2022年8月下旬


8月21日 日曜日 気温は低いけれど蒸した一日 …

 未明に激しい雨の音で目が覚めた。5時半過ぎには起き出して、夕べ漬けた糠漬けが気になっていたので、取りあえず蕎麦屋に出掛けようと玄関を出たら、もう止んでいる。蕎麦屋に着いた頃には、ひがしの空の雲の切れ間から、朝日が覗いて上空には青空も見え始めていたのですが、今日は一日中、晴れることはなかった。向かいの畑には朝靄が広がって、涼しいのだけれど何故か蒸し蒸しとした陽気なのでした。蕎麦屋の室内は気温25℃、湿度85%。

 昨日の洗い物を片付ける前に、冷蔵庫からヨッコラショと糠床を取り出して、野菜を切り分けたら小鉢に盛り付けていく。ついでに冬瓜のそぼろ煮と夏野菜の揚げ浸しも、最後の六鉢を作っておくのでした。今日、お客が混めば、何か別の小鉢を作らなければならない。カウンターの洗い物を片付け、すっかり空になっていた蕎麦と作りに予備の蕎麦汁を詰めていく。これも混めば明日の分まではないかも知れない。今日が終わってから考えることにしよう。

 洗濯物を干す暇もなく7時を過ぎたので、家に帰って女将の用意してくれた朝食を食べる。縞ホッケの塩味が薄かったからちょうど好かった。豚汁は店で大根や長葱が残る間は続けてくれるらしいから、貴重なおかずなのです。時間のある時に大根や人参だけ煮て、冷蔵庫に保存しておくのがコツらしい。この夏は大根も値が高くなっているから貴重らしい。油揚げや豚肉も入るから、栄養のバランスも好いし、朝は温かい物を食べるという理にかなっている。

 食後はお茶を入れてもらって、書斎で横になるけれど5分も眠れなかった。今朝は蕎麦を二回打たなければならないからと女将に言えば「前はお店も混んでいたからよく二回打っていたじゃない」と言われた。朝飯前のひと仕事を始める前は、混んだ日は夜に蕎麦屋へ出掛けて仕込みをしていたのです。歳を取ったのか、何時の間にか習慣になったのか、二回打つとなるとちょっと緊張する。玄関を出れば、しばらく花が少なくなったムクゲがまだ咲き続けている。

 そう言えば、以前は1kgずつ打っていたから、多い日はこれを二回打っていたのだ。そして、それが続いたから腕の腱鞘炎になってしまい、それから一度に打つ蕎麦粉の量を750gに変えたのだった。当時は加水量が少ない方が、美味い蕎麦が出来ると勘違いしていたから、尚更、力を込めて打っていたのでしょう。少ない量を打つのは力も少しで済むし、加水率を43%にしてからは、かく汗の量も少なくなったような気がします。ムクゲにあやかって頑張る亭主。

 野菜サラダも今日の天気では四皿も要らないかと思ったけれど、女将が「もうないのと言われる時が嫌なのよね」と言うので、休日の数を守って野菜を刻むのでした。今日は昼前に二組もお客が入って、これは幸先が好いかと思えた。ご主人がカレーうどんのご夫婦もいらっして、しっかりデザートまで頼まれる。酒を飲むわけではないのに、珍しく二組とも串焼きを頼んだから嬉しい亭主。若いカップルは、前にもいらっしてハラミの串焼きを頼んだ方でした。

 とろろ蕎麦にヘルシーランチせいろ蕎麦やおろし蕎麦のご注文だったから、昼前は具材が足りなくなるかと心配した天麩羅が出なかった。お客の来ない間にと亭主の食べる賄い蕎麦も、今日は大根おろしと山葵と葱だけ。揚げた天麩羅を入れるパッドが油で汚れていないので、自分がかき揚げを揚げて汚すのが憚られたのです。その分、後の洗い物が楽になる。などと考えていたら、午後のお客はいきなり天せいろのご注文。人生、思うようには行かないものです。

 1時を過ぎてもお客がなかったから、暇な亭主は取っての長い剪定鋏を持ちだして、切り残した紅葉の枝を払うのでした。隣にあるヤマボウシがちょっと刈り込みが足りないのか、モミジと同じくらいのボリュームになっているのが今後の課題か。最後のお客がお蕎麦が美味しかったと言って帰られたのは、もう閉店時間の間際なのでした。女将のスポーツクラブの予約を無事に済ませて、今日は早めに片付けが終わる。夜は串焼きとしめ鯖、モズクで一献。


8月22日 月曜日 久し振りに蕎麦を打たない月曜日で …

 曇ってはいたけれど、気温が低いからか、爽やかな朝でした。家の中では手に触れる場所がジトーッと汗ばんできたのに、外は風があるから心地よいのです。蕎麦屋に着けば隣地との境に生えていた草が綺麗に抜かれていた。ゴミ出しから帰った隣の奥さんが出勤するところだったから、挨拶をしながら「済みませんね。綺麗にしてもらって」と言えば「ついでだから」と笑顔で応える。まめなご主人が昨日の午後から草取りをしてくれたらしい。

 隣のお花畑を覗いたら、今朝も賑やかにひまわりの花が咲き乱れていました。空が灰色なのが惜しまれる。ついでに西側の小径のムクゲの様子を見ると、家のムクゲと同じで、ここに来てまた元気に花を咲かせているではありませんか。店の中に入り、看板を出して幟を立て、チェーンポールを降ろしたら、早速、箒と塵取りを持って掃除に出る。ついでに道路際の雑草も綺麗に抜いておいた。お隣の若夫婦に触発されたのが好かった朝なのでした。

 道路脇に溜まったほんの少しの土に種が飛んできて、雑草が生える仕組みらしい。風で飛んでくる土を畑に返すわけにも行かず、抜本的な解決には繋がらない。今朝は蕎麦を打たないと決めていたから、朝の時間に余裕があるのでした。昨日洗って火で乾かした大釜に水を張って、ポットを並べてお湯を入れる準備だけしておく。湯を沸かすのはまだ早いから、厨房の椅子に座ってひと休み。店の中を見渡せば、天井の換気扇が埃で丸く汚れているのでした。

 何ヶ月に一度かは取り外して洗っているのですが、このところ暑くてそんな元気がなかった。今朝は涼しいのと時間があったから、脚立を出してカバーを外し、タワシでゴシゴシ埃を落としたら、見違えるように綺麗になった。店の外も中も、埃というのは何時の間にか溜まってしまうらしい。小さな蜘蛛も例外ではなく、蕎麦打ち室の窓や、店のテーブルや椅子の下に何時の間にか糸を針巡らせているから要注意なのです。維持管理とは好く言ったものです。

 いつもの時間になったら、野菜サラダの具材を刻み、平日だから三皿だけ盛り付けておきます。店の外は時折陽が差して、青空も覗く陽気なのですが、天気予報通りに晴れにはならない。大釜の湯が沸いたので、いつもより早めに暖簾を出して、お客を待つけれど、今日は早いお客はないのです。昼を大分過ぎた頃に、車が駐車場に入って、若い男性客がいらっしゃる。天せいろの大盛りを頼まれてお出しすれば、蕎麦湯も綺麗に飲み干している。

 「お蕎麦かお好きなのですね」と亭主がカウンターのこちらから言えば、「東北の宮城の出身なので蕎麦が好きなのです」と言うから、「宮城はどちらのご出身ですか」と尋ねれば白石だ言う。昔、七ヶ宿によく渓流釣りに行ったという話をすれば、話が弾む。子供もまだ小さいと言うから、三十代ぐらいなのだろうか。近くの奥さんの実家に帰ってゆっくりと夏休みらしい。今日のお客はこれでお終い。閉店時刻を前に、亭主はぶっかけで遅い昼を食べるのです。

 残った天麩羅の具材を揚げて、家に持ち帰る準備をしながら、洗い物を片付ける亭主。店置きのパンフレットがなくなったから、デザートの抹茶小豆の写真を撮っておく。サラダも小鉢もすべて残ったから、一度家に車を取りに帰って、お盆に載せたまま運んで帰るのです。ちょうど女将がスポーツクラブから帰る時間だったから、荷物を玄関口に置いて煙草を買いに出る。書斎でハソコンに向かって今日のデータを入力したら、夕食までぐっすり寝込んでしまう。


8月23日 火曜日 朝夕は涼しく、昼は蒸し暑い日でした …


 最近は朝晩が涼しいのでよく眠れる。夜も早くに寝ることが多いから、朝は自然と早い時間に目が覚めて、今朝も定休日だと言うのに6時前には取りあえず蕎麦屋に出掛けました。片付け物もほとんどないから、青空が覗いているようなので、隣のひまわり畑を歩いて写真を撮ることから始めました。いつも蕎麦屋の側から眺めた風景を撮っているから、今日は少し先まで歩いて駅前の高層マンション群が見える辺りでシャッターを切ったのです。 

 それからやっと厨房に戻って、3㍑の鍋に昆布と干し椎茸を入れて水を汲み、午後の出汁取りの準備をしておく。奥の部屋に干してある洗濯物を畳み、今度は洗濯機の中の洗濯物を干していく。一つ一つは時間がかからないけれど、何でも一度にやろうと思うと大変になるから、気が付いたことは済ませておくのが年寄りの知恵か。厨房の椅子に座ってひと休みすれば、嗚呼、まだあれもやっておかなければと気が付くから、休憩も大切なのです。

 7時前に家に帰れば、女将が台所で茄子とピーマンの味噌炒めを作ろうとしていたから、亭主が代わってフライパンで炒めてやる。その間に女将はご飯を盛り付け、味噌汁をよそうのです。休みの日はやはり亭主も何処か余裕がある。昨晩は十分に眠ったはずなのにそれでも食後はひと眠り。満腹になると横になってしまうのがどうも習慣になっているらしい。子供の頃は食べて直ぐに寝ると牛になるなどと言われたものですが、身体にはどちらが好いのか。

 洗面を済ませて和室に着替えに行けば、辺り一面にプルメリアの甘い香りが漂っている。見れば蕾を幾つか残して、恐らく最後の花が開いているではありませんか。7月始めに咲き始めたのだから、2ヶ月近くも咲き続けていることになる。夏場は外に置いていた頃にはあまり気にならなかったけれど、女将が大切に育てているからなのか、随分と花の時期が長く続いている気がしてならない。お袋様に電話をして、今朝の仕入れに出掛ける亭主。

 農産物直売所で野菜をみつくろって買い終えたところで、知り合いの農家の親父様が今朝の野菜を持って来た。「朝採るからどうしてもこの時間になっちゃうんだよ」と値札を貼っていたから、太いキュウリや形の好い冬瓜や南瓜、オクラ、ナスなどをもう一度レジに行ってお金を払うのでした。隣町のスーパーにも出掛けて、足りない野菜や女将に頼まれた家の肉や魚や果物を買って、10時過ぎには蕎麦屋に戻寄って、残った蕎麦をお袋様に持たせて送って行く。

 冬瓜は割高だけれど小さめのものが使いやすい。切らずに置いておけば冬まで持つから冬瓜と言うらしい。切って茹でたら冷凍してもおける。亭では小さめのものを二回に分けてその週の小鉢に煮ている。皮を剥き、小さく切って、塩を入れて15分ほど下茹でをすれば、綺麗な透き通った宝石のような色になるので、これをいろいろな煮物に入れて使う。鶏の胸挽きとオクラ、唐辛子の輪切りと煮て塩と砂糖、生姜で味を付け、隠し味に薄口醤油をたらし、片栗でとろみを付けると、綠の色が涼し気なのです。冷やして食べたい。

 昼は昨日残ったそばを茹でて、天麩羅の具材の残りを揚げて帰ったから、グリルで焼いて天せいろ。3㍑の鍋で蕎麦を茹でるのだけれど、二人分を一度に茹でると、どうしても蕎麦屋で茹でるような艶が出ない。蕎麦屋のお客が「家で茹でるとどうしても美味しく出来ない」と言っていたと女将が言う。やはり茹でるお湯の量に関係があるのか。午後は先週盆休みだった床屋に出掛け、久し振りに親父様と四方山話。夕刻まで蕎麦屋で出汁取りをして今日は終わり。



8月24日 水曜日 涼しくなったのに蒸し暑く感じた一日 …

 夕べは夕食の後に風呂の時間まで、ぐっすりと遅すぎる昼寝をしてしまったから、夜がなかなか寝付けずに、午前2時過ぎにやっと眠りに入るのでした。たまにこういう失敗をするから、今朝は朝食の時間にやっと間に合って目を覚ます。あれもしなければと頭の中にはスケジュールが一杯で、定休日二日目は試練の日なのでした。朝ドラの終わる時間に蕎麦屋に出掛け、昨日の続きで冬瓜のそぼろあんかけを作る準備をするのが最初の仕事です。

 冬瓜を半分だけ切り分けて、皮を剥いたら2cmほどの大きさに切って塩水で茹でる。茹で上がる少し前にオクラを鍋に入れて火を通しておきます。これを冷蔵庫で冷やして、午後の仕込みの準備をしておくのです。ここまで終えたところで、今日は西の町に蕎麦屋の消耗品を仕入れにいかなくてはならなかった。早い時間に済ませておかないと、億劫になるから、思い切って昼前に出掛けて行くのでした。ラップやキッチンペーパー、消毒液などを買い込んで来る。

 帰り道、団地の中央部の農村地区を横切れば、稲穂の広がる水田の向こうに駅前の高層マンション群が見える。子どもたちがまだ小さな頃、螢を見に来たのも確かこの辺りです。今では休耕田もだいぶ多くなったけれど、この土地に住み始めた頃の懐かしい原風景が残っている。以前はこの地区から蕎麦屋に来てくれたお客もいたのです。駅から循環しているモノレールはこの農村地区の外側をぐるりと回るように団地の中を走っているのです。

 昼はまたしても蕎麦。今日は3㍑の鍋で一人分ずつ蕎麦を茹でたら、ツヤのある美味しい蕎麦が出来た。やはりお湯の量に関係があるでした。冷えたとろろ芋をおろして、蕎麦屋で残った蕎麦豆腐をつまみながら、美味しくいただくのです。今日は午後の仕込みが沢山あったので、食後の昼寝もせずに1時過ぎには再び蕎麦屋に出掛ける亭主。業者が荷物を持ってくる夕刻まで頑張れるだろうかと、多少の不安はあったけれど、やるしかないのでした。

 まずは、午前中に下準備を終えた冬瓜とオクラを鶏胸挽と出汁で煮て、砂糖と塩で味つけし、薄口の出汁醤油を垂らす。ここまで書いたところで、唐辛子を入れたのに、生姜を入れるのを忘れていたことに気が付いた。明朝、生姜を擦って加えても遅いだろうか。隣の火口では、カレーの具材を煮込んでいる。南瓜と人参が少し柔らかくなったらルーを入れて、後は余熱で十分。普通なら8人分の分量だけれど、汁が少なく具が多いから5人分に分けて冷凍する。

 2時間ほど頑張ったところで少し疲れてきた。厨房の椅子に座ってひと休みしながら、夏野菜の揚げ浸しに入れる食材を冷蔵庫から出しておきます。先週残ったレンコンは初めて入れるけれど、硬すぎないか心配。一度茹でてはあるけれど、最初に揚げて十分に火を通し、油が少なくなってきたから、火の通りにくい食材から炒めていく。いつもよりは量を少なくしてあるのは、何日も汁に浸けておくと色落ちして鮮やかさが薄れるから。2,3日が限度かな。

 冬瓜のそぼろ煮もそうだけれど、お客が順調に入ってくれると週末にもう一度作れるのです。こればかりはなかなか予測できないから、運を天に任すだけ。後は天麩羅の具材を切り分けて、蓮根の皮を剥いてスライスしたらを茹でる。南瓜を盛り付ける形に切り分けたらレンジでチーンして、かき揚げの玉葱と三つ葉を刻んで容器に入れる。ここまで約30分、残るはお新香を漬けて、蕎麦豆腐とデザートを仕込むのですが、業者が来るので珈琲を沸かして待つ。

 4時過ぎに荷物が届いて、久し振りに顔を見る若者は、9月から担当者が代わりますと言うから、理由を聞けばどうも結婚するらしい。新居からは会社が遠いので、今の会社は退職するのだと言う。新しい仕事も業種は違うけれどやはり営業らしく、若い人の決断に感嘆する亭主なのでした。若いうちに転職するのが今の時代らしいと、自分の人生をふと振り返る。5時過ぎに家に帰れば、女将が珍しくオーブンとグリルを両方使って夕食を用意していました。



8月25日 木曜日 今朝も早くから蕎麦屋に出掛け …

 昨日は夕刻まで頑張って仕込みをしたけれど、やはり全部は終わらなかった。今朝はその遅れを取り戻そうと5時半には家を出て、蕎麦屋に向かう亭主。向かいの森の雲の影から、日の出の遅くなった朝日が光を投げかけていました。定休日明けの平日だから、新型コロナの感染者が増え続けている中で、お客がそれほど来るとは思えなかったけれど、準備だけはしておかなければというのが亭主の考え。車で乗り付けた蕎麦屋のたたずまいは深閑としている。

 涼しい朝だったから、郵便受けから新聞だけ取り出して、エアコンも点けずに厨房に入り、昨日使って洗いかごに干してあるいくつもの鍋を片付ける。最初に取りかかるのは、固まるまでに時間のかかる抹茶小豆の仕込み。上に甘く煮込んだ小豆を載せたいのだけれど、少し沈むくらいの硬さで載せるのがポイントなのです。次ぎに蕎麦豆腐を仕込んで型に流し込み、冷蔵庫から糠床を取り出して、ナスやキュウリ、カブを切り分け、小鉢に盛り付ける。

 昨日仕込んでおいた冬瓜のそぼろ煮と夏野菜の揚げ浸しを、冷蔵庫から鍋のまま出して、小鉢に盛り付けていきます。味付けはもちろんのこと、見た目にも美味しそうだとお客に思われるように、いろいろな工夫をしているつもり。冬瓜の透き通った感触が涼し気なのが亭主のお気に入り。オクラの綠と唐辛子の赤をアクセントにしたのですが、2、3日のうちに出し終えないと色は褪せてくる。そんなことを考えながら準備をするのが楽しいのです。

 洗濯物を干して7時前に家に帰れば、今朝は厚揚げが入った三ツ葉の卵綴じがメインのおかずでした。亭主が持って帰ったお新香の残りと揚げ浸しが、少しは花を添えたかな。豚汁も涼しい朝にはちょうど好いのでした。栄養のバランスが良いのが何よりなのです。7時半から女将の朝ドラが終わる時間まで、亭主は書斎に入ってぐっすりと寝込んでしまう。洗面と着替えを済ませ、洗濯物を干すのに忙しい女将に「行って来ま~す」と声をかけて店に出掛ける。

 空は曇ってきたけれど、涼しくて気持ちの好い朝なのでした。蕎麦屋に入る前に西の小径に散ったムクゲの具合を見て、ついでに隣のひまわり畑に入って写真を撮っておく。いつも元気で賑やかに咲いているこの花に、どれだけ励まされることか。歳を取るに従って自然の草花との会話が出来るようになるものらしい。それだけ孤独と向き合うようになるのかも知れない。今朝も散歩の老人たちが、ひまわり畑で写真を撮っていたのでした。

 店内の気温は25℃、窓を全開にして空気を入れ換えておく。蕎麦打ち室に入っても湿度は40%台だったから、今日は本当に涼しい朝なのでした。昨日のうちに蕎麦粉の発注をしておいたけれど、蕎麦粉の届く土曜日に打つ分まで、蕎麦粉があるのかと心配だった。今朝も750g八人分の蕎麦を打ち、残りを見れば何とか足りそう。気温の低い日が続くと言うから、市内の新型コロナの感染者も増えていることだし、そうそうお客が来るとは思えないのです。

 それでも野菜サラダは平日の決めた三皿を盛り付け、新しい天麩羅油を鍋に注ぎ、開店の準備は着々と進む。暖簾を出して開店前のひとときに、カウンターの椅子に座ってひと休みすれば、眠ってしまうのではないかと思うけれど、さすがに眠ることはないのです。バス通りの向こうを見れば、あちらの畑のひまわりも随分と花を咲かせてきた様子。近くまでは寄れないけれど、お隣のご主人が道楽だからと言って耕した畑の広さには驚くばかり。

 ボサノバの明るい曲を流して待ち続けるけれど、予想通りにお客は来ない。1時前になってやっと常連さんが来てくれたけれども、「今日は涼しいからサラダはいらない」と言われて、辛味大根をおろして、レンコンと南瓜、稚鮎とキスの天麩羅を揚げる。「夏が旬の野菜って何なのですか」と聞かれるから、「うちで出しているのが全部旬の野菜ですよ」と応える亭主。昼飯を終えた女将が手伝いに来てくれて、二人で後片付けをして家に帰るのでした。

8月26日 金曜日 曇り空だけれど蒸して暑い日 …

 昨日はお客が少なかったから、準備するものもないので、今朝は朝飯前のひと仕事はお休みにしようと思っていたのです。ところが習慣とは怖いもので、いつもの時刻に目が覚めてもう一度眠ることも出来ない。仕方がなく、洗濯物でも片付けてこようかと車で蕎麦屋に向かうのでした。まずは西側の小径にムクゲの花が散っていないかを確認して、新聞を取って店の中に入れば、昨日の朝よりは蒸している感じ。市内のコロナの感染者数は相変わらず200名近く。

 距離的には近いすぐ隣の市でも300名を越えているから、高齢者にとっては不要な外出を自粛すべき状態が続いているのです。家に帰って女将とこの話をすれば、「お盆で広がってるし、夏休みが終わらないと、当分収まらないんじゃないの」と言う。「学校が始まったらまた広がるのでは」と心配する亭主。高齢者ばかりの夜の防犯パトロールも、9月一杯は休止にするという連絡があった。これでは今日もお客が見込めないと、食後のひと眠りをするのでした。

 いつもよりは遅く、9時前に家を出て再び蕎麦屋に向かう亭主。昨日の蕎麦が随分と残っているから、今日は500g5人分だけ打とうと決めていたのです。それでも蕎麦打ち一回は一回だから、43%の加水で丁寧に蕎麦粉を捏ねて、丸出し、四つ出しを終えて伸し広げていく。綺麗に八つに畳んで包丁打ちをすれば、今朝は調子が好くて、不思議と切りべら26本で135gに揃うのでした。135gだと端切れがけっこう残るので、86gは大盛り用にと束にしておくのでした。

 昨日の蕎麦と合わせて11人分の蕎麦の束を生舟に並べ、10時前に蕎麦打ちを終える。いつもと同じ時間なのです。大根をおろして、ブロッコリーとアスパラガスを茹で、レタス、キャベツ、赤玉葱と切り分けたら、野菜サラダの皿を用意する。レタスを敷いて刻んだキャベツと赤玉葱を盛り付けたら、パプリカをスライスして、ニンジンのジュリエンヌ。キュウリ、トマト、パイナップルを切り分けて皿に載せたら、最後にブロッコリーとアスパラを添える。

 昨日も全部残って家で女将となんとか朝までかかって消化した。今日も残ったら大変だとは思いながらも、盛り付けてカウンターに並べると、ホッとするのです。お客の少ない蕎麦屋でも、それが調理人の喜びというものか。昼前に男性客がお一人でご来店て、温かいぶっかけ蕎麦をご注文。「少し涼しくなったから温かいのがいいかと思って」とおっしゃるので、「お腹には好いのですよ」と亭主が応える。確かに店内は28℃と以前よりは気温が低い。

 1時前に女性客5人がテーブルを占領して、皆さんバラバラのご注文。お婆様とお母様が前にいらっして、今日は親子孫と三代で来て下さったそうな。二人ずつ蕎麦を茹でてお出しして、天麩羅を揚げて天せいろを二つ出したら、最後に鴨せいろを作る。5人分の調理をしている間に、次のお客が来たらとうしようかと気が気ではなかった。一人で営業する日は、お茶出しも盆や蕎麦皿のセットもすべて自分でやらなければいけけないから、これが大変なのです。

 無事に5人分の蕎麦を出し終え、女性ばかりだからかいろいろと話をする。デザートの抹茶小豆も3人が頼まれて「これは美味しいわ」と褒められた。1時半には皆さんお帰りになったけれど、それから洗い物と片付けに入るのが大変。1時45分のラストオーダーの時間を過ぎたので、看板と暖簾と幟を閉まって、チェーンポールを上げていたら、車が止まってもう終わりかと言う。御免なさいと頭を下げる。遅い昼は家に帰ってから冷やし中華を作って食べる。