2022年12月初旬

12月7日 水曜日 初霜の朝 …

 今までになく寒い朝でした。そのせいかぐっすりと眠れた。6時前に目が覚めて、お茶を飲んでテレビのニュースを見る。まだ外は明るくならないのです。6時半前に家を出て蕎麦屋に向かえば、朝靄がかかって、向かいの畑は真っ白に霜が降りていました。今年の初霜です。室温8℃の店の暖房を入れても、すぐには暖かくならないので、まずは大釜に湯を沸かして小松菜を茹でる。半分はラップでくるんで急速冷凍しておきます。残りはタッパに入れて冷蔵庫。

 茹でたお湯は蒸気で厨房が暖かくなるからそのままにして、昨日塩漬けしておいた大根の水を絞ってボールに取り、甘酒の素と砂糖を入れ、冷凍してあった柚子皮と唐辛子を輪切りして掻き回す。これで容器に入れておけば自然と味が馴染んでくるのです。窓から外の様子を窺いながら、日の出前になった頃合いを見計らって玄関を出れば、ちょうど朝日が空を明るく染めている。また少し日の出の位置が東に移ったような気がする。寒くても気持ちの好い朝です。

 犬の散歩で蕎麦屋の常連の小母さんが「お早うございます。今朝は寒いねぇ」と声をかけてくれたから「お早うございます。初霜ですね」と挨拶を交わす。相手のかおがやっと見える程の明るさ。以前は5時半頃には散歩に出ていたのに、今はまだ暗い時間だから、夜明けを待って家を出てきたらしいのです。古くからの地元の人だから、この界隈のことは何でも知っている。バス通りを夾んだ団地に住む亭主は、近所の人に会えば挨拶を交わしても何も知らない。

 日々の生活に忙しいばかりで、それだけ人と人との繋がりがないのでしょう。昔ながらの地区の人たちは畑があるから家は離れていても、皆さん隣組で情報を交換しているのです。家に戻れば女将が寒いから寝坊をしたと言ってやっと台所に入る。定休日だから亭主も慌てずにストーブに当たって暖を取っている。今朝は赤身魚の焼き物と茄子焼き。青森産の大蒜に醤油で甘い味が出て、これだけでもうご飯が進むのです。満足したら書斎に入ってひと眠り。

 夕べは十分に眠ったのに、食後のひと眠りも一時間は寝た。これで昨日の寝不足は解消されたと感じるのでした。10時前に家を出て蕎麦屋で午前中の仕込みを始める。蕎麦豆腐を仕込んで切り干し大根の具材を刻み、胡麻油で炒めたら二番出汁を加えて煮込む。出汁醤油と砂糖で味付けをしたら、火を止めて冷ましてタッパに入れるのです。早朝のなた漬けとこの切り干し大根とで、明日の小鉢二種類は完成。海老の天麩羅を揚げて家に持ち帰るのでした。

 今日は珍しく天麩羅に華を添えたから、大型の海老が更にボリュームが出た。溶いた天ぷら粉が残るのが勿体なかったのです。11時半に家に着けば、女将が鍋にお湯を沸かして、蕎麦を食べる準備を整えている。晴れて日中は気温も上がるから、家の中は暖房も入れていない。「揚げたての天麩羅と茹でたての蕎麦が美味しい」と女将が言えば「今は天麩羅の華も嫌われるからね」と亭主が応える。華も散らさずにエビ天を出すのが蕎麦屋の日常なのです。

 昼食に満足したら書斎に入ってまたひと眠りする亭主。いったいどれだけ眠れば気が済むのかと、自分でも不思議でならない。1時間ほどぐっすりと眠ったら、女将はもうスポーツクラブに出掛けていた。亭主は珈琲を一杯飲んで蕎麦屋に出掛ける。午後の陽射しが西側の小径に降り注ぐ時間帯だったので、まずは懸案だった木槿の剪定から始める。葉が落ちて枝が道路に出ている部分を、90㍑の袋をぶら下げながら、綺麗に切りそろえていく。汗をかく一時間。

 厨房に戻ってからの午後の仕込みは、天麩羅の具材切りと南瓜のチーンと蓮根を茹でるだけ。4時過ぎにはこれも終わって家に帰って、女将に餅を焼いてもらって早い夕食を軽く食べておくのです。今日は夜の防犯パトロールがある日なので、女将は一人で夕食を食べるから、亭主は帰ってから酒の肴を作れば好い。寒い夜なのに、亭主よりも年上の老人たちが集合場所に集まってく来る。明日も氷点下の朝らしいから、なんとか凌げれば好いと思う夜です。


12月8日 木曜日 霜の朝、日中は晴れて暖かく …

 今朝も寒い朝でした。日の出前の東の森まで続く畑は真っ白な霜が降りているのでした。この間、大根と里芋を持って来てくれた向かいの農家の親父様が、蕎麦屋まで歩いた足跡がそのまま凍って残っていました。店に入って暖房を入れたら、お湯を沸かしてほうじ茶を入れる。昨日のうちにいろいろと準備は済ませているから、今朝はこれと言って別に仕事はないのです。それでもやはり店に来て今日の段取りを考える。洗濯物を畳んで戸棚に入れる。

 そして、レンジ周りの掃除を済ませて家に戻るのです。女将が台所に立って朝食の支度をしていた。寒くなったせいか、以前よりは少しだけ時間が遅い。ご飯を食べ終わるのが7時半になるから、お茶を飲んで一服すれば、もうひと眠りする時間がないのです。それでも亭主は書斎に入り15分でも横になる。女将の朝ドラが終わる時間には起き出して、洗面所で髭を剃る。顔を洗えばもうすっかり目覚めて、珈琲を入れて一服すればもう9時10分前なのでした。

 「行って来ま~す」と玄関を出れば、眩しい朝の光に輝く黄色い金柑が目に飛び込んでくる。雲一つない青空が広がって、陽射しは暖かいのです。蕎麦屋までの道程を、家の影にならない日向を選んで歩く亭主。その昔、息子と同級生だったお隣の奥さんが、犬を連れて散歩に出るのに出会って挨拶を交わす。看板を出し、幟を立ててチェーンポールを降ろしたら、蕎麦打ち室に入って今日の蕎麦を打ち始めるのです。乾燥しているから今朝は44%強の加水率。

 菊練りを済ませて蕎麦玉を仕上げたら、厨房に戻って大根と生姜をおろす。再び蕎麦打ち室に入って、綺麗に丸出しまで進んで、今日も上手く蕎麦か打てると確信したのです。この正円の出来は生地が均等な厚味でないと作れない。四つ出し、本伸しと進んでも形が崩れないから、八つに畳んで包丁切りをしても上手くいくのです。750gの蕎麦を打って8人分の蕎麦の束を生舟に並べて、万が一、足りない場合は、今日と明日の亭主が食べる分の蕎麦がある。

 月曜日に打った蕎麦だけれど、一番綺麗な出来の蕎麦を二束残してあるのです。厨房に戻って金柑大福を四皿分包み、野菜サラダの具材を刻んで、三皿盛り付けておきました。大釜に沸いたお湯をポットに詰めて、天麩羅油と天つゆの鍋とキノコ汁を温め、テーブルをアルコールで拭いて回ったら、いよいよ暖簾を出す時間なのでした。開店に合わせたかのように、常連の仲好し三人組のお婆さん達がご来店で、今日は寒いからと珍しくキノコつけ蕎麦をご注文。

 野菜サラダも頼まれて、キノコ汁もサラダもこれで完売なのでした。蕎麦を出し終わらないうちに、少し若いご夫婦がカウンターに座って、せいろ蕎麦の大盛りと天せいろのご注文。昼前だというのに、生舟の蕎麦がもう残り少ないのでした。こんな時にはお客が続くもので、リピーターのお婆様が娘と孫とお友だちを連れて5人でいらっしゃる。蕎麦が4、5人分しかないと言えば、先のお客が大盛りを取り消して下さった。一挙に10人のお客で店は満杯なのです。

 一つ一つ作っては出すを繰り返すけれど、とても間に合わないので、家にいるはずの女将にSOSの電話を入れる。昼は食べ終えたらしくすぐに来てくれて、5人連れのお客の対応をしてくれたから助かったのです。時計はまだ12時を回ったばかりなのでした。5人の女性達は皆さん天せいろのご注文だったから、天麩羅を揚げては蕎麦を茹でるの繰り返し。平日に10人を越えるのは珍しい。少し遅れていらっした隣町の常連さんには、お蕎麦売り切れと謝った。



12月9日 金曜日 三日連続で霜の降りた朝 …


 午前5時半、夕べ漬けた糠漬けが気になって蕎麦屋に出掛けました。なた漬けが昨日一日で終わって、切り干し大根があと少しだけだから、週末に向けてお新香は貴重な小鉢なのです。12時間あまり漬けた割には味はほどよく食べ頃なのでした。満月だった昨日の夜の月が、有り明けの月となってまだ西の空に出ていた。外の寒さはやはり冬。暗くてまだ霜の降りているのも見えないのです。明るくなるにつれて、うっすらと畑に霜が降りているのが分かりました。

 冷凍してあった鶏肉と茸を取り出して、キノコ汁を作り足しておきます。二番出汁500ccにナメコ半袋、エノキ、舞茸を半分に、シメジをひと株分、そしてシイタケ一つをスライスして入れておく。鶏のもも肉はこの間使った残り半分を入れ、煮立つまで待って出汁醤油を加える。味を見て更に蕎麦汁を加えてつけ汁の濃さにする。出汁醤油だけだと塩味ばかりが強くなって、汁の深みが出ないのです。やはり一番出汁と返しで作った蕎麦汁の威力は凄い。

 6時半を過ぎて外が明るくなったけれど、まだ陽は昇らないのです。コンビニに煙草を買いに出掛けて家に戻れば、ちょうど7時のニュースが始まったところで、朝食の支度はまだ出来ない。車外温度は4℃を表示していたから、今朝も相当に寒い朝なのです。やっと出来上がった朝食を食べて、亭主はすぐに書斎に入ってひと眠りするのでした。15分ほどでウトウトと目が覚めたけれど、朝ドラの終わる時間までは眠ろうともうひと眠り。

 頭は起きているのに身体が目覚めない状態で、しばらく床の上に座り込む亭主。やはり7時間はしっかり眠らないと、最近は目覚めが悪いのです。洗面と着替えを済ませて家を出たのは9時少し前でした。雲が大分出ているから、今日は晴れにはならないだろうと、指先が冷たくなるのを感じながらみずき通りを渡る。もう手袋をしなければいけない季節なのか。蕎麦屋に着いていつもの朝の仕事を終えたら、蕎麦打ち室に入って今朝の蕎麦を打つ。

 昨日の反省を込めて、今朝は800g9人分の蕎麦粉を打つのです。最後の一人の常連さんに帰ってもらったのがとても残念だったのです。一束137gにしても9人分しっかりと取れるから、その週のお客の増減に応じて数は調節できる。天気が好ければお客は増えるだろうから、その見極めが大切。今日は青空が段々と雲に覆われてきたので、あまりお客は期待できない。それでも金柑大福は四皿、野菜サラダは三皿盛り付けて、開店の準備を始めるのでした。

 昼過ぎになって昨日の常連さんがいつもより早めにやって来た。「昨日は済みませんでしたね」と亭主が詫びてお茶を出す。満車だった駐車場が空くまで近くの空き地で待っていたのだそうな。昨日は歩いて来ているお客も3人いたから、平日の10人はやはりお蕎麦売り切れなのです。女将が来てくれたからこなせたけれど、一人で一度に10人はこなせない。小さな蕎麦屋の辛いところなのです。今日はパラパラとお客が来るだけで店は空いていました。

 宅配便が届いて中身を開ければ、スマホを固定する三脚が届いたのでした。「自撮棒」と箱に書いてあったけれど、メイドインチャイナの優れもの。早速、調理台に置いて試して見れば、なかなか好く撮れているではありませんか。蕎麦を打ったり、調理をしたり、手が離せないときでも撮影が出来るから、今後のブログ写真を乞うご期待です。新しいものにはなかなか手が出ない年齢なのですが、興味のあるものから少しずつ取り組んでいかなければ。

12月10日 土曜日 早朝5時半の蕎麦打ち …



 週末はどうしても蕎麦を二回打たなければならないことが多い。木、金とある程度お客が入れば、土曜日に回す蕎麦は出来ないのです。今朝も暗いうちから蕎麦屋に出掛け、まずは蕎麦粉を計量して蕎麦玉を作るところまでやっておく。外が少し明るくなったから、駐車場に出て蕎麦屋の写真を撮る。有り明けの月は鉄塔の上に見えた。日の出まではまだ時間があるのです。寒さ対策で水を張った大釜に火を入れて、水蒸気で厨房を暖める。

 それでも昨日ほど寒くはなかったから、再び蕎麦打ち室に入って今度は伸しを始める。加水率は44%、ちょうど好い生地に仕上がっているから、四隅の具合も良好。蕎麦切りは切りべら26本で135g。8人分と少しの蕎麦を取って生舟に並べたのです。昨日、残った三束と合わせて、これで11人分の蕎麦が用意できた。朝食を食べに帰って次ぎに来た時に、今度は500g5人分を打てば16人分の蕎麦が出来る計算です。年越し蕎麦を打つ大晦日の事を考えると頭が痛い。

 蕎麦打ちが終わった6時半過ぎに、やっと日の出の時刻になったらしく、ちょうど雲のかかった東の空に太陽の光が見え始めていたのです。7時前に家に戻れば、今日はいつもより早く女将が台所に立って、朝食の用意をしてくれていた。食事を終えた亭主はゆっくりとお茶を飲む暇があった。それから書斎に入っていつものようにひと眠りなのです。髭を剃って着替えを済ませたら、珈琲を入れて椅子に座って出掛ける前の最後の一服です。

 空は青く気温も昨日よりは暖かかった。早朝は暗くて見えなかったけれど、今日は霜が降りていないようでした。向かいの森の上には、幾重にも筋雲がかかって、どんどん遠ざかっていくように見えた。日中は晴れて気温も少し上がったのです。二回目の蕎麦打ちは量が少ないからすぐに終わって、厨房に入って大根をおろし、薬味の葱切りを済ませ、野菜サラダの具材切りに入る。今日は鴨南蛮蕎麦とヘルシランチセットでサラダは全て売れたから好かった。

 最初にいらっしたご夫婦はカウンターに座って、天せいろのご注文でした。天麩羅油も新しいから、綺麗に揚げてお出しする。奥様が蕎麦を一口食べて「これは美味しい蕎麦だわ」と喜んでくれた。お母様の墓参りにいらっしたそうで「また来ます」と言って店置きのパンフレットを持って帰られた。続けていらっしたのがご家族連れの若いご夫婦で、せいろ蕎麦二つにヘルシーランチセットと鴨南蛮のご注文。男の子達には早く蕎麦を茹でてお出しするのでした。

 続けて常連のご夫婦がいらっしてテーブル席に座り、天せいろとヘルシーランチセットを頼まれる。最後のデザートまでは食べ切れなかったらしく、金柑大福はお持ち帰りになる。時計を見ればもう1時過ぎだったから、人数の割には忙しく感じたのでした。洗い物が一つも済んでいなかった。ランチセットや鴨南蛮などが、手間がかかって忙しないからなのだろうと女将が言う。暖かくなったから今日はもう少しお客が来るかと思ったけれど、これでお終い。

 それでも小鉢も蕎麦汁も随分となくなったから、ひと眠りし終えた亭主は夕刻に、お新香を漬けにまた蕎麦屋へ出掛ける。予備の一番出汁があるから、蕎麦汁も作ってくる。返しが底をついたので、明日の朝は一番で返しを仕込まなければならない。蕎麦は今日打ったのが半分残ったので、一回打てば足りる計算です。小鉢は返しを作りながら南瓜の従姉煮でも作っておこうかと思う。今日ほどは天気は好くないらしいから、蕎麦は500g五人分で好いかな。


12月11日 日曜日 冷たい風の吹く午後でした …


 今朝は何故か4時過ぎに目が覚めてしまい、居間でお茶を飲みながら、ストーブを点けて暖まっていたのです。5時間しか眠っていないのに、眠り足りないと言う気がしなかったから不思議。ぐっすりと眠れたからなのでしょうか。テレビで昔懐かしいユルブリンナーの出る「太陽の帝王」という映画を観て、6時前に蕎麦屋に向かったのです。まだ真っ暗な朝だったので、厨房でまずは返しの材料を揃えて、5㍑の鍋に一杯の返しを作るのでした。

 次ぎに冷蔵庫から糠床を取り出し、漬けてあったナスとキュウリとカブとラディッシュの糠を洗って切り分けたら、小鉢に盛り付けるのでした。これで今日の小鉢は切り干し大根の煮物と合わせて、10鉢以上あるから足りるのです。6時半を過ぎて外が大分明るくなったから、日の出が見えるかと玄関を出てみたけれど、今朝も東の空には雲がかかって、太陽は見えないのです。上の空にも薄い雲がかかっているようで、昨夜の天気予報はまたもや外れ。

 それでも朝食を食べ終えて再び蕎麦屋に向かう頃には、青空も覗いて陽が差していました。今日は霜も降りていなかったから、昨日よりも更に暖かいのです。庭の金柑の実がまた黄色くなっていた。この分だと年明け前に少しは収穫出来そうなのですが、ちょっと時期を遅らせた方が甘くなるのかも知れない。大粒の金柑の種類だから、例年、蕎麦屋の金柑大福にも使っているのです。残りは女将が家で砂糖で煮て、冬場の喉の薬になると言って使っている。

 蕎麦屋までの道程は風もそれほど冷たくなくて、天気予報通りに午前中は暖かな空気が流れていたのです。店の暖房も今朝は点けて来なかった。蕎麦打ち室に入れば13℃はあったから、蕎麦打ちには十分な温度なのでした。予定通り500g5人分の蕎麦を、加水率44%で打ち上げて、切りべら26本で135gの束を五つ揃えて生舟に入れるのです。昨日の蕎麦と合わせて13食の用意ですが、天候が思わしくないのと、昼からは寒くなるというので、お客は期待できない。

 それでも金柑大福を四皿と野菜サラダを三皿は、いつもの通りに作っておくのでした。開店と同時に一週間おきにいらっしゃるご夫婦が見えて、ご主人はいつものカレーうどん、奥様はキノコつけ蕎麦を頼まれる。ハラミとカシラの串焼きと金柑大福を今日は二つ注文された。話をするでもなく、ゆっくりと静かに昼の時間が流れていくのでした。昼過ぎになって、駐車場に高級車が一台入り、年配の男性客がお一人でカウンターの奥に座る。せいろ蕎麦のご注文。

 こちらのお客も話をするでもなく、食べ終えたら「ご馳走様でした。お蕎麦が美味しかったです」と言って帰られる。蕎麦湯も綺麗に飲み干して行かれたから、蕎麦の好きな方なのだろうと思えた。外は冷たい風が出て来て駐車場のモミジの葉が散り広がっている。箒と塵取りを持って西の小径に出た亭主は、寒い風の中を落ち葉を掃き集めるのでした。先ほどまで覗いていた青空は、厚い雲に覆われてすっかり姿を消しました。この寒さではもうお客は来ない。

 こんな日曜日もあるのかと、冬場の営業の難しさを痛感した。女将のスポーツクラブの予約を取って、亭主はおろしと山葵だけのぶっかけ蕎麦で遅い昼を済ませる。確かに蕎麦は歯ごたえがあって美味しかった。蕎麦汁も先日のお客が言ったようにとても美味しい。それでもやはり天気には勝てないから、晴れると言う明日の営業に期待するしかないのです。お客が少ないから洗い物も片付けもすぐに終わって、女将と二人で2時半には蕎麦屋を出る。

12月12日 月曜日 晴れて風は冷たく …

 9時間も眠って7時に目覚めた朝。女将に呆れられる。暖かくして床に就いたから、明け方の冷え込みで起きることがなかったのです。朝食は鯖の塩焼きと鶏肉と大根の煮物などが出て、亭主にはちょうど好い分量なのでした。洗面所で髭を剃って、着替えを済ませたら、いつもよりも少し早く家を出る亭主。8時半の太陽は、公園の森の上に昇っていました。陽射しは暖かいのですが、やはり風は北風で昨日にひき続いて冷たいのでした。

 今朝は蕎麦打ちをしないと決めていたから、蕎麦屋に着いて朝の仕事を終えて、昨日までは女将がやってくれた洗濯物干しを自分でするのです。と言っても僅かなタオルや布巾を干すだけだからわけはない。ついでに隣の部屋に行って、溜めてあった段ボールを潰して紐で縛っておく。ものの5分もかからないことなのですが、時間に追われているとつい億劫になるからそのままになっていた。そして、厨房に入って珈琲を沸かしてひと休みです。

 それでもまだ時間が余るから、買っておいた柚子を切って、皮を剥ぎ、千切りにして冷凍しておきます。これから冬の季節は、大根のなた漬けだけではなく、白菜の漬け物にも使うから、貴重な食材なのです。中身と白い甘皮はビニールに入れて家に持ち帰れば、女将がジャムにしてヨーグルトや紅茶に入れて利用してくれる。柑橘類特有の香りが辺りに漂ってかぐわしい。農産物直売所では小振りの皮肌の綺麗な柚子が四つで150円で買えるのです。

 いつも蕎麦を打ち終える時間になったら、大根をおろしてアスパラとブロッコリーを茹で始めます。今日の寒さではお客は来ないだろうし、来たとしても野菜サラダを頼む人はいないとは思いながらも、用意した具材を使い切ろうと今日も三皿の野菜サラダを用意するのでした。野菜サラダは毎日作るから、昨日出なかった分も家に溜まっているはず。女将が昼に食べてくれたとしても、今日の分が残れば後の始末にまた頭を抱えるのです。

 そんなことを考えながら、外に出て寒さの様子をみれば、風はやはり北風で、思ったよりも寒いのです。前のバス通りを歩く人影もなく、いつもの時間に買い物から自転車で帰る人やジョギングで走る人だけなのでした。空はこんなに青いのに、寒さには勝てない。それでも12時半を過ぎた頃、若い男性が歩いてやって来たのです。「注文しても好いですか」と言ってせいろ蕎麦の大盛りを頼まれたから、すぐに準備をして蕎麦を茹でてお出しする。

 1時を回ったから、沢山残りそうな天麩羅の具材を上げて、ぶっかけで賄い蕎麦を食べる亭主。残り物をどう処理するかを考える時間帯になったのです。昨日解凍した海老も沢山あるから、今日は天麩羅を揚げて家に持ち帰り、寒くなる夜は鍋焼きうどんにでもすれば好いだろうと、暖簾や看板や幟をしまったら、持ち帰る品々をチェックするのです。大釜や笊やボールの洗い物を終わらせて、天麩羅を上げる作業を終えたら、最後に野菜サラダを包んでお終い。