2023年2月下旬


2月20日 月曜日 


 今朝は6時起床。6時半には家を出て蕎麦屋に向かうのでした。風もなく暖かな朝だったから、晴れた空を眺めて今日のお客の入りを占う亭主。蕎麦屋に着けば、東の森の梢の間から、ちょうど朝日が昇るのが見えたのです。昨日の洗い物の片付けを終えて、コンビニに寄って煙草を買って家に戻れば、女将が出汁巻き卵を作ると言った亭主の帰りを待ちかねていました。我が家の食材は月曜日の店の残り物があるので、一週間でなくなるように考えられている。

 朝食を終えてひと休みしたら、今度は歩いて蕎麦屋に出掛ける。空も青いし、陽射しも暖かく、あちこちのご近所で白梅が咲き出しているのは春の兆しか。蕎麦屋の駐車場では、暖かな朝日を浴びながら、スズメたちが朝の会話を交わしている。早朝に暖房を入れたままにしておいた店の中は、もう20℃になっていて、蕎麦打ち室も18℃で、今朝は47%の加水率で蕎麦粉を捏ね始める。それでも少し柔らかめで、打ち粉を振りながら伸していくのでした。

 切りべら25本で140gの束を生舟に加えて、11食の蕎麦を用意するのでした。蕎麦汁は徳利に7つしかなかったので、一番出汁にかえしを加えて作り、足りない分を補っておく。小鉢はお新香と切り干し大根の煮物が5鉢あったけれど、これはそのままにしておく。足りなくなったら補充すれば好いのです。むしろ、余ってしまって、またタッパに入れて家に持ち帰る時のことを考えているのです。客が来なくても作っておくのは金柑大福と野菜サラダです。

 気温は高くなりそうだから、お客が来れば野菜サラダも出そうな気がしたのだけれど、開店の準備が終わって暖簾を出せば、一時間経ってもお客は来なかったのです。散歩に出る人の姿もちらほらと見えるけれど、蕎麦屋に立ち寄る人はいないのです。1時まで待ってもお客が来ないので、ワカサギの天麩羅を揚げて、賄い蕎麦を食べておく。季節外れの稚鮎がちょうど切れたので、旬の魚を天麩羅にしたらとうかと思ったのです。ちょっと骨っぽいのが難でした。

 ひと休みして後片づけを始めたけれど、お客が来なかったので洗う物は、具材を入れて一週間使った容器や自分で食べた椀だけ。それでも、大釜と天麩羅鍋は自分が使ったばかりに、洗わなければならなかった。洗濯物もほんの少しだけなのでした。3時前には家に戻って、女将の帰るのを待つのです。夜は店で残ったハラミとカシラの串焼きを焼いてもらって一献。残った具材を揚げて帰った天麩羅を焼いて、晩のおかずにするのでした。



2月21日 火曜日 晴天で冷たい風の強い日 …

 定休日だけれど、いつもと同じ時刻に目が覚めて、ゆっくりとお茶を一杯飲んだら、蕎麦屋に出掛けていく亭主。昨日洗ったバットやボールなどを片付けて、洗濯機の中に入れたままの洗濯物を干したら朝飯前のひと仕事はお終い。玄関を出れば、ちょうど東の森の向こうから太陽が昇ってくるところでした。6時40分過ぎだから、随分と日の出が早くなったのです。今日も一日天気が好さそうなのです。空気が冷たいからのか花粉症気味なのか鼻水が止まらない。

 家に帰れば今朝は久し振りに蒸し野菜で、身体が随分と温まったのです。髭も剃らずに歯磨きもしないで30分ほど眠たら、お袋様に電話をして仕入れに出掛ける。「寒いねぇ」と言って車に乗り込むから、雲一つない青空でしたが、外はかなり風が強いのです。先日漬けた白菜のお新香の残りを持たせたら、とても美味しく漬いていたと言うので、農産物直売所で今日は大きな白菜を一つ買っておいた。トマトも椎茸もニンジンも新鮮なものがそろっていた。

 隣町のスーパーに出掛ければ、今日は大根もキャベツも随分と小さな物ばかり。農産物直売所のものも同じだったから、そんな時期なのだろうか。買い出しのメモに載せた品物はアーリーレッド以外は全てそろって、代わりに赤キャベツを買って帰る。調理台に買ってきた野菜を並べて、買い忘れたものはないかをもう一度チェックするのでした。冷蔵庫にこれらを収納し終えたら、まな板を出して白菜を切り分け、塩をまぶしながら樽に漬けるのです。

 ところが、四分の三ほど漬けたところで、小さな樽では漬けきれないと判って、漬け物器に残りを漬けて圧力を掛けておく。水が少し上がったら、合わせれば好いと考えたのです。今までも白菜一把なら小さな樽で間に合ったのに、今日の白菜は特別に大きなわけでもないのに不思議だった。葉の厚い部分が多かったのかも知れないのです。上手く漬かった時には、葉の厚い部分が多い方が美味しいと言うから、仕上がりが楽しみなのです。

 家に戻れば、まだ女将は買い物から帰っていなかった。亭主が書斎でパソコンに今日の買い物を入力している間に、女将が帰ってきて、昼に蕎麦を茹でる鍋を火にかけてくれた。沢山残った蕎麦を少しでも早く消化しようと、亭主は大盛りで蕎麦を茹でる。お新香の残り物もとても好い味なのでした。レンコンの天麩羅が美味しいと店のお客が言っていたけれど、確かにしっかりとした歯ごたえと味があるのでした。少し厚味を持たせて切ったのが好かったのか。

 大盛りの蕎麦を食べて満腹になった亭主は、女将のスポーツクラブの予約の時間まで、書斎に入ってひと眠りです。午後の陽射しが部屋中に広がって暖かくて気持ちが好かった。それでも太陽の高度が上がったらしく、奥の方までは陽が差さなくなったのです。一時間ほどで寝覚めて、無事に予約を済ませたら、珈琲を入れてテレビの映画を見ながらゆっくりとする。「赤壁の戦い」の後半部分だったから、4時前まで見てやっと蕎麦屋に出掛ける。

 蕎麦屋にも西向きの窓から午後の陽射しが差し込んで、店の中は暖かい。やはり花粉症の症状なのか、鼻水が朝から止まらないのでした。いつもならアレルギーのある女将の方が酷いのに、ヨーガのお蔭か今年は亭主が突然発症している様子だから怖いのです。数日前からどうも目がしょぼしょぼしているのも、やはり花粉のせいなのかも知れない。夕刻の仕事は出汁を取って蕎麦汁を仕込むだけ。1時間ほどで終わって家に戻るのでした。




2月22日 水曜日 快晴の春を思わせる陽射しでしたが …


 今朝も寒かったけれど青空が広がって春めいた陽気でした。6時過ぎに蕎麦屋に出掛けて車を降りれば、東の森の間からあさひが昇るのが見えたのです。大きな太陽がはっきりと目で見えて、日の出の早くなったのを実感するのでした。室温7℃の蕎麦屋に入って、エアコンの暖房を入れる亭主。気になっていたのは、白菜の漬け物で水が上がっていたから、昨日分けて漬けたものを一つの桶に移して再び漬け込む。蕎麦汁の補充をして朝のひと仕事は終わりです。

 家に戻れば、女将がやっと雨戸を開ける時刻。今朝のおかずは鰺の開きと蒸し野菜で、とても豪華に見えたのです。最近の干物は随分と薄味になったねと女将と話をする。冷蔵技術の進歩で食べやすくなっているのだと言うのが、二人の一致した意見なのでした。お蔭で毎日のように魚を食べる夫婦には嬉しい事なのです。こんな美味しい料理をお客に食べさせたいと思うのは、蕎麦屋の開業を選んだ亭主には、所詮、かなわぬ夢でしかないかないのでしょうか。

 朝食を終えて珈琲を一杯飲んだら、今朝も元気に蕎麦屋に出掛ける亭主。明日の祭日の小鉢にと、仕入れ先の若者が持って来たワカサギを解凍して、天麩羅にして上げたら南蛮漬けを仕込んでおく。胡麻油を使う蕎麦屋の悩みで、高価な油を汚さないように、天麩羅以外ではなかなか揚げ物は作れないのです。昼の小鉢にと、味見用の南蛮漬けを持ち帰れば、女将も美味しいと食べてくれた。沢山残った蕎麦を、今日はキノコ汁につけて大盛りで食べるのでした。

 満腹になったら、書斎に入ってひと眠り。女将はその間にスポーツクラブに出掛けていく。今日は夜にプールへ行くだけだから、残った仕込みは蕎麦豆腐の仕込みと白菜のお新香の漬け直しと、天麩羅の具材の切り分けだけだったので、午後はゆっくりとテレビの歴史映画を観て、それでもあまり長いから、途中で床屋に行っておこうと思い立つ。明日が祭日だからか、年配の方の先客がいて待たされたけれど、さっぱりとして家に戻るのでした。

 床屋のご主人が「今日はもう22日か」と言うので「私も確定申告の書類を揃えただけで手を付けていないのです」と言えば「そうなんだよ」とお互いにこの時期の余分な仕事の多いのを嘆く。随分と待たされたお蔭で、蕎麦屋に行って午後の仕込みをする時間がなくなって、家に戻って早めの夕食を摂るのでした。夕食を終えて、白菜の漬け物だけは漬け直そうとと、蕎麦屋に寄ってから夜のプールに出掛けるのでした。休みの前だからかいつもより混んでいた。



2月23日 やはり春は近いのかな …


 曇り空で暗い朝でした。それでも6時になったら蕎麦屋に出掛けて、昨日準備できなかった蕎麦豆腐を仕込み、小鉢に白菜のお新香とワカサギの南蛮漬けを盛り付け、天麩羅の具材を切り分けたら、やっと、いつものペースに戻るのです。家に戻って朝食を食べて、今朝も書斎でひと眠りする亭主。30分ほどで目が覚め、しばらくぼーっとしている。若い頃は目が覚めるとすぐに動き出したものですが、歳を取るとすぐには動けずに座り込んでいることが多い。

 朝の仕事を終えたら、早速、蕎麦打ちにかかるのです。祭日でも今日の天気ではお客の数はいつもと変わらないと予想して、750gで8人分の蕎麦を打つ。蕎麦粉を捏ね終えて、厨房で捏ね鉢を洗うのでしたが、もう10年以上も使った鉢は、すっかり色あせているのでした。高級なものならば、漆を塗り直して使うのでしょうが、果たしていつまで使える物やら。漆が剥がれてこないからと、いまだに使い続けているのです。亭主にとっても未知の領域なのでした。

 加水率は47%で、蕎麦粉を捏ね始めたけれど、いつもと違って多少柔らかめの生地に仕上がった。蕎麦打ち室の室温は16℃とこれもいつもと変わらないから、不思議なのでした。切りべら26本で135gの蕎麦を8人分と半分取って生舟に並べる。少し柔らかめの生地でも最近は打ち粉を振って、綺麗に切ることが出来るようになったのは進歩なのか。蕎麦打ちは毎回のようにワクワクとして本当に面白いのです。食べてなんぼの世界だから、お客の反応が楽しみ。

 厨房に戻ってから金柑大福を包み、野菜サラダの具材を刻んでいたら、まだ開店までは時間があるのに、駐車場に車が入ってくる。見れば水戸ナンバーだったから、遠い所を来てくれたのかと、女将に言って店の中で待ってもらうのでした。天せいろの大盛りと普通に、野菜サラダを頼まれたので、急いで野菜サラダを一皿だけ仕上げる。聞けばこの辺りにはよく来るというので、「私も茨城生まれなのですよ」と亭主が話して打ち解けるのでした。

 蕎麦が美味しかったと言って帰られるお客を見送って、やっと暖簾を出す始末。曇り空で外は以外と空気が冷たかったら、その後はお客が続かないのです。1時を過ぎた頃に見覚えのある車が駐車場に入って、久し振りに女先生がやって来た。ぶっかけ蕎麦を温かい汁でご注文だったから「元気でやっていますか」と言葉をかけて、野菜サラダをサービスで出して、その間にかき揚げと天麩羅を揚げるのでした。陽も差して暖かい祭日なのに今日これで終わり。

 祭日だから女将はスポーツクラブもない。亭主は書斎でひと眠りして、先日、買って来た挽肉と焼売の皮で焼売を作る。これが今日の夜のおかずになるのでした。夕刻に酒を買いに近所の酒屋まで出掛ければ、業者の若者から電話が入って「天ぷら粉が入りました」と言うのです。急いで店に出掛ければ、もう玄関口で待っているではありませんか。今日は珈琲も入れてあげられずに、会計を済ませて彼は帰る。明日も今日と同じ天気だと言うけれどどうなるか。


2月24日 金曜日 梅一輪 ひと雨ごとの暖かさ …

 プールに出掛ける時刻にはもう雨が降り始めていました。金曜日のプールは空いているから、今日は一人ひとコースでゆっくりと泳ぐことが出来たのです。3掻きに一度の左右呼吸で進むクロールも身体が軽いと感じたし、バックストロークも今日は調子よく進んだから、少しはリハビリの成果が出て来ているのかも知れない。帽子も被らず靴下も履かずにロッカールームを出て、下の階にあるスーパーで魚と果物を買って家に帰るのでした。

 今朝は朝から曇り空で気温は今までよりも高いのに、なぜか暖かく感じられなかった。女将も「やっぱり青空と太陽が出ないと寒く感じるわね」などと言っていたのです。蕎麦屋に着いて朝の仕事を終えたら、エアコンを入れて昨日の洗い物の片付けをして、珈琲を一杯飲んだら蕎麦打ち室に入る。室温はすぐに10℃を越えて、12℃で蕎麦を捏ね始めたら、昨日と同じ加水率ではやはり硬く感じるのでした。湿度よりも気温に関係があるのは明らかなのです。

 それでも、なんとか伸し終えて、切りべら26本で140gほどの束を五つ生舟に並べ、昨日の残りの蕎麦と合わせて今朝は10食分の蕎麦を用意する。生地が硬いと捏ねるのも伸すのも大変だけれど、包丁切りになるとべたっと包丁の刃にくっつかないから、綺麗に切っていけるのが好い。10時過ぎには厨房に入って、大根をおろし、野菜サラダの具材を刻み始めました。11時には開店の準備が終わって、テーブルやカウンターをアルコール除菌液で拭いて回る。

 今日は昼前に若い男女のカップルが車でいらっして、天せいろの大盛りと普通盛りをご注文でした。後から金柑大福を二つ頼まれて「これは美味しい」と喜んでくださった。1時過ぎにまた若いカップルがご来店で、天せいろを二つご注文なのでした。外は曇り空だけれど、暖かくなっているから天せいろが出るのだと、亭主には思えるのです。今日はこれでお終いかと片付けを始めたら、閉店間際に歩いていらっした男性客が、せいろ蕎麦の大盛りを頼まれる。

 天麩羅の具材は片付けてしまったからちょうど好かった。一皿だけ残った金柑大福をサービスでお出ししたら、「恐縮です」とかしこまった言い方で礼を言い、美味しそうに食べてくださった。スルスルスルッと音を立てて蕎麦を食べるのが小気味よく、蕎麦粉を溶いて作った蕎麦湯も綺麗に飲み干して帰られたから、きっと蕎麦の好きな人なのだろうと嬉しくなったのです。小鉢にはワカサギの南蛮漬けを出したから、好い印象を持ってもらえたかな。

 洗い物を終えて2時半になったところで、残りの蕎麦を計算してみたら、大盛りが二つ出たから今日は6食分の蕎麦が捌けたことになる。賄い蕎麦で亭主が一束食べて仕舞うと、混むかも知れない明日に打つ蕎麦の数が足りない。蕎麦打ちを一回だけで済まそうとすれば、4食残して明日8食打てば12食だから、何とか足りる。仕方がないので、非常食として買ってあったカップ麺の「焼津」という凄麺を食べて昼を済ませるのでした。当然、蕎麦の方が美味しい。

 コロナ禍以後は、平日にしては5人、6人と言うお客の数は普通だから、やっと普通の営業に戻ったのか。晴れると言う明日からの週末が今月の収支の分かれ道。外はまだ雨が降っているけれど … 。早春のこの時期はひと雨毎に暖かくなって来る。ご近所の梅の花も白やピンクや赤いのが次々と咲き出しているのです。霊犀亭の天麩羅を載せる天紙も、この時期は梅の花が描かれているものを使っているけれど、最近はそこまで気が付くお客が少なくなった。


2月25日 土曜日 朝は霧が凄かったけれど …

 夕べは夜遅くまで雨が降ったせいで、朝の通りは濡れていた。早朝の深い霧も晴れて、今日は一日天気が好いのかと思ったら、昼過ぎにはもう曇ってきたのです。夜のプールで疲れたからか、今朝は朝飯前のひと仕事に出掛けられなかった。その代わりに、朝食前にもう着替えを済ませて、いつもより一時間近く早く家を出る。昨日の洗い物の片付けや、小鉢の盛り付けなど、終わっていない仕事が沢山あるのでした。ワカサギの南蛮漬けももうこれで終わり。

 向かいの畑を見れば、朝日が当たって地面から湯気が出ているではありませんか。これが今朝の濃い霧の名残りなのか。陽射しは強くなってきたけれど、空気はまだ冷たくて、いつもの年の春はこうやって来ていたのだったかと、新鮮な気持ちで朝を迎えるから暢気なものです。蕎麦屋に入れば室温は朝からもう10℃もあるから、確かに暖かくはなっているのです。それを感じる自分の方が、まだこの陽気に慣れないだけで、寒く感じるのだろうかと寂しくなる。

 室温14℃の蕎麦打ち室に入って、加水率47%で蕎麦粉を捏ね始めれば、今日はやけに柔らかく感じるから不思議なのです。打ち粉を多めに振って丁寧に伸して畳むのだけれど、包丁切りをすればやはり多少切りむらが出来るほどの柔らかさ。何とか切りべら24本にして、140gの蕎麦を仕上げる。昨日の蕎麦と合わせて12食の用意で週末の営業を開始するのでした。厨房に戻って金柑大福を包み、野菜サラダの具材を刻んで、開店時刻の10分前には暖簾を出す。

 日が出て暖かそうなのでしたが、外は冷たい北風が吹いて散歩に出る人もいない。各週でいらっしゃるカレーうどんのご夫婦が、開店と同時に来て下さって、ご主人はいつもの野菜サラダの付いたカレーうどんで、奥様は珍しく辛味大根とせいろ蕎麦、そしてハラミとカシラの串焼きを頼まれて、開店から女将と忙しく動き始める。亭主は奥の座敷に入ってやっとひと休みするのでした。次のお客がなかなか来ないので、女将は店の新聞を広げて読んでいる。

 昼をだいぶ過ぎた頃に車が1台入って来て、男性の一人客がテーブル席に座る。天せいろのご注文だったから、亭主はすぐに天麩羅を揚げ始めるのでした。結局、今日のお客は三人切りで、昨日よりも少ないので驚いた。天気も昼前から下り坂で、冷たい北風の吹くうえに、どんどん曇ってきたからお客が来るはずもない。先ほどのお客は蕎麦湯も綺麗に飲み干して帰られたから、やはりよほど蕎麦の好きな人でないと、この陽気では蕎麦屋には来ないのか。

 二人で早く家に戻って、亭主は例によって書斎でひと眠り。買い物に出掛けた女将が帰って、「こんな少ししか買い物をしなかったのに4000円だから、随分と値段が上がっているのね」と驚いていたのです。5時半過ぎには亭主が夜の防犯パトロールに出掛けるからと、夕飯代わりに餅を二つ焼いてもらい、集合場所に出掛ければ、寒くなったのに今日は随分と人が集まった。地域の犯罪動向の報告を受け、嫌な時代になったと話しながら歩き始めるのでした。