2022年4月初め

4月1日 金曜日 やっと薄陽が出て …

 今日は少しは日が差しました。満開の桜も光を浴びて生き生きと感じられたのですが、青空が見えないのが心残り。朝は蕎麦屋に出掛ける直前まで冷たい雨が降っていたので、4月の初めも天気には恵まれないのかと、やる気の出ない亭主なのです。それでも、いつもより早く蕎麦屋に出掛けて、小鉢を盛り付けたり、洗濯物を畳んたり、干したりして、蕎麦打ち室に入るのでした。今朝は3℃と冬に戻ったような寒さで、暖房を入れてもなかなか暖まらなかった。

 蕎麦打ち室の温度が10℃を越えたのを見計らって、今朝は500gだけ蕎麦を打つことにしたのですが、湿度は50%を越えてているのに温度が低いから加水が難しかった。43%の加水で水回しを始めたら指先がちょっと乾いた感触だったので、少しだけ水をたしたのですが、わずか5gぐらいの加水で生地は柔らかくなりすぎた。打てないほどではないから、打ち粉を多めに振ってなんとか蕎麦切りまで辿り着く。切りべら26本で140g の蕎麦が仕上がったのです。

 雨上がりの外は、風はなかったけれど気温は低いのです。今朝は寒いから身体を動かそうと、テーブルやカウンターにある下の物置の棚まで、最初に店の掃除を終え、こんな日にはお客が来ないのではないかしらと、不安と言うよりは一種の諦めの気持ちで、厨房に入るのでした。それでも包丁を持てばいつもの調子に戻って、大根をおろし、苺大福を包み、野菜サラダの具材を刻むのです。二皿だけでも好いかと思うけれど、平日はやはり三皿と決めている。

 ブロッコリーや農産物直売所で仕入れて来たいつもの農家のトマトが、新鮮で美味しいので野菜に救われる思いなのです。最近は、お客が来るまでデザートと野菜サラダをカウンターに並べておくから、これを見てヘルシーランチセットを頼むお客が多い。今日も昼もだいぶ遅くなってから女性の二人連れがいらっして、注文されたのです。賄い蕎麦で昼を食べようと思って、茹でた蕎麦を客が来たからと冷蔵庫に入れたら、食べる頃にはもうコンビニの蕎麦。

 それでも、閉店間際にも母と息子らしい二人連れがご来店で、天せいろのご注文。今日は初めてのお客が多かったから、皆さんに店置きのパンフレットを差し上げた。ラストオーダーの時刻はとうに過ぎていたけれど、洗い物をしながらお客が食べ終えてひと休みするのを待つのです。洗い籠に溜まった蕎麦皿や沢山の皿類を、一つ一つ拭いては片付ける。少ないお客だからこれが出来るけれど、一度に大勢のお客が来たら、こうはいかないのです。

 大釜や天麩羅鍋の掃除の前に、ひと休みしようと調整池の桜を見に出れば、曇り空だというのにやはりもう満開。西の空には青空も見えてきたけれど、今年も晴れた空の下の桜は敵わなかった。家に帰る途中、幼稚園の桜をもう一度見ようと裏口の階段を昇れば、少しだけ陽が差して、垂れ込める雲と桜と菜の花と雪柳が、絶妙なコントラストを描いているのでした。女将はまだスポーツクラブから帰っていなかった。明日は彼女の助けがあるから気分も楽か。

4月2日 土曜日 開業8年目の春は …

 今年の桜の季節の中では、今朝の空が一番の青空。6時前には、もう高層マンションに朝日が当たって、とても眩しいのでした。裏の幼稚園に咲いた満開の桜も、青い空に生えてこの春一番の美しさなのです。朝飯前のひと仕事に、蕎麦屋へ出掛けた亭主は、ゆうべ糠漬けを漬けに行かなかったから、短時間で仕上がる浅漬けを漬けて米を研いで炊飯器にかける。店の中は8℃と寒い朝なのでした。大釜に湯を沸かし、カウンターに干した蕎麦皿や盆を片付ける。

 小鉢は切り干し大根と南瓜と小豆の従姉妹煮と浅漬けの三種類。今日の蕎麦は13人分と決めているから、小鉢の数も15鉢だけ。晴れてはいても風がとても冷たいから、どれだけお客が来るかは分からないのです。それでも、今朝の青空に助けられて亭主の気持ちは前向きで、お蕎麦の好きなお客はきっと来ると思えるのでした。コロナ禍でさんざん大変な思いをしたせいか、空が青くて陽が出れば、もう元気になっているから救われる。

 家に戻って、今朝は亭主がアサリのお粥を作ると言ってあったので、土鍋に水とむき身のアサリを入れて、沸いたところでご飯と餅を小さく切ったのを入れ、塩味だけをつけておきます。最後に刻み葱を入れ、寒い朝に熱々のお粥。身体が温まって暖房も消してしまうほど。洗面と引け剃り、着替えを終えたところで、女将が「今日はもう寝ないの?」と、シーツと枕カバーを洗濯に持って行ってくれる。晴れた日は洗濯日和でもあるのでした。

 朝ドラの始まる頃に家を出て、幼稚園の裏の階段の下から、今朝の青空と桜の写真を撮りました。いつもなら団地の近所から通う園児が、春休みなので勿体ない風景なのです。風は冷たく掌が凍えそうだけれど、気持ちのいい朝だと調整池の桜を見に行きました。この間、訪ねた時にはまだ五分咲きで空も曇っていたけれど、今日は桜の花に朝日が差して青い空に映えている。木の上で鴬の鳴き声がします。大きなヒヨドリまで鳴きながら飛び立っていきます。

 蕎麦屋の裏に続く階段を昇って玄関に着いたら、早速、看板を出して幟を立て、チェーンポールを降ろします。屈んで地面までポールを入れる動作のたびに、背筋を伸ばしてこれも前屈の運動。毎日続けていれば少しは身体に好いのかも。早朝に暖房を入れておいたから、店の中は暖かく蕎麦打ち室も16℃になっていました。今朝は750g 8人分の蕎麦を打って、昨日の残りの蕎麦と合わせて13人分。
万が一、足らなくなっても今日はそれで売りきれにしよう。

 今日も切りべら26本で140g の蕎麦を打つのでしたが、最近、お客が蕎麦を食べている姿を見て、ふと気づいたことがあるのです。蕎麦の1本が長すぎて蕎麦猪口に入れるのに苦労しているお客が多いのです。蕎麦を食べ慣れた人なら、蕎麦汁に浸けてスルスルッと次の蕎麦を蕎麦猪口に運ぶのだけれど、これを改善したいと思い、畳んだ蕎麦の上の耳の部分を切ることにしたのです。これなら、蕎麦1本は 50cm 以内になるから、食べやすくなること請け合い。

 朝からの天気が幸いしてか、今日は随分とお客の入った土曜日でした。歩いて来るお客や自転車のお客もいたので、当然ながらビールがよく出た。付け出しに小鉢を出すから、最後には小鉢が足りなくなってしまう。天せいろはもちろんのこと鴨せいろにカレーうどんなど、種類も豊富なのでした。8年目の開店記念日は、かくして賑わった一日なのです。亭主は昼を食べる暇もなく、家に戻って車を出したら、コンビニでサンドイッチを買って食べるのでした。

4月3日 日曜日 寒い朝 …

 昨日の青空が嘘のように、今朝は朝から雨が降っていました。この時期、部屋の温度が10℃を下回るのは、やはり寒いのです。そんな朝は、女将と二人でシャケ粥を啜るのが最近の朝食。身体が温まるから好いといろいろな食材を入れて試して見たけれど、やはり脂の乗った鮭を焼いて、お粥に入れるのが一番美味しい。小さな茶碗に二杯ほど食べたら、亭主はもうおなかが一杯でお茶をもらうのでした。部屋のストーブも消して食休みのひととき。

 日曜日だから朝ドラはないのですが、習慣とは恐ろしいもので、洗面と着替えを済ませて、その時間には傘を差して家を出るのです。夕べ風呂から上がって蕎麦屋に出掛け、出尽くしてしまった小鉢の野菜を作り足したから、今朝はその盛り付けから始める。今日と明日とで今週の営業も終わりだから、それぞれ少しずつ作っておいたのです。お新香だけは数の調節が利かないから、残ったら家で食べようと、いつもの量を漬けておきました。

 キュウリが二本、カブが二つ、ミョウバンで色止めしたナスが二つ。冷蔵庫に入れて12時間余りだから、あまり塩味はきつくない。漬ける時間との調整が大変で、手間はかかるけれど、天麩羅に添える小鉢としてはさっぱりとしていると思うのです。今日も天せいろの注文が多かったから、お新香ばかりが随分と出た様子なのです。最近はぬか漬けが苦手なお客もいるから、「お新香大丈夫ですか」とたまに女将がお客に聞いている。

 小鉢の仕込みが終わったら、やっと11℃になった蕎麦打ち室に入って今日の蕎麦を打ちます。寒いから暖房を入れてもなかなか暖まらないので、身体を動かして暖を取ろうという意気込みが、我ながらまだ若いかなと感じたのです。加水率は43%でも、今朝は雨が降るほどだから大気が湿っていてちょっと柔らかめ。単に湿度の問題ではないというのが、近ごろの亭主の考え方なのです。捏ねて蕎麦玉にしたら30分ほど寝かせて、その間に葱切りや大根おろし。

 寝かせておいた蕎麦玉を潰して最初に地伸しをするのですが、何と言ってもこれが水回しに続いて蕎麦打ちの基本だと思うのです。均等な厚味で正円を描くように、両手の掌で生地を回しながら伸し広げていくのですが、均等でないと伸し棒で丸出しをする時に、伸し始めても結局は左右上下に厚味の差が出来て、先に進めば進むほど修正するのが難しくなるのです。だから、地伸しの段階で丁寧に形を整えておくことが大切なのだとつくづく思うのです。

 今日は冷たい雨が降っているというのに、12時前にもう駐車場が満杯になって、「ただ今満席です」の看板を出すのでした。皆さん今日は蕎麦屋に行こうと思って来て下さったお客のようで、注文も直ぐに決まるから助かるのです。亭主一人が狭い厨房で調理をするから、天麩羅も二人分ずつしか揚げられないし、次々と仕上げていくしかないのです。いつもカレーうどんと鴨南蛮蕎麦を頼まれる常連さんご夫婦は、とても手間がかかるから最後で助かりました。

 12時半には皆さんお帰りになって、洗い物を済ませて1時前にはちょっと時間があったから、亭主は賄い蕎麦をぶっかけで食べておく。昨日も食べる暇がなかったから、なんと月曜日に打った蕎麦の残りなのですが、これが冷蔵庫の中で好く締まって美味しい。1時を過ぎてまたお客がいらっしたから、腹ごしらえをして元気になった亭主は一踏ん張り。今日は「お蕎麦美味しかった」と言って帰られるお客が多かった。それが一番嬉しいことなのですよね。

4月4日 月曜日 終日の雨でしたが …

 夕べは9時半になったらもう眠くなって、床に就いたのは好かったけれど4時半には激しい雨の音でもう目が覚めてしまいました。居間の部屋で珈琲を飲みながら一服して、あまりすることはなかったけれど、切れた煙草を買いに出たついでに車で蕎麦屋まで行く。店の暖房を入れて大釜に水を張り、カウンターに干してある盆や蕎麦皿を片付けたら、冷蔵庫の中身を確認するのです。家に戻れば今朝も鮭のお粥で、刻み海苔を掛けてお茶漬け気分です。

 いつもの時間に家を出てみずき通りを渡れば、スカイプラザのマンションが霧雨に煙って見えるのでした。出がけに、去年のこの時期の月曜日はお客がなかったと女将に言われ、意気消沈のまま蕎麦屋に着いたけれど、やることはあるからまずは洗濯物を畳んで、お茶を沸かしてひと休み。たとえお客があってもなくても仕事はするから、身体を動かし、頭も使う。これが元気と健康の源なのかも知れません。雨の中を幟を立ててチェーンポールを降ろすのです。

 早朝に暖房を入れてあったので、室温は16℃になっていたから、早速、蕎麦打ち室に入って今日の蕎麦を打つ亭主。加水率は43%。昨日よりは若干硬めの生地を捏ねて、寝かせている間に厨房に戻って葱切りをするのです。大根や生姜もすりおろしておきます。20分ほどで蕎麦打ち室に帰り、蕎麦玉を潰して地伸し、丸出し、そして四つ出し。地伸しの段階で均等な厚さになっていたから、四つ出しも綺麗な形で伸し広げられました。

 これを90度回転させていよいよ本伸しにかかります。生地が硬めだと、十分に伸さないと奥行き90cmまで伸びてくれない。蕎麦粉を捏ねる時よりも、むしろこの伸しの方が身体が温まるのです。八つに畳んで包丁切りをする時には、「よしッ」とかけ声が入る亭主。切りべら26本で140g。たった500g の蕎麦を打つのにも、気合いが入るから楽しい。この蕎麦を食べてくれるお客が来れば一番好い。毎日がこの調子だから、前向きになれるのかも知れません。

 再び厨房に戻って苺大福を包んだら、野菜サラダの具材を冷蔵庫から取り出して、大釜のお湯が沸くのを待ってポットに入れていくのです。二つは蕎麦茶のポット、もう二つは蕎麦湯や温かい汁の器を温めるためのポットです。明日は定休日だから、サラダの具材も今日で使い終わるようにと使ってきたけれど、キャベツは大きかったから残ってしまう。天麩羅の具材もやはり多めに仕入れてくるから、どうしても残るのは仕方がないのです。

 今朝の女将の言葉が呪文のようで、降りしきる雨の景色を眺めてお客を待っていたら、激しく降る雨の中を車が駐車場に入ってくるのでした。男性の一人客がカウンターに座ってヘルシーランチセットのご注文。サラダや蕎麦豆腐を食べていただいている間に蕎麦を茹で、デザートを出しているところで、次のお客がいらっしゃる。リピーターの女性の二人連れなのです。こんな天気の中でも蕎麦屋に来てくれるお客がいるのは、有り難くも嬉しいことなのでした。

4月5日 火曜日 曇りのち晴れの定休日 …

 朝の6時に車で家を出て、蕎麦屋の前のバス通りを右折。こんもりと繁った森の入り口にある桜を見に行きました。ソメイヨシノはもう散り際で、雨上がりの地面には命を終えた花びらが、一面に散り敷かれているのでした。この通りの桜の木はどれも大木で、森の中央にある出羽三山を祭った石碑も、かなり古いものなのです。たまに鳥居の前で手を合わせている人を見かける。わずか40年あまりの新興の団地は、何百年の歴史を持つ地区の生活には敵わない。

 蕎麦屋に着いて昨日の片付けを済ませたら、中簿の椅子に座ってコーヒーを飲みながら、今日の仕事の段取りを考える亭主。お袋様と仕入に出かけたら、出汁取りと煮物を作り終えれば午前中が終わるだろうと、定休日のゆったりとした頭で考える。昨日は持ち帰れなかった小鉢の残りを盆に載せたまま家に戻れば、早速、朝食に出してくれたので助かった。まずは蕎麦屋の残り物の処理から定休日は始まるのです。タンパク質を補給しようと目玉焼きが付いた。

 仕入れに行くまでにはまだ時間があったので、100m程離れたところにある公園まで歩いて、椿と桜の花の写真を撮る。このあたり一帯の桜は山桜なのか、葉が出ているのに花が咲いているのです。公園の北側からは、いつも女将が野菜を分けてもらっている農家の桜が、菜の花畑の向こうに綺麗に咲いていました。ここの桜もソメイヨシノではないから、咲き出すのが遅いのだと女将が言う。これで空が青ければ、好い写真になるのにと思うのでした。

 居間で休んでいたら、女将が「テッシュペーパーとトイレットペーパーを買って来て」とメモを持って来る。仕入れ出買うのには多すぎるから、車をを出して駅前のドラッグストアに行く。お袋様に電話をして迎えに行けば、「今朝も寒いね」と車に乗り込む。農産物直売所では、いつもの農家のトマトが沢山並んでいた。ちょっと高いけれど、地元のファームで作っている取れたての新鮮な完熟苺を買ってみる。前に並んだ奥さんは何パックも買って帰った。

 蕎麦屋での午前中の仕事を終えたら、家に戻って食材の仕入れをパソコンに入力する亭主。湯が沸いたからと台所に呼ばれて、今日の昼飯に蕎麦を茹でるのです。明日の分の蕎麦もまだ蕎麦はあるから、少しは暖かくなって女将も嫌がらないので助かるのです。この時期、やはり蕎麦は美味しい。蕎麦屋から持ち帰った蕎麦汁も、手前味噌ながら最高の味なのです。食後は書斎で横になってひと眠りすれば、1時間足らずで目が覚めて、午後の仕込みに出掛ける。

 蕎麦屋まで車で行ったら、今朝の仕入れで通った小学校の桜並木が散り際の華やかさだったので、駐車場に車を止めたまま、100m ほど歩いて坂を下ったのです。少し青空が見えてきたので、好い写真が撮れるかと思ったけれど、スマホの写真はいろいろ設定を変えて何枚も取るけれどまだまだです。蕎麦屋まで戻って、下茹でしておいた大根を煮付け、烏賊を捌いてさっと湯がいたら一緒にして、小鉢の一品の完成。続けて出汁取りをして蕎麦汁を仕込む。

 二時間ほどで仕込みを終えて使った鍋やボールを洗ったら、定休日一日目の仕事はこれでお終いです。空が晴れて陽が差してきたから気持ちが好いのでした。通りには散歩で歩く人たちがちらほらと出ている。前の畑も菜の花ももう終わりなのだけれど、新芽が芽吹いた後ろにある森の木々のうっすらとした綠と相俟って、午後の青空に美しく映えているのでした。家に帰って今日撮った写真の整理をする亭主。女将が夕食の支度をしてくれている。

 今夜は湯豆腐にでもしようかと言っていたのに、食卓には酒の肴にはぴったり品が並んだ。蕎麦屋のミニ菜園で採れた春菊の胡麻和えはなかなかの味。テレビのニュースは朝も見たウクライナの惨状を報じていました。最近はコロナの感染ニュースよりも多いような気がする。決まって「いゃ~ね」と言う女将。彼女は新聞も詳しく読んでいるから、解説にいとまがないのです。亭主は昼も夜もBSのニュースを見ているから尚更なのです。今日はこれでお終い。