2022年4月下旬

4月20日 水曜日 今日は朝から雨で気分も滅入るけれど …

 定休日の二日目だけれど、足の具合が少し良くなったので、今朝も朝飯前のひと仕事に出掛けました。あいにく朝から冷たい雨が降っていたけれど、蕎麦屋の前の畑にポピーが群生して、壮観な眺めなのでした。雨に濡れると花が閉じてしまうらしい。晴れた日にはもっと華々しく、きっと青空に好く映えるのでしょう。6時を過ぎていたから、大根とイカの煮付けと野蕗のキンピラの下準備に、米粒を入れて大根を茹で、板ずりをした蕗を茹でて皮を剥いておく。

 家に戻れば、女将が今年は何処かに消えたと言っていた十二単(ひとえ)が、金柑の木の周りに幾つも花を咲かせていました。名前の割には地味な花ですが、これも我が家の庭では、春の到来を告げる花の一つなのです。植えたままのチューリップが、早いものはもう花を終えて、ピンクの花だけがつぼみを膨らませていました。朝食には生鮭の塩麹漬けを焼いて、店で残った三ツ葉が悪くなるからと、ちくわ入りの卵とじが用意されていた。

 食事を終えて書斎でひと眠りを決め込んでいたら、スマホのアラームが鳴って起こされた。前のスタッフから電話で、また筍を持って来てくれると言うので、蕎麦屋に行っていますとお礼を言って、車で直ぐに向かうのでした。いつも悪いからと、今日は残った蕎麦と蕎麦汁をあらかじめ用意しておいたのです。大福に包むのに仕入れてあった苺を合わせて持たせたから、お袋様の分もお返しをしたかと安堵する。掘って皮を剥いて茹でて来るから大変なのです。

 早速、先端の部分を切り取って、急速冷凍にかける。先端が土の中にあるうちに掘ったばかりの筍だから、指で押したら崩れるくらいに柔らかい。店で売っているような大きな筍は、もう硬くて食べられないのです。残った部分は家に持ち帰り女将に預ける。季節とは言え、また筍づくしが続くので楽しみです。寝間着のジャージのままだったから、洗面と着替えを済ませてひと休みしたら、三度蕎麦屋に出掛ける亭主なのでした。定休日二日目の仕込みが始まる。

 胡麻油を引いたフライパンにニンジンから入れて、茹でた蓮根と油揚げを加え、最後に皮を剥いた野蕗を入れて炒めたら、出汁を入れて更に加熱。出汁醤油と砂糖を加えて汁気がなくなったところで火を止める。これで今週の小鉢の一品が出来上がり。彩りが好いので気に入った。次に出汁を沸かして出汁醤油と砂糖で味付けをしたら、下茹でをした大根を入れて弱火で沸かしておく。その間に烏賊を捌いて隠し包丁を入れたら、別の鍋で湯がいて大根に加える。

 二品目の小鉢の具材が出来上がったところで、鍋を洗って家に戻るのでした。昼は亭主が蕎麦屋から持ち帰った味見の小鉢と、冷凍してあるカルビ丼の具材をお湯で戻して、久し振りに食べるカルビ丼定食。蕎麦屋でのご飯物を止めると言っていながら、メニューの改訂がなかなか進まないので、食材を持ち帰ってしまおうと考えたのです。「たまには美味しいわね」と女将も満足そうな感想です。朝食後に眠れなかった分と、午後はゆっくりと昼寝の亭主。

 午後の仕込みは天麩羅の具材を切り分けて、お新香を糠味噌に漬けるだけだったけれど、煙草を買いがてら、女将が綺麗だわよと言っていたご近所の藤のお宅の前を通ってみた。毎年のことながら、見事な藤棚なのでした。今日は四度目の蕎麦屋に戻って、最後の仕込みをしていたら、玄関の扉を叩く音がして、お隣の奥さんが顔を出した。実家で長葱を持って来たので食べませんかと、泥葱を20本余りも袋に入れて来たのです。お返しには鴨肉を一本。有り難い。

 業者が今日は鴨肉を届ける予定だったから、残った一本だったけれど、今日は何故かもらい物の多い日なのでした。女将もスポーツクラブがお休みだったからと、夕飯には筍づくしで、若竹煮と筍の梅煮に筍の茶碗蒸し、そして筍ご飯と旬を満喫することになりました。卵以外にタンパク質がないからと、焼きちくわが付いたのもまた好かった。芽が出たばかりの木の芽が薫って香ばしいのです。明日は暖かいけれど天気は好くないとかで、また逡巡する亭主です。

4月21日 木曜日 暖かくなってきたら …

 朝一番で南側のミニ菜園を覗いたら、思った通りタラの木やコゴミはもうすっかり葉を伸ばしていました。お客も少ないから、店で使い切れないのに欲張っても仕方がないと、今年はもう採るのを止めてしまったのです。今朝は糠漬けを取り出しに朝飯前の一仕事。糠床にミョウバンを敷いて色止めをしたナスは、綺麗な色を出していたので嬉しい。今回は初めてラディッシュを漬けてみたのが成功でした。カブと似た食感だけれど、ちょっと赤い色があると好い。

 昨日作っておいた野蕗のキンピラと烏賊と大根の煮物も小鉢に盛り付けて、今日明日の小鉢はこれで十分なのです。6時前から蕎麦屋に来ているのに、あまりすることもなかったので、今朝は早めに家に戻るのでした。玄関前の馬酔木の木が赤い新芽を沢山出して、穀雨の終わった時期なのを痛感する亭主。隣の畑に群がって飛んでくる椋鳥も、随分と身体が大きくなっているのでした。自然のその勢いが羨ましいと思う自分が、何か小さな存在に見える。

 みずき通りを渡れば、今朝は曇り空だったけれど、白いハナミズキノの花がずっと向こうまで咲いているのが見えた。気温は上がると言うけれど、この天気ではどうも怪しい。定休日明けは、蕎麦を打つにもコロナ禍以降、750g8人分で足りなかったことがないから、今日も同じ数を打てば好いだろうと考えながら家に着く。もっと以前は二回打って16食を用意していたものです。今は細々と毎日打つということの繰り返し。仕入れも減らして持久戦なのです。

 それでも、蕎麦打ちは腕前を上げるという目標があるから、食事を終えて、今朝も食後のひと眠りをせずにまた蕎麦屋に出掛ける。そして、蕎麦打ち室に入って今朝の蕎麦を打つのです。コロナ以前の半分の量だから、じっくりと気合いを入れて向き合うことが出来るというもの。半ば現実逃避的な側面もあるのかも知れませんが、もっと前向きに、今が腕を磨く機会だと思うようにしているのです。加水率43%では、今はもう、少し水分が多いのかも知れない。

 太さも均等に切りべら26本で132~135gで包丁を打てば、8人分と80gほどの蕎麦が取れる。最後の80gは切りにくいから、いつも端切れにして賄い蕎麦で食べていたのだけれど、最近は綺麗に最後まで包丁を打って大盛り用に使っているのです。これもコロナ禍で学んだ節約術なのかも知れない。蕎麦打ちを終えたら厨房に戻って、薬味の葱を刻み、大根と生姜をおろして、苺大福を包む。今週仕入れた苺はもう小さな粒がなかったので、自ずと大きな大福になる。

 野菜サラダの具材を刻み、ポットに大釜で沸かした湯を入れ、天麩羅油と天つゆを温めて準備完了。店内の掃除をするのが11時過ぎで、今日は若いカップルが向かいの地区の道をぶらぶらと歩いて来るのが見えた。蕎麦屋の看板を見ながら、なかなか店内に入らないので、もう次のお客が車でいらっしゃる。お茶をお出しして注文を待てば、若い二人はおろし蕎麦と天せいろ。年配の女性と娘さんらしき女性はヘルシーランチセット。「順番にお造りしますから…」

 時折、陽は差すけれど今日はやはり曇り空。それでも暖かいから暖房も入れずに窓は半分開けてある。「ここのお蕎麦は美味しいわねぇ」と近隣の蕎麦屋でも蕎麦を食べているという年配の女性が、蕎麦湯を飲みながら満足そうにおっしゃる。若いカップルも「美味しかった」と言ってくれた。皆さん初めてのお客なのでした。
 洗い物を片付けてテーブルを拭いたところで、後半のお客がご来店で、「静かで景色も好くて好いところね」とおっしゃる年配の女性が、天せいろを食べ終えて「ああ、お腹いっぱい。美味しかったわ」と言う。その後も三人連れのお客が車でいらっしたけれど、二人分しか蕎麦がないと伝えたら「また今度来ますね」と言って帰られたのでした。穀雨の後は人間もまた元気になるのだろうか。

4月22日 金曜日 初めてクーラーのスイッチを入れて …

 足の具合が良くなったからと、夕べはちょっと酒量が多かったので、今朝は8時間の睡眠から目覚めて、食後に蕎麦屋へ出掛ける亭主なのでした。天気予報通りで暖かな朝だったけれど、まだ曇り空なのです。駐車場の植え込みも新芽を伸ばして、手入れが追いつかない状態。東側のミニ菜園も植えたままだから、辛味大根などはもう花を咲かせている。野菜サラダに使っていたベビーリーフはもうとっくに大人に成長しているのでした。

 植木鉢に植えた実生のモミジは、今年も葉を伸ばしているから楽しみ。植えっぱなしの絹さやも、少し添え木をしたら次々に実を付けて、何度か収穫をしたのでした。朝の仕事を終えたら、厨房に入って、まずは蕎麦汁を徳利に詰めておく。コンスタントにお客が入ると、一番最初に蕎麦汁がなくなるのが道理で、今日は夕刻にまた新しい出汁を取っておかなくてはならないかも知れない。暖かくなると、コロナ禍以前の過去の経験が蘇ってくるのです。

 9時前には蕎麦打ち室に入って、今朝の蕎麦を打ち始める。室温は20℃もあるから、今日は43%弱の加水で蕎麦粉を捏ね始めたのですが、それでもまだ生地は若干柔らかめでした。無事に菊練りを済ませて蕎麦玉をビニル袋に入れて寝かせておく。厨房に戻って葱切りと大根おろしを済ませて、再び蕎麦打ち室に入れば、丸出し、四つ出しを終えて本伸しまで進む。右上の端の部分だけが修正できなかったけれど、均等な厚味で八つに畳んだら包丁打ちです。

 無事に8人分と70gの端切れを打ち終えて、厨房に戻れば苺大福を包む作業が待っている。大きな苺だから、今日も熱々の求肥は一つ当たり80gの計算で包んでいくのでした。次はいよいよ野菜サラダの具材を刻むのですが、その前に、昨日は天麩羅が随分と出たから、天麩羅の具材が切れたので、カボチャのスライスをしたら、生椎茸の飾り切りをして四等分に切ったナスに切れ目を入れる。小鍋にお湯を沸かして塩を入れ、ブロッコリーとアスパラを茹でる。

 平日だから三皿にサラダを盛り付け、天麩羅の具材と天ぷら粉を冷蔵庫から取り出して、天麩羅鍋に油を入れ、天つゆを温めたら、もう11時なのでした。ポットに大釜の湯を入れて、店の掃除をしたらいよいよ準備完了。開店の時刻の10分前には暖簾を出して、お客を待つ態勢が整うのでした。外は相当に暖かくなっているらしく、窓を開けていてもまだ暑い。長袖を脱いで店の半袖シャツを着た亭主も汗ばむほどで、クーラーを入れて22℃まで温度を下げる。

 それでも厨房の中の温度は24℃になっていたのです。開店の時刻の10分前に暖簾を出せば、ちょうど開店の時刻に女性二人のお客がいらっしゃる。天せいろととろろ蕎麦の注文を受けて、調理し始めたらもう次のお客がテーブルに座るのでした。若い女性の二人連れだったから、「ちょっとお待ち下さいね」と、天麩羅を揚げていたからしばらくお茶を待ってもらった。お客も亭主が一人で接客をしているのを見て、かなり好意的なのでした。

 すると、駐車場に見慣れた車が滑り込んで、車三台でもう満杯。隣町の常連さんがカウンターに座っていつものご注文なのでした。お茶は出したけれど、三組目までは手が回らない。カウンターの野菜サラダを自分で取って食べると言うから、ドレッシングだけは手渡すのでした。最初のとろろ蕎麦のお客がキスの天麩羅の追加を頼まれたので、蓮根と筍とタラの芽とコゴミを揚げてお出しする。二組目は天せいろだったから、やはり同じサービス。

 やっとカウンターの常連さんに料理を出し終えた頃に、四人で入れるかと女性が玄関を開ける。駐車場も一杯だし、店内も見れば分かるけれど四人分の席はない。「ご免なさい」とお断りした。女性客が多いから、直ぐには席が空きそうになかったのです。狭い店では昼時の混雑を凌ぐ術はない。慣れたお客は時間を見計らっていらっしゃるけれど、常連さん以外は皆さん初めての方らしかった。蕎麦は沢山用意したのに、昨日に続いて残念なことなのでした。

4月23日 土曜日 これが初夏の暑さなのか …

 霧の濃い朝でした。家の中は18℃もあるのに、何故か少しひんやりとして、ジャージの上着を羽織らなければいけませんでした。夕べは半袖を着て眠ったから、身体が冷えたのかも知れません。朝の6時になったら家を出て、朝飯前のひと仕事に蕎麦屋に出掛ける亭主。足の具合がだいぶ好くなったので、ゆっくりと歩いて行ったのですが、蕎麦屋の前の畑にも霧が出ているのでした。米を研いで炊飯器にかけ、糠床からお新香を取り出して、小鉢に盛り付ける。

 みずき通りの角のお宅に、モッコウバラがとても綺麗に咲いていました。駅前の高層マンションも霧に煙っているのでした。霧の深い日は晴れるというけれど、青空はまだ見えないし、天気予報でも昼からしか太陽のマークは出ていない。気温は高くなりそうだし、風もない一日らしいので、お客が来ても大丈夫なように、今日は少し蕎麦を沢山用意しておこうかと考える。昨日、一昨日と、最後のお客をお断りしたから、その反省なのです。

 ゆっくりと歩いて家に帰ればもう朝食の時間。今朝は縞ホッケがメインで最後の筍ご飯なのだと言う。最近の魚類はどれも塩味が薄くなっているらしく、女将も食べやすいと喜んでいました。食後は例によって書斎で横になって20分ほど微睡むのです。これで頭がすっきりとして、洗面と着替えを済ませれば、しっかりと目覚めるから不思議です。女将の朝ドラが終わる頃を見計らって、「行って来ます」と言って玄関を出る亭主。

 蕎麦屋に着いて朝の仕事を終えたら、9時前には蕎麦打ち室に入って今朝の蕎麦を打ちます。加水率43%なのに、やはりまだ生地が柔らかい気がする。もうそろそろ42%にした方が好いのかも知れない。蕎麦玉を寝かせいてる間に、厨房に戻って葱切りを済ませ、再び蕎麦打ち室に入って伸しを始める。今朝も綺麗に正円に丸出しを終えて、順調に蕎麦は仕上がっていく。生地が柔らかい分だけ、どうしても包丁切りで切りむらが出来るような気がするのでした。

 昨日出なかった苺大福は、今日までお客に出すことにして、三日目で少し硬くなったものは、女将に家へ持って帰ってもらった。野菜サラダは週末だからと四皿盛り付けておきました。この時点ではまだ外が晴れていなかったから、残ったらどうやって家で処理しようかと心配するのでした。暑くなったから、鰹の皿鉢料理でも食べたいなどと女将と話していたのですが、蕎麦屋の残り物が出るうちは、なかなかそうも言っていられないのです。

 外はしだいに暖かくなって、窓を開けていても店内は22℃もあるのでした。次第に陽も差して少しずつ青空も見えるのですが、暖簾を出して1時間経っても、お客の来る気配はないのです。前の通りを走る車の数は多いのに、昼に蕎麦を食べたい人ばかりではないからと、女将と二人でお客の来ない理由をあれこれ思う。結局、天気が好くなったのでお出かけなのかということで落ち着いた。開店前にガラス窓を叩いて開店の時間を聞いた小母さんも姿を見せない。

 亭主が一服しようと奥の部屋に入ったところで、「お客さんですよ」と女将が呼ぶ声がした。中年のご夫婦がテーブル席に座って、ヘルシーランチセットのご注文なのでした。ご主人はお蕎麦大盛りに大根おろしをご所望でした。野菜サラダのドレッシングが美味しいとご主人が言えば、キャベツが細く切ってあるのが好いと奥さん。蕎麦粉を溶いて作っている蕎麦湯が、とても美味しいと何杯も飲んでいた。何気ない会話がゆったりとした午後のひとときを満たす。

 結局、野菜サラダが半分残って、夜は亭主がお好み焼きを作ることになる。少なめの小麦粉に卵と水を入れて攪拌したら、まず肉を焼いて生地をフライパン一杯に流し込む。その上に野菜サラダのキャベツやニンジンのジュリエンヌ、パプリカ、赤玉葱を載せて蓋をすれば、二三分で出来上がりだからとても簡単なのです。油も少しにしているし、全体の量が少ないのに、食べ終わるとお腹が一杯になるから不思議なのです。野菜がたっぷり入っているからか。

4月24日 日曜日 午後からは雨 だったけれど…

 昨夜はぐっすりと眠って、起き出せばもう朝のご飯の時間なのでした。朝食にベーコンエッグが出てくると、我が家の冷蔵庫が空になったのが分かる。先週は亭主の通風を気にしてか、女将が肉を買わなかったらしい。亭主がプールで泳がない分、カロリーを減らさないと内臓脂肪は減らないというのが彼女の考えで、最近は亭主も納得しているのです。不思議なことに、少量の朝食でもうお腹が苦しくなるから、慣れというのは好いのか悪いのか。

 洗面と着替えを済ませて、珈琲を一杯飲んだら、いつものように朝ドラの時間に家を出る。今日は日曜日だから女将の見ている朝ドラはないのだけれど、同じ時間に家を出るのが、やはり生活習慣というものなのでしょう。ご近所の駐車場に、八重桜の花吹雪が散り集まって見事でした。このお宅の奥さんがいつもこの場所を掃いているのを見かけるけれど、この量では掃除が大変でしょう。ゆっくり歩いて蕎麦屋に着けば、前の休耕地に生えたポピーの花があまりにも沢山だったから、思わずカメラを向けたのです。

 蕎麦屋に着いて朝の仕事を終えたら、まずは蕎麦打ち室に入って今朝の蕎麦を打つ。お客の少なかった昨日の蕎麦が随分と残っていたので、今日は500g5人分だけを打つことにしました。曇り空で午後からは雨という予報だったけれど、日曜日を馬鹿にしては行けないと言うのが亭主の考え。朝から暖かいから、車のお客は来るかも知れないと思ったのです。加水率を42%まで落として蕎麦粉を捏ねれば、イメージどおりのコシのある生地が出来上がる。

 蕎麦玉を寝かせている間に、厨房に戻ってひと仕事を終えたら、再び蕎麦打ち室に入って伸しにかかる。500gの蕎麦は奥行きはいつもと同じ90cmだけれど、幅が50cmと狭いから、伸した生地を横にしてから本伸しに入るという手間を省いて、そのまま本伸しに入るので時間も短縮されるのです。上半分の部分に打ち粉を打って、下から上に畳んでいきます。それをまた、打ち粉を打ちながら、右から左に、下から上に八つに畳んだらいよいよ包丁打ちなのです。

 切りべら26本で135gの束を五つ取ってもまだ余るから、端切れの80gほどを昨日の大盛りで使った残り半分と合わせて、亭主の食べる賄い蕎麦の分を確保しておきます。やはりこの時期はもう、加水率は42%が好いと確信しました。室温は20℃を越え、湿度も58%はあるから、天候にはかかわらず、季節はいよいよ夏に向かっているようなのです。女将が来て店の掃除を始めてくれる。亭主は厨房に戻って苺大福を包み始めるのです。

 白玉粉を四皿分の80g計量して、氷糖蜜と水を加えて溶けるのを待つ間に、苺や片栗粉、白餡を用意したのは好いけれど、白餡が残り少ないのに初めて気が付いた。こんな時は、求肥が四皿分出来てしまうから、白餡の足りない分は漉し餡を包んで、普通の大福を作ることにしている。黒い漉し餡で苺を包むのは亭主のイメージとは違うのです。食べて仕舞えば一緒かも知れないけれど、色のバランスというものがあるように思えるのです。

 大根と生姜をおろして野菜サラダの具材を刻めば、蕎麦打ちの時間が短かったから、いつもより早い時間に開店の準備が整うのでした。11時を過ぎた頃に、ちょうど車が駐車場に入ってきたから、暖簾を出して中で待ってもらえば、ちょうど女将もやって来て、お茶をお出し出来た。待ち合わせをしていたのだけれど、あとの二人が遅れると言うのです。可哀想に最初にいらっした女性は、ヘルシーランチセットを三人分注文されたまま、40分以上も待っていた。

 遅れていらっした二人の女性はリピーターの方で、予約が出来ないというので、初めての女性を先に来させたらしい。次のお客が入って、こちらはいつもコミュニティーバスの窓から、蕎麦屋を眺めていたとおっしゃる。ご夫婦で天せいろを頼まれて、お新香も美味しいし、お蕎麦も蕎麦湯も美味しいとおっしゃって、ゆっくりと食べていかれた。駐車場が満杯になった三組目のご夫婦は、天せいろとカルビ丼とせいろ蕎麦のセットのご注文。雨が降り出した。

4月25日 月曜日 初夏の暑さを思い出す晴れた一日 …

 朝の7時。駅前のスカイプラザがくっきりと見える。向こうの丘の木々も色濃く、ご近所の庭の木も新緑の葉を広げています。書斎の窓から見える景色は、すっかり夏の装いなのでした。女将の用意してくれる朝食を食べ終えたらまたひと眠りして、今日はなかなか家を出られなかった。それでも洗面と着替えを済ませ、のんびりと蕎麦屋まで歩いて出掛けたのです。澄み渡る青空と木々の緑がもう夏の気配だから、ポピー畑で今朝も写真を撮った。

 昨日の蕎麦が生舟に沢山残っていたから、今朝は蕎麦を打とうかどうかと随分と悩んでいました。どんなに天気が好くても、平日の月曜日だから、日曜日のお客の数を越えることはないだろうと、意を決したのは9時過ぎ。本当に久し振りで、蕎麦を打たない朝となりました。数を減らしながらも、毎日蕎麦を打つという方法が、土曜日のお客の入りが平日よりも悪かったので、通用しなかったのが原因でした。まさか、そこまでは読めなかったのです。

 天気が好いのに蕎麦を打てない日は気持ちが塞ぐ。厨房の椅子にす座って、じっくりと次は何をしようかと考えるのです。苺のへたの部分を切り落として、白餡で苺をくるんだら、白玉粉を氷糖蜜と水とに溶かしておいた鍋に火を入れて求肥を作る。蕎麦豆腐と同じで、これも途中で止められない作業です。十分に水分が飛んだところで鍋を布巾に降ろし、更にお玉で練り込んでいくと、白い求肥が出来上がる。熱々だから手に片栗粉をつけて素早く包んでいく。

 大根をおろして葱を刻み、野菜サラダのブロッコリーとアスパラを茹でて水に浸ける。まだ時間が早かったから、レタスを洗ったところでひと休み。包丁を使う前には意識を集中させないといけないのです。先日の「キャベツが細いのが美味しい」というお客の言葉を思い出しながら、芯に近い部分のキャベツの葉を丸めて、包丁の切っ先で刻んでいく。今週は包丁を研いでおいて好かった。アーリレッドを刻んだところで、盛り付けを始め、残る野菜を刻む。

 外は雲一つない青空が広がり、風もなく幟の文字がくっきりと読める。昼過ぎに続けてお客がいらっして、カウンターに座った親父様が「BGMはご主人の好みかい?」と聞く。小野リサのボサノバが流れていたのでした。ラテンミュージックが好きなのだとか。続いていらっしたご夫婦は、ヘルシーランチのご注文で、デザートにお出しした苺大福が白餡で包んであるのに驚いていた。巷の苺大福が黒餡なのは、餡を作る手間を省いているからではないかと思った。その昔、夢中になって読んだスタンダールの『Le Rouge et le Noir』ではあるまいし、色のバランスからしても白餡の方が優れているし、砂糖の入った既製の黒餡は甘さがしつこいと感じるのです。

 お客が来なくなったら、残った蕎麦を茹でて賄い蕎麦を食べておく亭主。それでも暇だから、東側のミニ菜園に出て絹さやを収穫する。もう何回も家に持ち帰って女将に手渡したのです。何の手入れもしていないから、目が慣れるまで何処に実があるのか見分けにくい。ラストオーダーの時間を過ぎところで、暖簾と幟と看板をしまって、明日の定休日を前に家に持ち帰る食材を吟味する。天麩羅の具材は油も古くなったから、全部揚げて夜のおかずとなりました。