行って来ま~す」と女将に声をかけて玄関を出るのです。

 9時を過ぎて蕎麦屋に着いたら、早速、蕎麦打ち室に入って今日の蕎麦を打つ。加水率は43%強で、少し柔らかめの方が四隅を伸すのに都合が好いかと、75cmの伸し棒で伸して、90cmの伸し棒で生地を巻く。丁寧に四隅を伸して行けば、昨日よりは少しましかという出来具合。あまり神経質にならなくても、要は生地の厚味が均等であれば好いので、打ち粉を振って包丁切りに入る。切りべら26本で135gとイメージ通りの蕎麦か仕上がるのでした。

 食後に少し長く眠って遅れた時間は、蕎麦玉を寝かせずにすぐに伸して取り戻したから、厨房に戻って野菜サラダの具材を刻み、今日も三皿だけ盛り付けておくのでした。女将が来てくれる日は、店の掃除をしてくれるから、亭主も随分と気が楽なのです。11時過ぎには開店の準備か整って、暖簾を出すのは亭主の仕事。昼前にご近所のご主人がいらっして、前回はカレーうどんだったから「暖かい汁ならキノコ付け蕎麦がありますよ」と勧めてみたのです。

 どうやら奥様が出かける日は、蕎麦屋に食べに来ているらしく、「落ち葉の掃除が私の仕事です」と随分と優しい。キノコつけ蕎麦がとても美味しかったと、綺麗に汁まで飲み干して帰られたのです。昼前にもうひと組ご夫婦がいらっして、キノコつけ蕎麦と天せいろのご注文。「新蕎麦になったんでしょ」とか「何処の蕎麦なんですか」とご主人はこだわりを見せていたけれど、キノコつけ蕎麦を食べて「美味しかった」と帰りは笑顔で出て行かれたのです。

 ひと組のお客のご注文の品を調理している間に、次のお客がやって来るというのが今日のパターンで、少し若いご夫婦にはカウンターしか空いていなかった。暖かい天麩羅蕎麦とせいろ蕎麦の大盛りを頼まれて「今月から新蕎麦になりました」と女将が言えば「何処の蕎麦?」と言うから「常陸蕎麦、茨城産です」と亭主が応える。いろいろと話をしたいと見えて、一つ一つ丁寧に答える亭主。綺麗に蕎麦湯まで飲み干して帰られたから、満足してくれたのかな。

 最後のお客は軽トラックにブナの木の輪切りを沢山積んで、娘さんとお父様と言った感じ。リピーターさんらしくヘルシーランチセットと辛味大根とせいろ蕎麦のご注文なのでした。デザートの蕎麦饅頭が美味しいと娘さんが言うから、外の車を指差して「薪にでもするんですか」と亭主が尋ねれば、隣町で薪屋をしているのだと言う。店のチラシを置いていくので「お客に見せますよ」と応える。寒いけれど陽は暖かい午後なのです。空は青く清々しかった。