2022年6月中旬

6月13日 月曜日 平日なのにお蕎麦売り切れで …

 昨夜は遅くまでYouTubeで昔懐かしい曲を聴いていました。風呂上がりにギターを弾いたら、指は少し動くようになったのに、お気に入りの P.P.M.バージョンの「Don’t Think Twice」の歌詞があやふやだったから、聞き直してみようと思ったのです。書斎の本棚を捜せば楽譜はあるはずだけれど、当時の映像と共に本人達が歌う姿も見たくて、つい夜更かしをしてしまいました。今朝は一度4時半には目が覚めたけれど、昨日と同じで7時までもうひと眠りです。

 朝食を終えて洗面と着替えを済ませたら、今朝は朝ドラの始まる前に蕎麦屋に出掛ける亭主。気温は上がると言うけれど朝はまだ涼しくて、半袖のポロシャツの上にベストを着て蕎麦屋に向かうのです。途中、紫陽花の綺麗に咲いているお宅が三軒並んでいたから、青空と共に写真に撮っておく。きっと湿度が低いからなのですが、陽射しは暑いのに風はまるで高原の朝を思わせる。蕎麦屋の駐車場に咲き始めた紫陽花の花を見て、これからが楽しみなのでした。

 この花は、本来、とても美しいブルーなのです。段々と色が変わってくるのか、憂鬱な梅雨時の希望のような存在で、毎年、目を楽しませてくれます。その奥にあるモミジは去年大胆に剪定をしたのですが、新しい枝が伸びてその先端は薄赤く初々しい。今朝の青空に映えて何故か心が軽くなるのでした。朝の仕事を終えたら、大釜に水を汲みながら、昨日の洗い物を片付けて、蕎麦打ち室に入って今日の蕎麦を打ち始めます。室温は22℃、湿度は47%でした。

 すると、思い出したように、こんな日は湿気を取ろうと、奥の二部屋の座敷も、廊下や洗面所、風呂場の窓も全開にして、蕎麦打ち室に戻ったのです。このところやっと摑みかけてきた加水率を、今朝は41%強にして、捏ねた生地は少し硬いくらいの仕上がりなのでした。蕎麦玉を寝かせている間に、厨房に戻って大根をおろす。ひと休みして、蕎麦打ち室に帰ったら、伸して畳んで八つに折り畳んだ生地を、今日はちょっと厚めだから切りべら25本で140g。

 昨日の残りと合わせて、9人分の蕎麦の束を生舟に並べるのでした。晴れているとは言え、まさか平日の月曜日に、これがすべて売り切れてしまうと思わなかったのです。野菜サラダの具材を刻み、いつもの通り平日だから三皿に盛り付けておいたら、開店と同時にいらっした女性三人連れのお客が、ヘルシーランチセットをご注文で、あっという間に売り切れてしまう。聞けば、山武市から車で、一時間以上も掛けてラベンダー祭りを見に来たのだとか。

 ゆっくりとデザートまで召し上がって、今日はこれでお終いかなと、亭主は作ったばかりの野菜サラダが全部売れたのを喜んでいたのです。その後、1時間以上もお客が来なかったから、その間に解凍した豚のハラミを、串に刺してタッパに入れておく。今日出なければ、家に持ち帰って夜の酒の肴にするつもりなのでした。外は晴れて風は涼しく、出掛けるには絶好の陽気です。1時を大分過ぎた頃にやっと若いカップルがご来店で、天せいろのご注文なのです。

 ところが、盆と皿をセットして、天麩羅を揚げる準備をしていたら、すぐに続いて自転車に乗ったご夫婦がご来店で、またもや天せいろを頼まれる。ビールの注文もあったから、とにかくお茶と箸とおしぼりをお出しして、ビールと小鉢を出して「前の方の調理を先に済ませてしまいますから」と断って厨房に戻る。お客が続いても天麩羅は一度に二人分しか揚げないことにしているのです。お待たせしたお詫びにと、奥様に残っていたマスカット大福をサービス。

 こんな時には続くもので、ラストオーダーの時間も過ぎているというのに、散歩の途中らしい女性二人が窓の外で立ち尽くしているのでした。もう食材も尽きたからと、お蕎麦売り切れの看板を出して、亭主の食べる分の天麩羅を揚げていたのです。玄関を出た亭主は、「せいろ蕎麦」しか出来ませんけれどと、店の中に入って頂いたら、テーブル席で蕎麦を食べていた前のお客が「人が好いわね」と笑っている。亭主の食べる分を入れて今日の蕎麦は完売。

 散歩に来たのは好いけれど、この辺りでは食べる店屋が他にないのです。せいろ蕎麦だけでは申し訳ないと、自分が食べるために残った野菜や海老を、天麩羅にしておいたのを出して上げました。小鉢も切り干し大根の煮物を新しく盛り付けて、これも最後だから大盛り。残っていた大根おろしもすべて大盛りでお出しする。これには随分と喜んで「片付けを手伝いますよ」などと言って召し上がって行かれたのです。2時半になってやっと洗い物を開始。3時半に女将が心配して来てくれて、無事に片付けを終了するのでした。

6月14日 火曜日 今朝は早朝から頑張って …

 夕べは風呂から上がってギターを弾いて、テレビを観ながら油揚げと葱を入れた暖かいうどんを食べたら、急に眠くなったのです。店が混んだから昼食を食べられなくて、家に帰った午後の4時に餅を焼いてもらったのだけれど、夜になったらもうお腹が空くのは道理。10時前には床に入って自然と眠ったから、やはり疲れていた。それでも生活の習慣とは恐ろしいもので、今朝は4時にはもう目が覚めていた。珈琲を入れて目を覚ましたら、蕎麦屋へ出掛ける。

 定休日なのだから、何も慌てることはなく、起きているならば出来ることをしようという考え。ひんやりとした朝の5時では、どんよりとした空の下に広がる隣のお花畑の花もまだ開いていない。駐車場の紫陽花とビオウヤナギだけが彩りを放っていました。厨房に入って、昨日の洗い物をカウンターに乾したのを片付け、午後の出汁取りの準備をしたら、洗面所に行って洗濯機の中にある洗濯物を干すのです。重曹に浸けてあった天麩羅鍋を洗ってお終いです。

 それでもまだ6時前だったから、家に帰るには早すぎると、グリストラップの蓋の上に積み重ねたモミジの枝を袋に詰める。今日はゴミの回収業者が来る日なのです。一般の家庭とは違って飲食店の生ゴミ等は、有料で回収業者に依頼しなければならない決まりだから、霊犀亭では毎月100kgまでを定額で引き取ってもらっている。蕎麦屋の西側の小径を眺めたら、木槿やタラの木の枝が道路や前のお宅に伸び広がっている。これも近々剪定しなければならない。

 家に戻ってもまだ6時半だったから、書斎に入って少しだけ横になる。女将が朝食が出来たと起こしに来るまで、ぐっすりと眠ったのです。今朝は一汁四菜で、メインのおかずは昨日の蕎麦屋で残った野菜に肉を入れて、茄子とピーマンの味噌肉野菜炒め。女将は炒め物に水溶き片栗粉を入れるという中華の手法を知らないから、いつも平坦な味になる。持って帰って来た蕎麦屋の出汁を使った味噌汁も、味が薄過ぎて残してしまう。でも、何も文句は言わない。

 お袋様に電話をして迎えに行き、今日の仕入れに出掛けます。農産物直売所で旬の野菜を買い集めて、隣町のスーパーに行けば、今日は心なしか混んでいるのでした。印刷しておいた40種類の買い物リストを見ながら、レタスと小葱がまだ出ていないのを確認する。今日は先週の店で残ったキャベツを消化しようと、餃子を作ることにしていたので、家の食材も沢山買っておきます。買い物を店で収納したら、家に帰って、早速、餃子作りを始める亭主。

 大蒜と生姜を刻んだら、ニラとキャベツも刻んで、挽肉を入れて片栗粉に胡麻油、酒、醤油を加え、よく捏ねて皮で包み終えたら、昼のあんかけ焼きそばを作ります。その間、わずか40分。餃子を焼くのは女将に任せて、亭主はまずは麺を炒めて皿に取ったら、肉と具材を炒めたて水を入れてよく煮るのです。十分に野菜の味が出たところで、塩とコショウと砂糖を加え、片栗粉を入れてとろみを付ける。これが、霊犀亭流のあんかけ焼きそば。涼しい今日にはぴったりの昼食なのでした。包みたての餃子が付いたのが嬉しい。

 食べ終えた午後はゆっくりと昼寝。女将は稽古場で今月の書を書いている。1時間ほど眠っただろうか、珈琲を一杯飲んで蕎麦屋に出掛け、午後の仕込みにかかるのです。先週は最後に蕎麦汁が足りなくて困ったから、今日は5㍑の鍋で一番出汁を取って、二番出汁も沢山作っておきました。蕎麦汁を冷やして蕎麦徳利に詰めたら、もう4時半になっていました。蕎麦屋を出ようとしたら、犬の散歩の常連客の小母さんが、「今日は寒くなったね」と挨拶をする。

 お隣の若い奥さんが買い物から帰ったらしく、「こんにちは」と挨拶を交わす。ノースリーブのシャツを着ていたから、若い人は違うのだと感じるのでした。買い残した野菜を手に入れようと、近くのスーパーに出掛ければ、活きの好い鰯が出ていたから、買って帰って夕食は梅雨鰯の塩焼き。さすがに半袖では涼しすぎるのです。夜は、焼酎を飲みながらブログを書き終え、これから風呂に入ってギターを爪弾く予定。明日は雨だと言うから困った。

6月15日 水曜日 確か今日は県民の日では …

 夕べは夜食も食べずに、10時前にはもう眠くなって床に就く。最近の習慣で、4時過ぎには目が覚めるから、休みだからとまた寝てしまうのも能がないと思って、珈琲を入れてゆっくりと身体を目覚めさせるのです。5時のニュースを見て、今日一日の仕事を頭に思い描きながら、窓の外の雨を眺めている亭主。6時前に車で家を出て蕎麦屋に着いたら、新聞受けから新聞を取り出して、昨日の市内の感染者数を確認する。だいぶ減ってきているから嬉しいのです。

 厨房に入って、すっかりなくなってきた返しの仕込みを始める。味醂とワインビネガーを計量カップに計り、まず鍋で沸騰させる。次ぎに50%減塩の醤油と50%減塩の再仕込み醤油を鍋に注いで、氷糖蜜は最後に入れ、仕上げに塩を少々。それぞれの分量は頭に入っているけれど、念のために昔作ったレシピ表を出して確認するのです。これを間違えると、蕎麦汁の味がとんでもないことになる。これまでに間違えたことはないけれど、緊張する時間帯です。

 大きな鍋の返しは決して沸かさない。甕に入れるのに冷ましている間に、隣の火口で切り干し大根の煮込みを作る。砂糖を少し多めにした方が、お客様には喜ばれるようです。7時前になったので、家に戻って朝食の支度を手伝う。学生時代に、安いからとよく食べたモヤシとニラの炒め物は亭主が担当する。モヤシは丸ごと一袋、ニラは昨日の餃子に使った残りで、よく炒めるとほんの少しになるのです。昨日の梅雨鰯が焼かれて、お新香と今日は一汁二菜。

 今日は食後に亭主が眠らないようだからと、女将がお茶を入れてくれました。前にも一度見て、確かハッピーエンドだったからと、ケビン・コスナー主演のテレビ映画を最後まで観て、やっと書斎に入る亭主。9時過ぎになって少し寒いからと布団に入れば、朝が早かったからそのまま1時間ほど眠ってしまう。これが定休日の醍醐味と言えるかな。やっと起き出して蕎麦屋に出掛け、朝の片付けをしたら、隣町のスーパーまで行って昼の材料を買って帰るのです。

 揚げたばかりのトンカツを一つ買って、トマトピューレを手に入れる。昼はスパゲッティーにしようと女将に朝のうちに話したら、「何でも好いわよ」と言われたから、亭主の好きなベロネーズを作ろうと思ったのです。これも学生時代 JRの駅下の食堂で、週に何度も食べていたもの。カウンターに座ってシェフが中華鍋を振っている姿を、いつも眺めていたものです。本格ボロネーゼのソースにトマトピューレを加えて温め、切ったカツの上に掛けて出来上がり。

 最近はスパゲッティーをひと束100gは食べられないから、150gにして女将と二人で食べるのでした。そして、食後に珈琲を入れてもらう。11時半になって、女将のスポーツクラブの予約を無事に済ませたら、今日の午前中の仕事は終了なのです。昼食を終えていつもならひと眠りの亭主も、午前中に昼寝をしたのでさすがに眠れないのです。昨日の餃子作りで残っている挽肉を使って、今日は焼売を包む。卵を一つ分入れたのでちょっと緩くなったしまったなあ。

 2時半になったので、蕎麦屋に出掛け、まずは西側の小径に面した木槿とタラの木の剪定を始めました。90㍑のビニール袋を片手に持って、小径にはみ出している部分を切り取っていくのです。木槿の木はもう花のつぼみが付いていたけど、背に腹は替えられない。径の端に所々生えた雑草は、雨が乾いた日にまた刈れば好い。全部は一度に出来ないから、ビニール袋が一杯になったところでお終いにします。毎日少しずつやることの方が大事なのです。

 店に入って厨房で手を好く洗ったら、天麩羅の具材の切り分けを始めます。カボチャはレンジでチーンして、インゲン、生椎茸、ピーマンとナスを切り分けて、容器に詰めて冷蔵庫に入れたら、スライスして水に浸した玉葱と三つ葉を切って容器に詰める。そろそろ4時になるから、お新香を糠床に漬けて冷蔵庫へ。そして最後に蕎麦豆腐を仕込んで午後の仕事はすべて完了。家に戻れば、女将が作ったポテトサラダの酸っぱい香りが、ぷーんと漂っていました。

6月16日 木曜日 天気予報も当てにならない …

 今朝も4時半には目が覚めて、5時になったら蕎麦屋に出掛ける亭主。糠床からお新香を取り出して、切れ分けたら小鉢に盛り付ける。これだけではものの10分で終わってしまうから、ほうじ茶を入れながら後は何をしようかと考えるのです。蕎麦を打つにはちょっと力が出ないし、デザートをあまり早く作っては、美味しくなくなりそうで怖かった。幸いに雨が止んでいたから、店の西側の小径の草取りをすることに。火曜日の写真よりも綺麗になったでしょ。

 親指を庇いながら屈んで草をむしる動作は、やはり足に負担がかかるから、また筋肉痛になりやしないかとハラハラする。最近は日中の店と家との往復以外にほとんど歩かなくなったので、脚力も相当に落ちていると感じる。夜のパトロールに復帰するにも、まずは靴を履けるようになったら、十分にリハビリをしないといけない。家に戻ってもまだ6時過ぎだから、朝食までひと眠りするのです。7時を過ぎたら食堂に行って、女将の用意してくれた朝食を食う。

 朝ドラの始まる時間まで電気を消した居間でゆっくりして、洗面と着替えを済ませるのです。女将はその間、和室で新聞を読んでいる。そして、女将の朝ドラが終わったら「行って来ま~す」と再び蕎麦屋に向かう亭主。蕎麦屋の前の畑には、今朝は鳩が随分と沢山群れていた。写真を撮ってやろうと少し近づくと、一斉に飛び立ってしまう。草を刈ったばかりの休耕地には、食べる物が沢山あるのだろうか。蕎麦屋に着いて朝の仕事を終えたら蕎麦打ち室へ。

 室温は20℃、湿度は70%だったけれど、最近のペースで加水率は42%弱にして、蕎麦粉を捏ね始めた。それでも少し硬いかと思ったけれど、捏ねていくうちに生地が馴染んできたのです。菊練りを終えて蕎麦玉にしたら、ビニール袋に入れてしばらく寝かせておきます。その間に厨房に戻って、薬味の葱を切り、大根をおろして、次の作業の準備をしておく。今日は白餡がまだあるから、シャインマスカットを包んで、マスカット大福を作る予定です。

 ふた房入って2,000円だから、ちょっと勿体ないようだけれど、ひと房は果物好きの女将にプレゼントして、もうひと房で五日分の大福を包めば、大福一つにつき50円。白餡と白玉粉と片栗の分の費用を入れても、マスカット大福一つの原価は100円ちょっとなのではないでしょうか。個人営業の店では、原価率が4割5割はざらだと言う話を聞いたことがあります。隠居仕事の亭主の店では、手間賃がそのまま働く楽しみになっているという勘定なのです。

 大福を包む準備を終えたら、また蕎麦打ち室に戻って、今日の蕎麦を打つ。しっとりとした生地だったから、伸して畳んで八つに折って、切りべら26本で135gの蕎麦を八束、生舟に並べるのでした。夕べの天気予報では日中は陽が出ると言っていたけれど、朝から曇り空で、気温は思った以上に低いのです。それほど多くのお客が来るとは思えないから、丁寧に打った蕎麦を食べて頂ければそれで好い。そんな思いで厨房に戻るのでした。

 無事にマスカット大福を包み終え、野菜サラダの具材を刻んだら平日だから三皿に盛り付けておきます。店の掃除を終えたら、沸いた大釜の湯をポットに詰め、新しい油を天麩羅鍋に注ぎ足して、天つゆを温めて開店の準備が整うのでした。10分前には暖簾を出してお客を待てば、程なくご夫婦でのお客がいらっしゃる。とろろ蕎麦とカレーうどんのご注文で、カレーの汁を作り、とろろ芋をおろして、蕎麦とうどんを茹でるのでした。

 続けて昼前に家のご近所のご主人がいらっして、天せいろのご注文。最近はお一人でよくみえるから、奥様はどこかにお出かけなのか。「とても美味しかったです。天麩羅がボリュームありますね」と言いながら、デザートのマスカット大福をお持ち帰りになる。テーブル席のご夫婦は、奥様がカレーうどんがとても美味しかったと喜んで頂けた。ご主人は、とろろ蕎麦はとろろの器に汁を入れるのか、蕎麦猪口にとろろを入れるのかと亭主に尋ねる。

 蕎麦猪口に蕎麦汁ととろろを少しずつ入れて食べるのが普通でしょうけれど、蕎麦汁をとろろの器に入れて食べるお客もいるので、器を大きな物にしてありますと応える亭主。食べ方に決まりはないから、どちらにでも対応できるようにと考えたのです。その後も、一人のお客が続いて、せいろ蕎麦にキスやメゴチや稚鮎の天麩羅を頼まれて、すぐに蕎麦と一緒に揚げてお出しする。
 隣町の常連さんが最後にいらっして、お勧めの天麩羅はと言うので、辛味大根をおろし、旬の稚鮎とキスとインゲンの天麩羅に辛味大根をおろしてせいろ蕎麦をお出しする。女将のスポーツクラブが予約は1時半だからと、朝スマホを渡されたけれど、まだ営業中だから気が気ではない。無事に一番好い席を取り終えて、やっと昼飯を食べていたら、女将がやって来て片付けを手伝ってくれる。

6月17日 金曜日 晴れの予報が夕方まで曇って …

 今朝は7時過ぎまで眠っていたのです。夕べは9時半には床に就いたから、なんと10時間近く眠ったことになる。女将は食堂に朝食の用意をして、亭主が起きてくるのを待っていました。いつもと同じ4時半には一度目が覚めたけれど、今日はあまり仕事もなかったから、もう一度眠ってしまったのです。女将は天気が好くなるからと、朝からシーツを洗ったり洗濯に忙しいのでした。玄関のドアを開け放って、「団扇サボテンが綺麗に咲いているわよ」と言う。

 勤めていた頃に学校の用務員さんに、切り落とした団扇サボテンの葉を一枚もらって、家で挿し木をしたのが始まり。切っても切ってもまた育ってくるから、その恐ろしいほどの生命力に驚かされるのです。十数年で背丈よりも大きくなりました。今朝は暖かいからか朝から花を開いている。「行って来ま~す」「はい、行ってらっしゃい!」と蕎麦屋に向かえば、やはり暖かいからか、隣のお花畑のポピーも花を開いているようなのです。

 朝の仕事を終えて蕎麦打ち室に入れば、室温は24℃、湿度は73%だったから、今朝は41%強の加水で水回しを始めました。これが見事に的中して、両手の指で蕎麦粉をかき混ぜている時から、もう、ちょうど好い水加減だと判りました。よく蕎麦打ち名人の言葉に、「水回しをして指の先で判る」というのがありますが、まさにその通り。水加減がちょうど好いと、捏ね鉢の壁に蕎麦粉がくっついたりせずに、綺麗に菊練りまで進むことが出来るのです。

 気分を好くして今朝も750g、8人分の蕎麦を打ち、昨日の残りの3束と合わせて11人分の蕎麦を用意しておきました。晴れると言っても外は曇り空、暖かいけれど陽が差すほどの気温ではないから、十分に足りる数なのです。厨房に戻って野菜サラダの具材を刻み、今日も三皿のサラダを盛り付ける。雨ではないから、この暖かさならお客は来るはず。暖簾を出して待てば車が入ってくるのでした。女性の一人客で、テーブル席に座って天せいろのご注文。

 千葉の方からラベンダー祭りの下見に来たとかで、規模の小さいのにはがっかりしたとおっしゃっていました。ゆっくりと話をして行かれたから、時計はもう12時をだいぶ過ぎていました。例の少年が歩いてやって来たから、いつもの蕎麦と海老天とカルピス、バームクーヘンを出して、続けていらっした男性二人連れの蕎麦を用意する亭主。このくらいのペースが、一人で営業するにはちょうど好い。時計が1時を回った頃に、また一台車が入ってくる。

 若い真面目そうな女性でしたが、カウンターに座ってぶっかけ蕎麦のご注文でした。何でもご近所のお婆さんに、美味しい蕎麦屋があると聞いたそうなのです。俯(うつむ)きながら、ぼそりぼそりと話すから、全部はよく聞き取れない亭主。お父様の話や介護の話などを静かに聞きながら、時計はもう1時半を回っていたのです。もうお客も来ないだろうからと、カウンターに残っていた大福をサービスで出して、元気を出してもらうのでした。

 片付け物を終える前に、かき揚げとインゲンの天麩羅を揚げて、賄い蕎麦をぶっかけで食べておく。腹が減っていたのか、天麩羅も蕎麦もいつもより美味しく感じた。窓を閉めて、暖簾を下ろし、幟を閉まったら、ひと休みして、最後の客の盆や皿を洗うのでした。玄関脇の紫陽花の花が、まだいろいろな色に咲き出しているので、本当にブルーの綺麗な色になるのか不安になってしまう。植えてある土の手入れまではしていないから、ちょっと心配です。

 女将がスポーツクラブから帰る前に、今日は家に着いて持ち帰った食材を冷蔵庫に入れる。野菜サラダが全部残ったから、消化するのが大変そうです。肉と小麦粉、卵があったから、またお好み焼きにするのかと思っていたら、ちょうど帰った女将が同じ事を言う。我が家の冷蔵庫には、女将が買い物をしてこない週末前になると、何もなくなるのでだいたい見当が付くというもの。小麦粉の量を減らして、二人分のお好み焼きを焼いて夕食にするのでした。

6月18日 土曜日 やはり終日晴れなかった …

 梅雨時の天気予報はいつも難しいらしく、昨日の晩に見た予報では、佐倉は晴れるはずなのでしたが、朝から曇り空。それでも5時に蕎麦屋に出掛けたら、薄い雲の中から太陽がかすかに見えた。向かいの畑に群れていた鳩が、一斉に飛び立つ光景がとても印象的なのでした。朝食の時間だったのだろうか。郵便受けから新聞を取り出して厨房に入れば、昨日の洗い物が山積みで、片付けるのがひと仕事。早朝から身体を動かすにはちょうど好いのかも知れない。

 冷蔵庫から糠床を取り出し、漬け物を綺麗に水で洗って包丁で切り分けていく。今週は夕方にもう一度蕎麦屋に来て、まめに漬け物を漬けておくから優秀なのです。少しでも美味しいものをお客に提供できれば好いのですが、最近はぬか漬けそのものを嫌うお客もいるし、野菜そのものを嫌う主に男性客もいるからなかなか難しい。亭主の舌で味見をして、今日は好く漬かったと思っても、それがお客様全員には通じないから、多種多様の時代なのでしょうか。

 家に戻って朝食の食卓に着けば、今朝は鰺の開きの豪華版。最近は、骨抜きと言って、あらかじめ骨を取ってあるものが売っているのです。高齢者の多い時代だから、こんな工夫もされるのでしょうか。以前は女将と半分にして食べていたのだけれど、一汁三菜を守って納豆を出さずに鰺一匹を出す女将の工夫。亭主も蕎麦屋で何か新しい工夫が出来れば好いのだけれど、毎日の仕込みだけでも大変だから、なかなか新境地は開けないのです。

 女将の朝ドラの時間が終わったところで、今日も蕎麦屋に出掛ける亭主。朝の仕事を終えたら、蕎麦打ち室に入って蕎麦を打つ。窓の外には紫陽花のブルーの花が、気持ちよさそうに咲いているのでした。室温は25℃、湿度は73%と昨日とほぼ同じだったから、今朝も41%強の加水で蕎麦粉を捏ね始める。いつものように蕎麦玉を伸して畳んで気持ちよく包丁を打つのですが、今日はちょっと柔らかいのか、包丁に蕎麦がくっついて切りづらかったのです。

 毎日がベストというわけではないのです。それが蕎麦打ちというものなのかも知れない。それでも、切りべら26本で135gの蕎麦を取る。少し切り幅が広いかと思えた時には、25本にして135gの蕎麦にするのです。昨日の残りの蕎麦と合わせて、今日は12食の蕎麦を用意しておいたから、天気も好くなさそうなので、ちょうど好いだろうと厨房に戻るのでした。蕎麦汁は朝のうちに一番出汁に返しを加えて10人分は余分に用意してある。

 薬味の葱を刻んで、大根をおろし、暑くなるだろうからと、今日は水羊羹を作ってデザートにする。天気が悪くても蒸し暑いのが梅雨時の陽気だから、窓は少しだけ開けて、エアコンを入れて店の中の湿気を取っておくのです。昨日よりも気温は低いのに、何故か蒸し暑いと感じるのでした。野菜サラダの具材を刻み、天麩羅鍋の油も天つゆも温め、開店の準備を終えたら10分前には暖簾を出して、今日のお客を待つのです。12時前に散歩の途中のお客が入る。

 常連さんやリピーターのお客が続く中で、店の入り口の写真を撮ったり、初めてのお客もいるのでした。例の少年が今日もやって来ていつものように蕎麦を食べて帰る。手足の骨折で、少年の昼ご飯を作れないお婆さんは、週末はデイサービスに行っているのだと言う。蕎麦が残り少なくなった1時半近くに電話が入って、女将が出てもう残り一つだと伝えれば、夜はやっているかと聞かれ、やっていないと応えたら、明日に行きますと言ったと言うことでした。

 最後のお客が帰って、お蕎麦売れ切れの看板をしまう亭主。お客の数は9人だったのに、大盛りが沢山出たから早く蕎麦がなくなったのです。鴨せいろや鴨葱塩焼きまで出て、週末らしく様々な注文が入るのです。それでも、四皿分作った野菜サラダは全部残ったから判らないもの。幟をしまいに出た亭主の目には、玄関脇の紫陽花が、心なしかブルーに変わってきているように見えた。今年は上手く花芽を潰さずに剪定できている様子。楽しみな梅雨なのです。

 女将を先に家に帰して洗い物を片付ける亭主。遅い賄い蕎麦を食べて、ひと休みしながら次々と仕事をこなす。今日は早朝から珍しく、8時間以上も働いたのです。時間が遅かったから、明日のぬか漬けを漬けておこうと野菜を取り出す。4時前には家に帰って、買い物に出掛けた女将を待つのです。お隣の家との境に植えた、墨田の花火の紫陽花が、淡いブルーに咲いて風情があるのでした。明日は朝から晴れると言うけれど、当てにしないで楽しみにしよう。

6月19日 コロナ禍以前を思い出す週末の忙しさ …

 午前6時の空模様は、陽は時折差すけれど曇り。なぜか生ぬるい風が吹いて、今日も蒸し暑くなりそうです。昨日は蕎麦が売り切れたので、日曜日の今朝は蕎麦を二回打たないと間に合わない。朝飯前に他の仕事を片付けておかないと、次が忙しくなるのは目に見えているから、疲れてはいたけれど蕎麦屋に来る。昨日の洗い物もカウンターに乾したままだから、まずはこれを片付ける。そして、糠床を取り出して野菜を切り分け、小鉢に盛っておくのです。

 家に帰ればもう朝食の支度が出来て、今朝は大きな縞ホッケが焼かれていた。野菜サラダは昨日の残りだけれど、アスパラやトマトがもう傷んできている。家に持って帰るにしても、夏場は特に生野菜には要注意なのです。厨房で野菜サラダを作ってから、12時まではカウンターに並べておくけれど、その後は冷蔵庫に入れるようにしている。店の中はエアコンを入れても、換気のために窓を少し開けておくから、25℃はあるのです。外はかなり暑くなる。

 朝食を終えたら、やはり疲れが残っている気がして、またひと眠りです。珈琲を入れて一服したら、やっと出掛ける気分になったから、「行って来ま~す」と家を出たのはもう9時過ぎだった。隣の幼稚園の紫陽花を眺めながら、晴れてはいないけれど陽が差して、今日もかなり蒸し暑くなりそうなのでした。途中で顔見知りの奥さんが通りを掃いていたから「お早うございます」と声を掛ければ、「今日も暑くなりますね」と挨拶が帰って来るのでした。

 蕎麦屋に着いたら朝の仕事を終え、気持ちだけ焦ってもやることは同じ。蕎麦玉を二つ作って寝かせている間に、次の準備をしておく。蕎麦は昨日と同じ加水率でも、ちょっと柔らかめの仕上がりなのでした。湿度は65%なのに室温が27℃もあるから、蕎麦を切っている間にもう汗が出てくる。生地が柔らかめだと切った包丁にくっついてしまうので、トントントンと勢いを付けて包丁を打つ。柔らかめだと生地が奥行き一杯まで伸されるので、切りべらは25本。

 生舟に9つの束を用意したら、続けて二つ目の蕎麦玉を伸して、包丁打ちをしたいところだけれど、厨房に戻ってひと休みする。ここで焦ってしまうと、上手く打てなかったりするものなのです。慣れているとは言え、自分の実力不足を知っているから、気持ちを落ち着かせてから、もう一度初めからやる気持ちで、蕎麦を伸すのです。包丁打ちも軽やかに、今度は切りべら26本で5食分の蕎麦を取り、今日は合わせて14食の蕎麦を用意しました。

 結局、時折、陽の差す暑い日曜日だから、沢山のお客が入って、1時過ぎには蕎麦が全部売り切れました。驚くことに、ヘルシーランチセットも含めて、ほとんどが天せいろのご注文で、2時半に女将と洗い物を終えたら、拭いてしまえる物は女将がどんどん片付けてくれるから、カウンターに残ったのは盆と蕎麦皿と蕎麦徳利だけなのでした。天麩羅の具材も足りなくなって、家に帰ってから隣町のスーパーに買いに行く有様。一人では到底こなせない量です。