2023年3月初め


3月1日 水曜日 弥生 … 三月 … 暖かい



 夕べは10時前にもう眠くなって床に入ったのですが、疲れていないからか、6時間もするともう目が覚めてしまう。パソコンのスイッチを入れて、立ち上がるまでに時間がかかるから、台所に行ってお湯を沸かしてほうじ茶を入れて飲むのです。確定申告の締め切りが迫っているので、いつまでもグスグスはしていられないと、今朝は去年のデータを洗い出して、抜けているものがないかと領収書を張り付けた帳簿と照らし合わせて見るのでした。

 7時を過ぎたら女将が朝食の支度をすませて亭主を呼びに来る。今朝は銀ダラの塩焼きと切り干し大根で、おかずの足りない分は納豆のパックを空けて食べるのでした。食後のお茶を入れてもらってひと休みしたら、早くから起きているので眠りたかったけれど、書斎のはパソコンが亭主を呼んでいた。年間の決算書を印刷して、光熱費や固定資産税など様々な支出を印刷ししたら、残るは仕入れの一覧票。業者別に並び替えて全体の額を印字するのです。

 早朝からパソコンの画面の細かな数字を見続けていたから、視力がどっと落ちて、カメラのレンズが曇っているのか、自分の目がどうかしているのかの区別が付かなかったのです。珈琲を入れて飲み終えたら、やっと今朝の仕込みに蕎麦屋へ出掛ける。玄関を出たところに置いてある垂れ梅の鉢を見れば、今年も元気に花を咲かせているから嬉しかった。暖かな朝だったから、亭主は靴下も履かずに雪駄をつっかけただけなのでした。

 蕎麦屋に着いたら、まずはお新香の漬け直し。水の上がった大きな樽から、小さな漬け物器に塩を振りながら昆布と唐辛子を入れて漬け直す。なた漬けを漬けた容器も冷蔵庫から出して、小鉢に盛り付ける準備をする。そして空になった蕎麦徳利を調理台に並べて、昨日仕込んだ蕎麦汁を詰めていくのです。大盛り用と普通盛り用と18個もあれば明日と明後日の分は足りるのです。残りは容器に入れてそれぞれ冷蔵庫に収納するのでした。

 最後に、なた漬けと昨日作った切り干し大根の煮物を小鉢に盛り付けて、午前中の仕込みは終わりです。11時過ぎに家に戻って、昼の支度を始める亭主。女将が「随分と早かったわね」と言うから、暖かいから身体の動きがいいのかも知れないと思うのでした。玉葱や人参、キャベツを刻んでカレー炒飯を作る支度をするのでした。冷凍したご飯をチーンしている間に、肉と具材を高温で炒めて、卵と塩とカレー粉を入れて一振りすればはい出来上がり。

 蕎麦の残った先週までとは違って、久し振りに炒飯を食べた気がするのでした。具材はやはり小さく切った方が美味しい。ワカサギの南蛮漬けがカレーにはとてもよく合う。先週店で残ったレタスに若布を入れたコンソメスープもなかなかの味。食後もすぐには昼寝に入らずに、確定申告に必要な源泉徴収書などを、机の上に積み上げられた書類の中から探し出し、後は確定申告書を作成するだけにして、やっと昼寝の時間になるのでした。

 女将はその間にスポーツクラブに出掛け、亭主は1時間ほどで目覚めて食堂に行って果物を食べる。暖房を入れなくても十分に暖かいから、ゆっくりと午後の陽射しを浴びながら、テレビの映画を観るのです。女将が帰った3時過ぎになって、再び蕎麦に出掛けた亭主は、蕎麦豆腐を仕込んで明日の準備を整えて家に戻るのでした。夜は地域の防犯パトロールがあるから、夕食は4時半前に食べて、6時からのパトロールに備えるのです。風は強く暖かな宵です。



3月2日 木曜日 暖かな一日だっけれど …


 庭の姫水仙が咲いた。去年よりも少し早いような気がする。急に春めいた陽気になる頃に咲く花なのです。蕎麦屋に行くにも上着はもう要らないほどで、ポロシャツの上にベストを羽織って出掛けて行く亭主。朝の仕事を終えたら蕎麦打ち室に入って、加水率47%で今朝の蕎麦を打つ。絶妙な柔らかさで捏ね上げて菊練りにしたら、ヘソ出しをして上から潰して蕎麦玉にする。ポリ袋に入れてしばらく寝かせます。厨房に戻って次の仕事の段取りを調えておく。

 この間に冷蔵庫からほうじ茶を出して水分補給をしておきます。再び蕎麦打ち室に入って、蕎麦玉を掌で伸していく。柔らかいからすぐに伸し広がり、伸し棒を使って少しずつ正円になるように丸出しを始める。このところ47%の加水率で打っても、柔らかすぎて上手くいかないということがないから嬉しい。綺麗に四つ出しも出来るし、角もしっかりと取れるから好いのです。八つに畳んで切りべら26本で135g~140gの蕎麦を八束取るのです。端切れは50gほど。

 暖房も入れていないのに、厨房の温度計は15℃を表示していました。10時前に蕎麦を打ち終えているから、やはり柔らかめの生地の方が効率よく蕎麦が打てるらしい。大根と生姜をおろして容器に入れる。生姜は開業する時に、河童橋で買い求めたステンレス製のおろし金の裏で擦ると、綺麗にすり下ろせるのが10年経ってやっと判った。薬味の細葱を刻み、次はいよいよ金柑大福を包むのです。ここで時計は10時10分。二つの大釜に火を点けておきます。

 それにしても室温が15℃なのになぜ寒く感じないのだろうかと、疑問がわき起こるのです。ついこの間までなら、蕎麦打ち室でも、16℃はないと寒いと感じていました。湿度計が54%を表示していたから、どうやら湿度が高いと少し暖かく感じるのではないかと思えた。寒い時期は湿度はいつも30%台なのでした。金柑大福を包むのに、白玉粉を今日は65gにして、求肥を少し薄めに作ることにしました。段々と量が多くなって大きな大福になっているのを反省。

 野菜サラダの具材を刻んでいつものように三皿だけ盛り付ける。味見で食べたパイナップルもトマトもとても美味しいから、食材の選び方はやはり重要なポイントなのだと再認識するのでした。ハウスで作るトマトも一つ60円、アスパラガスも一本35円もするから、11種類の野菜を使うサラダも、刻む手間の割には300円ではあまり儲けはないのです。それでも、これ以上の値段ではちょっと高いという印象があるから、野菜の値段の高低にかかわらず同じ値段。

 空も晴れて暖かな午前中でしたがお客は来ない。月曜日の混みようはやはり給料日後の一時のものだったのか。昼を過ぎて、いつもの常連さんがいらっして、今日は辛味大根はなしで、キノコつけ蕎麦と野菜サラダのご注文。他にお客もいなかったから、一時間近く話をされて、帰って行かれた。暖かな日だったから、女将も早くから来てくれたけれど、その甲斐もなく時間になったら暖簾を下ろして、二人で家に帰るのでした。なぜか空振りの春めいた一日 … 。



3月3日 金曜日 ひな祭りも遠い昔 …


 午前6時前の東の空は、まだ日の出前だからほの明るいだけ。足のスネが痒くて堪らないから、昨日近所の皮膚科に電話をしたら、午後は予約の方だけだと言われて、何とか午前中に行こうと考えたのです。朝飯前のひと仕事で蕎麦を打っておけば、9時からの診療に間に合って、蕎麦屋の開店までに準備が出来るのではないかと、かなり無理な事を始めたのです。蕎麦は500gだけ打って、11束を用意した。30分ほどで打ち終わるから後は野菜サラダの具材を刻む。

 それでも途中で7時前になったから、具材を途中で冷蔵庫に入れて家に戻る。台所では女将が朝食の支度をしてくれていた。昨日残った野菜サラダに豚肉を載せた蒸し野菜が、今朝のおかずなのでした。亭主はサラダはご飯のおかずにはならないと思ってはいるけれど、作って残した責任上、目をつぶって小皿に二杯ほど取って食べるのです。身体が温まるし、繊維質も摂れて、肉でタンパク質を補給できるから、理屈では理想的な食べ物らしい。

 朝が早かったから、食後に少し書斎で横になったけれど、今朝のスケジュールを思うと、ちっとも眠れないのです。8時半には家を出て、スカイプラザの中にある皮膚科に出掛けるのでした。ところが8時45分受け付け開始なのに、もう人が並んでいるから驚いた。受付番号が8番で、診察までに40分は待ったのです。一年ぶりに顔を合わせる女医さんは赤く腫れた亭主のスネを見て「保湿クリームとかつけないのですか?」とあきれ顔。乾燥性の皮膚炎なのだとか。

 薬局で処方された薬をもらうのにも随分待たされて、家に車を置きに帰ってそのまま蕎麦屋に出掛ければ、もう10時半なのでした。それでも、野菜サラダを刻むいつもの時間だから、なんとか間に合うのでした。窓の外にはヒヨドリが飛んできて、じっとこちらを見ている。近くで見ると随分と大きな鳥なのです。厨房で亭主が立ち上がると、パタパタッと飛び退いて、今度は玄関の脇の柊南天の葉の上に止まって、実を食べている。鳥は随分と目が好いのです。

 野菜サラダもいつものように三皿盛り付けて、昨日作った金柑大福を冷蔵庫から出して並べる。昼を過ぎた頃から、パラパラとお客が入った。皆さん、リピーターの方で、前半4人で一区切り。食器を洗う暇があったから助かった。しばらく間が開いて、1時半近くに若い背広姿の男性客が二人、ぶっかけ蕎麦を温かい汁でご注文。これで終わりだろうと思っていたら、ラストオーダーの時間に職人風の男性が3人でご来店なのでした。天せいろ三つのオーダー。

 大盛りの蕎麦も出たから、生舟の中の蕎麦はほとんどなくなり、天麩羅の具材や大根おろしも足りなくなって、途中で切り分ける有様。昼を食べる暇もなく、洗い物を片付け、テーブルを拭いて回るのでした。疲れたという気持ちと、お客が来て好かったという気持ちで、これから暖かくなるとこんな日が続くのかと思いやられる。亭主一人で営業の日は月曜日と金曜日の二日なのに、どちらも混んだから大変なのでした。有り難いと思わなければいけないのです。




3月4日 土曜日 お蕎麦15食完売の土曜日 …


 混んだ日の翌朝は仕事が多い。今朝も5時半には家を出て、朝飯前に昨日の洗い物を片付け、小鉢を盛り付ける。お新香と大根のなた漬けと切り干し大根の煮物を取り混ぜて、10鉢以上作っておくのでした。そして、天気が好くなって暖かいという週末だから、蕎麦はほとんど残っていないので、朝のうちに一回打っておくことにしたのです。コロナ以前にもこんなことがあったのかしら。1年前のことも好く覚えていないのに、ましてや3年前のことは …。

 750g 八束の蕎麦を打ち終えた頃に、やっと陽が昇る。少し雲が出て、朝日に照らされてとても綺麗なのでした。7時には家に戻り、女将の用意してくれた朝食を食べて、お茶をもらったらすぐに書斎でひと眠りする亭主。朝から力仕事をしたものだから、疲れたと見えて一時間近く寝込んでしまったのです。髭を剃って着替えを済ませ、9時過ぎに家を出るのでした。蕎麦屋に着いたら、朝の仕事を終えて、早速、二回目の蕎麦を打たなければならない。

 玄関脇の馬酔木の花が膨らんできた。暖かな陽当たりの好きな花なのです。二回目の蕎麦打ちは500g 五人分。昨日の残りと合わせて今日は15食の蕎麦を用意しました。コロナ禍もあるけれど、冬場の寒い時期の週末には、絶対に出ない数だけれど、今日はこれがすべてなくなったから驚きなのです。やはりコロナ野感染者数も減って暖かくなったから、お客が少し戻ってきたという印象です。リピーターさんの顔が結構あったから嬉しいのでした。

 昼を過ぎたらご夫婦のお客がいらっして、ヘルシーランチセットの天せいろを頼まれ、いきなり野菜サラダと金柑大福が二皿ずつ出たのです。その後は、次々とお客が続いたから、亭主も女将もてんてこ舞いで、今日は大盛りもかなり多く出た。奥の座敷でひと休みしようとお茶を持って入ると間もなく、「お客さんですよ」と女将が呼ぶ声がする。店の中は暖かく、換気のために窓を少し開けていても、誰も閉めようとはしなかったから、外も暖かくなって来た。

 1時を過ぎても客足は止まらず「いつもお客が一杯で入れないんですよ」と言うお客が、今日は二人とも大盛りの蕎麦を頼まれる。15食の蕎麦を用意したのは大正解で、最後の二人お客で綺麗に生舟の中が空になった。女将も珍しく腰が痛いと言っていた。亭主は屈んで洗い物をする物だから、とっくに背中が痛くて堪らなかった。それでも、二人で片付けをして3時には家に帰ることが出来たのです。夕飯は亭主がさぼてんで熱々のトンカツを買って帰った。

 昨日も亭主は疲れて夜のプールには行けなかった。今日も疲れすぎて昼寝も出来なかった。小鉢も蕎麦汁もなくなったから、夕食を食べてひと休みしたら、亭主は一杯飲んだので、暗い夜道を歩いて蕎麦屋に出掛けるのでした。お客が帰った後で昆布と干し椎茸を浸けておいた鍋に火を入れて、お新香を盛り付けていく。一番出汁で蕎麦汁を仕込み、二番出汁で天つゆと温かい蕎麦の汁を仕込む。火の元を確認して家に戻れば、もう風呂を沸かす時間なのでした。