2022年5月末

5月27日 金曜日 あわせて326歳のご来客で …

 今朝もゆっくりと目覚めて、女将の作ってくれた朝食を食べる。昨日よりは涼しい気もするけれど、暖房を入れる程でもなく、朝から雨が降っているのが気が重いのでした。庭の皐が沢山蕾を付けて少しずつ開いてくるのが楽しみな時期。ご近所では手入れが好いからか、一斉に開花しているところもある。芍薬の花が終わって、今度はサツキ。季節は確実に夏に向かっているのです。それにしてもこの雨は梅雨の走りのようでもあるから、今年は梅雨が早いのか。

 傘を差して蕎麦屋まで歩けば、足の指の痛みはそれほどでもなかったので、まずはひと安心。いつもなら、雨の日はお客も少ないから、車で行ってしまうところですが、今日は本家の大伯母を連れて従兄夫婦が蕎麦を食べに来るというので、他のお客のことを考えて歩いたのでした。歩いて来るお客はまずはいないだろうけれど、たまに雨の日でも混む日があるから、それが心配。南風らしく暖かくて、亭主が店に着く頃にはまだ小降りで助かったのです。

 かなり早い時間に店について、まずはコーヒーを一杯入れて飲む亭主。いつもの朝と段取りが変わるわけではないけれど、苺大福と野菜サラダは数を作らなければならない。その前に、やはり最初は蕎麦打ちと、蕎麦打ち室に入って今朝の蕎麦を打つ。室温は25℃。湿度は60%。もうこの時期は加水率は41%では多すぎると、この二三日で実証済みだから、今日は40.5%にして800gを打ったのです。それで何とか綺麗な蕎麦が仕上がった。無理をせずに8.5人分。

 畳んだ蕎麦の生地は、綺麗に仕上がっているときは最後まで上手く切れるのですが、柔らかい時には最後のひと束がすんなりと切れないのです。だから9人分採れるところを、8人分と諦めて138gといつもより多めに束ねたのですが、生地の状態が好かったから、最後まで綺麗に包丁が打てたのは嬉しい。蕎麦打ちを終えて厨房に戻って、葱切り、大根おろしを済ませて、苺大福を包む。野菜サラダの具材を刻んでいる間に、スポーツクラブを休んだ女将が登場。

 一人で営業することに慣れた亭主は準備万端で、店の掃除だけしてもらい、早めに暖簾を出す。ところが、お袋様を拾って来ると言っていた従兄たちが来る前に、降りしきる雨の中をお客がいらっしたから意外なのでした。男性の一人客で「カウンターに座った方が好いかな」とテーブル席を避けてくれたのが有り難かった。ご注文の天せいろを出したところで、奥の座敷で一休みしていた亭主に、「いらっしたわよ」と女将が声を掛ける。

 一年振りぐらいの再会なのだろうか、変わらないのは女将と同じ歳の奥様だけで、デイサービスに通っているという大伯母は身体が小さくなったように見えて、取締役をしていた会社に頼まれて、いまだに仕事をしているという従兄は、ひとまわり身体が大きくなったように見えたのです。「大きくなったねぇ」と昔の亭主の面影ばかりを覚えている大伯母が言う。最近は亭主も、昨日何を食べたかも思い出せないのに、昔のことばかりをよく思い出すのです。

 皆が帰ったのは1時過ぎで、それからお客が来る気配はなかったのです。雨が幸いしたのか、和やかに話が出来て好かったと女将と話しながら、洗い物を片付ける。それにしても老いは等しくやってくるもの。少しでも若いうちに、女将の両親の介護が出来たのは幸せだったか。時代が変わって生活のスタイルも変化した現代では、なかなか老いを受け入れられないのかも知れない。夕食は今日の残ったサラダに鶏の胸肉の塩麹漬けを焼いたものに新じゃがでした。

5月28日 土曜日 晴れて暑くなった昼は …

 今日は朝から晴れて昼の暑さを予感させるのでした。午前6時に朝飯前のひと仕事に出掛けようとすれば、玄関前の南天の木の枝が随分と伸びているのに気が付いた。あまり高くなると隣の金柑の木が日影になって好くないので、年に何度かはばっさりと短く切りそろえるのですが、その成長速度は思ったよりも早い。朝の青空の下で、鬱蒼と茂る木々の綠は、初夏を通り越してもう夏の気配なのです。蕎麦屋に着いて早速、浅漬けと蕎麦汁の補充をする。

 家に戻って朝食の食卓につけば、いつもと変わり映えのしないおかずなのだけれど、とても美味しく頂いた。納豆がでると、どうしてもご飯をもう一杯おかわりをしたくなるのは、幼い頃の記憶が頭にすり込まれているからだろうか。通風で通っている医者も、ご飯が一番いけないと言うから、食べ過ぎないように腹七分で止めておくのです。最近は歳を取って胃が小さくなったのか、直ぐにお腹が苦しくなってしまう。それが健康には好いのでしょう。

 今朝もひと眠りをせずに、女将の朝ドラが終わったところで蕎麦屋に出掛ける。ご近所のサツキがもう満開状態で、ご主人の手入れが好いから、家のサツキと同じ40年前に植えられたものなのに、よく花を咲かせて、今朝の青空に映えるのでした。昼や夕方の陽の光よりも、朝の陽の光を浴びる場所の方が、花はよく咲くような気がする。陽射しはじりじりと真夏のようで、女将は「夏の暑さに慣れておく時期よ」と言うけれど、急に暑くなるとショックなのです。

 蕎麦屋に着いたら朝の仕事を終えて、今朝漬けておいた浅漬けを小鉢に盛り付ける。野蕗のキンピラと合わせて10鉢ほど用意して、足らなければまた盛れば好いと考えるのでした。今朝は最近にしては珍しく、蕎麦打ちの前に宅配便が届いて、代引きだから現金で支払う。四国は四万十の中村藤娘の純米吟醸生300mlが20本。とても美味しいお酒なのだけれど、日本酒好きの亭主は、このところ医者の勧めに従って日本酒を断っているのです。

 そして、今朝も蕎麦打ち室に入って8人分の蕎麦を打つ。加水率を40%強にしたら、気温は25℃、湿度は50%だったのに、いつになく硬くて、生地を捏ねるのに力が要るのでした。汗が滴り落ちてくるほどだったから、エアコンを入れて換気のために窓を少しだけ開けておく。切りべら26本で138g だから、昨日と同じ太さのはずです。昨日の残りの蕎麦と合わせて15食を用意しました。天気が好くて暑くなると言う予報だったから、お客が沢山来ると好い。

 厨房に戻って葱切り大根おろしを済ませたら、野菜サラダの具材を刻む。巻いたレタスがなくなったので、顔馴染みの農家から買ったリーフレタスを使い始めたら、随分と分量がある。早お昼から戻った女将が現れて、亭主はやっと奥の座敷でひと休み。暖簾を出して間もなく、年配のご夫婦がご来店で天せいろのご注文だった。料理を出し終えた頃に、小さな男の子を連れた若いご夫婦が玄関を開けて、奥様が「覚えていますか?」とカウンターの亭主を見る。

 ご主人は背の高い黒人の男性だった。流暢な日本語で「四年前に新婚旅行で石垣島へダイビングに行ったときに一緒だった」のだと言う。海メロのお客だから、三度の食事も一緒のはずなのです。東京から車を走らせて、佐倉城址を見に来たからと亭主の蕎麦屋を捜したらしい。有り難い話です。ちょうど近くでラベンダー祭りが始まっているから、話をしたら行ってみると言う。ゆっくりと食事をして車に乗り込んだ彼等を、玄関の外に出て女将と見送った。

 今日は店も2回転、10人を越えるお客で久し振りに賑わった。やはり天気が好くて暑くなったからでしょう。客が入れば、仕込んだ蕎麦汁も小鉢もなくなるから、ひと眠りした亭主は夕飯前に再び蕎麦屋に出掛け、切り干し大根の煮物を作り、出汁を取って蕎麦汁を作って、鍋のまま冷蔵庫に入れてくる。家では女将が残った野菜サラダを取り出して、亭主が夕食のお好み焼きを作るのを待っていたのです。早朝から実に忙しく、楽しい一日なのでした。

5月29日 日曜日 昨日よりも暑い日中は …

 昨夜も疲れて9時過ぎには床に就いたから、今朝も4時には目が覚めてしまった。ガレージのシャッターを開けて音を立てるのも気が引けるので、4時半になったら歩いて蕎麦屋出掛ける亭主。足の親指の痛みは気にならなかった。みずき通りを渡れば、通る車はライトを点けているけれど、すっかりもう明るくなっているのです。厨房に入って蕎麦汁を蕎麦徳利に詰め、小鉢の野菜類を盛り付けるだけの仕事だったから、1時間もかからずに店を出るのでした。

 午前5時半。向かいの森の影から太陽が姿を現した。今日は30℃を越える暑さになると言うだけあって、朝から陽の光が暑く感じるのです。世間では日曜日の朝だから誰も歩いていない。犬の散歩にもまだ早すぎるのでしょう。静かに家の玄関を開けて、居間でお茶を一杯入れて飲んだら、また布団の中に入って眠る亭主。ぐっすりと1時間以上眠って目覚めれば、女将が台所に立って朝食の支度をしている。魚を焼く好い香りが漂ってくるのです。

 亭主が蕎麦屋に行くのも帰って来たのも気が付かないほど、よく眠れたと女将が言う。久し振りに来客の多かった昨日の店の混みようで疲れたのだろう。亭主は昨日よりも暖かくなると言う、今日の日曜日がどうなるかと心配している。一人での営業ではないから、10人を越えてもたいしたことはないけれど、やはり、同じ時間帯に集中すると辛い。欲張らずに打つ蕎麦の数を決めておけば好い。一抹の不安を抱きつつも、ワクワクと緊張するのです。

 今朝は魚と納豆の他にも、先日残ったカレーが出たので、もう一杯ご飯を食べたかったけれど、そこはグッと我慢するのでした。朝ドラがないから、女将も朝から洗濯に忙しい。いつもより早く家を出て、また蕎麦屋まで歩くのです。ご近所のラベンダーが花を咲かせて、通りを歩くと仄(ほの)かに花の香りが流れてくるから嬉しい。朝から暑い陽の光に、紫色の花が涼しく感じられるのでした。お花好きのご近所のお蔭で歩く人の心が和むのですね。

 今朝渡ったばかりのみずき通りも、すっかりと夏の装いで、若葉が何時の間にか綠色濃くなっている。雛が孵(かえ)った燕たちが餌をくわえて忙しなく巣を行き来しているのです。何処の世界でも子供を育てるのは大変らしい。蕎麦屋に着くまでに何軒か、燕が軒下に巣を作っているお宅がある。外から見える場所にある巣では、生まれたばかりの子燕の頭が見えるからびっくり。蕎麦屋に着いて朝の仕事を終えたら、亭主は下着一枚になって蕎麦打ち室に入る。

 室温は26℃、湿度は55%と確かに昨日よりも暑い。加水率を40%強にして蕎麦粉を捏ね始めたら、やはりちょっと硬かったから、今朝は手を水で濡らして水分を調節する。切りべら26本で138gの蕎麦の束を生舟に並べながら、今日は14食の蕎麦で打ち止めにする。果たしてそれが何時になるのかは誰も判らないのです。12時半前に蕎麦がなくなれば、追い打ちを掛けると決めてはいるけれど、たまたまその時にいらっしたりするお客が、待ってくれるかどうか。

 女将が暖簾を出すと同時に常連のご夫婦がいらっして、いつもはカレーうどんのご主人も、さすがに今日は暑いらしく、お二人でヘルシーランチセットを頼まれる。女将がサラダと蕎麦豆腐を出している間に、亭主は盆と蕎麦皿をセットして、蕎麦を出すころには、もう次の常連客がご家族でご来店なのでした。こちらもいつもと同じくおろし蕎麦の普通と大盛り、そして奥様はぶっかけ蕎麦のご注文。全部出し終える前にカウンターにもお客が座ってとろろ蕎麦。

 駐車場はもう一杯だから、少しは時間が稼げるかと思ったら、最初のお客がお帰りになると直ぐに、次のお客が来るという状況。昼を過ぎる頃にはもう二回転目に入るのでした。明らかに昨日よりもペースが速い。いろいろな注文が入って、会計をするお客もいるから女将もてんてこ舞い。亭主は休む暇もなく、天麩羅を揚げたり、とろろ芋の皮を剥いてをおろしたり、楽しく調理をするのでした。忙しいときに入る電話は「空いていますか?」「蕎麦は四つと言っていますけれど」と女将が応える。12時半を過ぎた頃に、若い男性客がお二人でいらっして、生舟の蕎麦がなくなるのでした。

5月30日 月曜日 やっと5月の営業を終えて …

 昨夜は11時過ぎまで起きていたはずなのに、今朝は4時過ぎにはもう目が覚めてしまいました。まだ、布団の恋しい気分だったけど、店の混んだ翌日は、蕎麦汁も小鉢もなくなっているから、新しく補充しておかなくてはならない。そう自分に言い聞かせて、お湯を沸かしてコーヒーを入れる。足の親指の痛みがなくなったら、プール練習にも復帰して、少しは体力を付けなければいけないと思いながら、6時前に車を出して蕎麦屋に出掛けるのでした。 

 厨房に入って、まずは昨日の沢山の洗い物を片付けるのです。最近は新型コロナの感染者数もだいぶ減っているから、コロナ禍以前の生活が戻れば、今よりも更に忙しくなるのは必定。その準備期間として、10人を越えるお客にも、余裕で対応できなければ未来はないのです。キュウリやカブやナス、ニンジンを切り分け、浅漬けを漬けたら、作ってある蕎麦汁を徳利に詰めて、洗濯物を畳み、新しい洗濯物を干しておく。家に戻る前に煙草を買いにコンビニへ。

 早朝の大通りはまだ車の数も少なかった。今週末はだいぶお客も入って、女将にも苦労を掛けたからと、昨日は夕食に魚屋で作る特選寿司を買いに亭主が駅前まで車で行ったのですが、この通りを走る車の数が凄かったのです。街に活気が戻ったとでも言うのか、少しずつコロナ禍を抜け出しているような錯覚に陥る。油断は禁物というのが女将と亭主の考えだから、蕎麦屋も今でも消毒や人数制限をして営業しているのです。大通りにも閉めたままの店もある。

 家に戻れば、今朝は普段から亭主の望む理想的な朝食だったので嬉しかった。「一汁一菜」とは昔の話で、今ではご飯以外に、タンパク質と野菜が必須の食材。きのこ類や海草、そしてクエン酸の取れる梅干し。女将に言わせると、発酵食品の納豆が加わるのが好いらしいけれど、身体に良いからと全部は食べられない。青魚のある日には納豆がなくても好いような気がするのです。食後にひと眠りして、今朝も元気に朝ドラが終わったら蕎麦屋に出掛ける亭主。

 幟と看板を出して、大釜に水を張ったら、早朝に浸けておいたお新香を取り出して小鉢に盛り付ける。切り干し大根の煮物もあるから、10鉢もあれば十分に足りるはず。浅漬けの素も便利だけれど、糠味噌に漬けるのより早く漬けすぎると塩味がきつくなるのです。そして、今朝の蕎麦打ち。このところの暑さで、ちょっと適正な加水率を見失っていたけれど、今日は41%強の水で750g八人分の蕎麦を打つ。絶妙な水加減で、しっとりとした蕎麦が仕上がる。

 何がどのように加水率に影響するのかは、何年蕎麦を打っていても、未だに謎のまま。毎日データを残してはいるものの、温度と湿度だけではないというのが正直なところなのです。蕎麦打ちを終えて厨房に戻れば、いつもと同じく大根おろしに葱切り。今朝は最終の営業日である月曜日だからと、デザートの苺大福は昨日の残り二皿だけにする。野菜サラダの具材を刻み、平日だからと三皿だけ用意するのでした。10分前には暖簾を出して今日のお客を待つ。

 外は昨日よりは少し涼しい風が吹いていたけれど、店の中はエアコンを入れなければ暑い状態でした。隣のお花畑では初夏の花々が咲き乱れ、お爺さんの息子さんはまた新しく何か種を植えた様子。昼を過ぎた頃に、隣町の常連さんがいらっして「何か旬の物はないの?」と言うから、「インゲン、アスパラ、メゴチにキス」と店にある食材を言えば、「天麩羅にしてくれる?」と最近は旬の物狙いなのです。朝届いた辛味大根もおろしてお出しする。

 彼の高校時代の話を聞いているうちに、歩いていらしたらしい男性客がテーブル席に座って、おろし蕎麦とノンアルコールビールのご注文。続けて、賑やかな女性三人がご来店で、もう一つのテーブルに座るのでした。彼女たちの出で立ちを見てカウンターの常連さんが、「何か運動をしてきたみたいね」と言えば、卓球をやって来たのだと言う。女性達が連れ立って、蕎麦屋に来るのも久し振りなのでした。月初めにいらっして店が混んで入れなかったのだとか。

 結局、閉店間際までワイワイ大きな声で話をしているから、亭主はたまたまスポーツクラブのない女将に、電話をして助けに来てもらうのでした。人数は少なかったのですが、ずっと話の相手をするのも疲れるのです。お客が帰ってやっと亭主は遅い昼飯にありつくのでした。残った天麩羅の具材を揚げて、残ったおろしと葱を全部載せたら、立派なぶっかけ蕎麦になりました。コロナ禍の回復の兆しは嬉しいけれど、大人数に対応する体力を回復しなければ。

5月31日 火曜日 午前中は雨で …

 明け方の激しい雨音で目が覚めた定休日。蕎麦屋に出掛けてもあまり急ぐ仕事はなかったから、ゆっくりと床の中で目が覚めるのを待つのでした。今朝は炊いたご飯を酢飯にして、豚汁に切り干し大根の煮物をおかずに、いくら丼を食べた。豊洲の市場から送られた高級イクラは、またしても亭主が仕入れのネット注文で間違えて買ってしまったもの。辛味大根を頼むつもりが、セットになって買わされたのです。詐欺ではないけれど、やり方がどうも狡い。

 北海道育ちの親父に育てられて、自分の家の敷地に流れる川で、毎年獲れた鮭からイクラをとったのだという話を、子どもの頃から聞いて育ったから、決して嫌いではなかった。ただ、200gで4800円という金額に驚いて、とても美味しいけれど、今の自分には不釣り合いだと感じたのです。ひと休みしてお袋様に電話をして、毎週恒例の仕入れに出掛けました。雨のせいか、農産物直売所には、農家がまだ野菜を運んで来ていなかったのでした。

 幸い、顔見知りの農家のご主人が野菜を運んで来ていたので、新じゃがやインゲンをもらって、隣町のスーパーに向かうのでした。雨だったのに、今朝はお客が多く、駐車場も入り口近くは空いていなかった。それでも印刷した買い物リストの食材はすべて揃って、無事にお袋様を家まで送り、蕎麦屋に戻る。食材を冷蔵庫に収納して、昨日の洗い物を片付け、洗濯物を畳んでから洗濯機の中の洗い物を干したら、今日はもう11時過ぎなのでした。

 気温が朝から低くて、昼もまだ涼しいくらいだったから、今日は随分と久し振りにラーメンを買って帰ったので、昼は昔ながらのラーメンを女将と二人で食べたのです。東京の下町で育った亭主と違って、女将は曲がりなりにも山の手育ちだから、子供の頃にラーメンは食べていない。「たまにはお父さんの好きな物で好いわよ」と素朴なラーメンを二人で食べる。昔はチャーシューも自分で作っていたものですが、今はできあいのものを買って我慢している。

 昼食の後も書斎で少し横になるけれど、疲れていないからか眠くならないので、稽古場で仕事をする女将に声を掛けて蕎麦粉の支払いに郵便局まで出掛ける。雨も上がって鮮やかな中央通りの並木の緑を突き抜けて、お袋様の家まで大伯母の来た先日の写真を届けるのでした。蕎麦屋に戻って午後の仕込みをしようと思ったけれど、どうもやる気が起きない。コーヒーを入れて飲むけれど、先週の疲れが取れていないようで、すっかり休日気分なのでした。

 仕方がないから、レンジ周りの掃除をして、出汁取りの準備をしたら、家に戻って休憩中の女将と午後のデザートタイム。午前中に買って帰った宇和島ゴールドという果物が瑞々しく、とても美味しくて感動したのです。することがないから蕎麦屋に出掛けるという休日は最悪のような気もするけれど、家にいても面白いテレビもないから、せめて明日のためにと思って行動をしているから、救われているようなものです。平たく言えば、隠居だから暇なのですね。

 夕方も眠くないので何回も見ているテレビの映画番組を見て、ブログを書き始める。4時半になったから、居間に行けば台所に電気が点いていると思ったら、女将が亭主が午前中に買って帰った新じゃがを茹でてくれていた。ルクルーゼの鍋でも30分はかかるから、その間に亭主はイクラと一緒に買わされた一夜干しの烏賊の塩辛を小鉢に盛って、店に入った日本酒の味見と、ちびりちびりと飲んでいる。赤魚を焼いて蕪の葉を茹でた小鉢と新じゃがが揃って夕食。