2022年3月末

3月27日 日曜日 やっと桜が咲いた …

 午前5時に家を出ました。幾分、空がうっすらと明るくなりかけているのが、春の兆しなのでしょうか。今週は、コンスタントにお客が入ったから、蕎麦も蕎麦汁も補充しておかなければいけない。日曜日の今日は、さらに暖かくなって陽も出ると言うから、ゆめゆめ蕎麦が足りないなどということがあってはならないと、今朝はまだ暗いうちに一回目の蕎麦を打つことにしたのです。加水率は43%できっちりとした生地に仕上がる。切りべら26本で140g。

 40分ほどで蕎麦を打ち終わり、厨房へ戻って今度は蕎麦汁を詰め替える作業です。大盛り用の蕎麦徳利とあわせて16人分用意できたから、ちょうど蕎麦の数と同じ。コロナ禍になってからは、これが一番多い数なのです。以前は20人を越えるお客が来たものですが、今は夢のまた夢。日に10人を越えれば、まずまずというところなのです。結果として、今日はその10人を越えてお客が来たので、早朝から頑張った甲斐があるというものです。

 蕎麦屋から帰る道で、向こうの幼稚園の桜が咲いているのが見えた。やっと咲いたのです。今年は暖かいのかと思ったら、霜の降りるような寒い日が続いたから、桜もいつ咲こうかと戸惑っていたのかも知れません。女将に言わせると「○○ちゃん(長女)の大学の入学式の時にも桜が満開だったから、いつもの年に戻ったんじゃないの」「おいおい、それはもう20年以上も前のことだろう」と、亭主が応えるのでした。もしかして温暖化は徐々に進んでいるのか。

 家に戻れば今朝には亭主が大好きなノルウェー産の鮭を焼かれていました。大きな一切れを塩辛い(極甘塩だけれど)のが苦手な女将が少しだけ身を切って、脂の乗ったハラミの部分を亭主が食べるのです。農家でもらった小蕪とその葉を味噌汁にして、とても美味しくご飯を食べたから、亭主は大満足。居間の椅子に座ってお茶をもらったら、早速、書斎に入ってごろりと横になるのでした。朝の早かった分、30分ほど微睡んで頭がすっきり。

 洗面を終えて着替えていたら、女将が「今年はスモモの花がとても綺麗に咲いたのよ」と言うから、蕎麦屋に出掛ける前に庭に出て写真を撮っておきました。なるほど、いつもはほとんど咲かない右側の木が、今年は随分と花を付けているのでした。雄と雌の木を植えないと実がならないと言うので、お隣との塀際に二本並べて植えたのはどのくらい前だったか、一度だけ実がなって、女将が「売っているスモモと同じ匂いだわ」と喜んだことがある。

 蕎麦屋に着いたら、今日二度目の蕎麦を打つ。加水の加減が分かってきたので、包丁の刃に切った蕎麦がくっつくこともなく、均等な太さで切りべら26本で140gの仕上がりでした。これを二回続けて打つとなると、どうしても気持ちが焦るのか、上手くいかないことが多いので、今朝の二度打ちは正解なのでした。蕎麦は自分に合った打ち方で打つのが一番好い。16食の蕎麦を用意して、今日の来客に備える。晴れて暖かくなった一日で、これも大正解なのでした。

 厨房に戻ってもまだ時間に余裕があったから、今週は店が混んで汚れが酷くなったレンジ周りを掃除する。暖かくなったから天麩羅が多いので、油がはねるし、溶いた天ぷら粉が垂れるから汚れるのです。何十年も調理の仕事をしてきたお袋様に言わせると、上手に作れるようになるとあまり汚さないのだそうな。蕎麦屋の客の何倍も沢山の数をこなしてきた彼女の言葉は、いつまでも亭主の戒めとなっているから有り難いのです。

 あまりにも急にお客が増えたので、仕入れた食材が早めになくなった今週でした。天麩羅の具材もナスや生椎茸は、女将に頼んで買い物のついでに買い足してもらったのですが、季節が終わって値の高くなった蓮根などは、代わりに仕入れてあった冷凍の筍を天麩羅にして出す事にしました。旬の苺も今週は、毎日大福が売り切れたので、今日は足らなくなった。残っていた金柑の甘露煮を加えて、客の増えそうな日曜日だからと六皿も用意しておいたのです。

 ところが、今日もデザートは全部売り切れ。昼前からお客が入り始めて、天せいろを中心にせいろ蕎麦やかけうどん、鴨せいろといろいろな物が出るのでした。不思議なことに、土日だけ炊いているご飯物は出ない。用意した小鉢も蕎麦汁も全部なくなったので、亭主は夕食後に風呂から上がってまた蕎麦屋に出掛ける。出汁を取って蕎麦汁を仕込み、家に戻ったのは夜の10時過ぎなのでした。コロナ禍以前の混んでいた頃も、やはりこうだったのだろうか … 。

3月28日 月曜日 やはり春の風景 …

幼稚園の桜が三分咲き。菜の花や雪柳と春の色を醸し出している。これまでも毎年、こんな時期があったのだと、忘れていた物を見つけた気分なのです。夕べは出汁を取るだけで精一杯だったから、今朝は女将の朝ドラが終わるのを待って「行って来ま~す」と蕎麦屋に向かう亭主。今週は、4日間でもう30人以上のお客が来ているから、暖かくなって、今日も平日とは言え、準備だけはしておかなければ行けないのです。

 買い置きしてある切り干し大根をお湯で洗ったら、冷凍してある油揚げと出汁取りに使った干し椎茸を戻して、ニンジンを切り、今ある食材で小鉢を作ろうと決めていた。出し汁で煮込む間に、解凍してあった海老をタッパに詰め、盛り付ける小鉢を並べておく。蕎麦打ち前にここまでは終わらせておこうと、来る道々考えていたのです。週末に煮ておいたいとこ煮を一緒に、七鉢だけ盛り付けて、来てもこのくらいだろうと、先週の月曜日を思い出す。

 蕎麦打ち室に入って、今日は500gだけ蕎麦を打つ。加水率は43%で、少し硬めに仕上げて包丁切り。切りべら26本で140gは、いつもと変わらない。最近はこの太さで我慢しているのです。細くするならもっと生地を薄く伸して、切りべら28本なのだけれど、最近は若いお客が多いから、少し歯ごたえのある方が喜ばれる。蕎麦の美味しさは喉越しとコシの好さに、コクのある蕎麦汁で決まると考えている亭主。蕎麦の香りのあるのは新蕎麦の頃だけなのです。

 昨日は混んだので、用意した薬味の葱がもうなくなっていた。こんな時にはミニ菜園に出て、分葱の育ったのを鋏で切ってくるのです。以前も使ったけれど、根を残しておくとまた生えてくるから助かる。隣のベビーリーフは、レタスが足らなくなったときに使うのですが、最近は、レタスが足りているから、伸び放題で困った。そのまた隣の春菊も随分大きくなってきたので、蕗の薹のなくなった今日は、先端の若い芽を摘んで天麩羅に使おう。

 大福は苺がなくなって、金柑の甘露煮も残り二つになったから、平日だからと二皿だけで終わりにしました。黒餡を包んで普通の大福にしても好いのですが、月曜日はまずデザートが出ない。野菜サラダの具材を刻んで皿に盛れば、今日の仕込みは完了です。大釜の湯は沸いているし、天麩羅油も天つゆも温め終えている。天気は好くて青空も覗いているから、今日も桜の花が更に開くのだろうと、外履きの雪駄に履き替えて、蕎麦屋の下の桜並木を観に行く。

 調整池の周囲に桜を植えてあるのですが、年月とともに随分と立派になって、ちょっとした桜並木。蕎麦屋の脇の細道を通って、階段の上から眺めると、いつの間にと思うほど花が開いているのでした。ご近所の家の人にはこの時期、好い眺めでしょう。店に戻って暖簾を出してお客を待つけれど、一向に来る気配がないから不思議です。こんなに好い陽気の日なら、平日でもお客が来ても好さそうなのに、この週末にあちこち出掛けてひと休みなのだろうか。

 昼時を過ぎてもまだお客は現れず、毎週、月曜日に来ることの多い常連さんも今日はお休みらしい。今週は、コロナ禍のいつもよりお客の多い日が続いていたから、たまにはこんな日もあるのかも知れないと、亭主はタブレットのネットで、アサリを使った料理の研究を始めるのでした。出入りの業者に勧められて、むき身のアサリの大袋を買ったのはいいけれど、深川丼はご飯のない平日には出せないし、手間暇もかかりそうなのでした。 

 あとは掻き揚げに入れて天麩羅で出すのが一番だろうと、1時も過ぎたので賄い蕎麦に、三ツ葉とアサリとのかき揚げを載せて、試食してみたのです。アサリの香がするから、これはなかなか行けるかなと思うけれど、ぶっかけ蕎麦そのものが最近はあまりでなくなった。三ツ葉以外にも何か組み合わせの好い食材を見つけて、アサリ揚げとして単品で出してもいいかも知れない。今日は天麩羅の衣が少し硬かったから、次回はもっと緩く溶いて揚げてみよう。

 結局、今日は今月初めてのお客のない日でした。「そんなことでめげてちゃ駄目だよ」とは、よく行く床屋の親父様の言葉で、明日も月末だから頭を刈ってもらいに行く。洗い物もないから、片付けも直ぐに終わったけれど、天麩羅の具材が残ったので、アサリのかき揚げと筍の天麩羅など、家の夕食と明日の昼の蕎麦の分にと、天麩羅を揚げたので時間がかかった。蕎麦屋の前の畑には一面に仏の坐が花を咲かせて紫の絨毯。春らしい景色なのです。

3月29日 火曜日 花曇りの定休日 …

 昨日の朝に桜が咲き始めたと思っていたら、店から帰る頃にはもっと花が開いていたので、今朝は朝ドラが終わったら女将と近所の桜を見て回ろうと話したのです。ところが今日はあいにく花曇りで朝から寒い曇り空。確かこんなことが去年もあったと、うる覚えの記憶をたどるのでした。青空が出ていないと、桜もあまりぱっとしないから、写真を撮っても見栄えがしないような気がするのです。まずはスモモや連翹、水仙、雪柳など庭の春を撮って出掛ける。

 家の裏の幼稚園には古い大きな桜の木があるから、これを見るのが楽しみなのでした。スマホのカメラはなかなか使い慣れないから、ズームや接写もあまり画質が好くないような気がするけれど、単に記憶するだけのためなら、とても便利なツールです。見る人が感動するような写真を撮るのには、腕前もあるけれど、やはりカメラの性能も大いに関係するのではないだろうか。露出もシャッター速度も自動という便利さには、自ずと限界があるのでしょう。こんな時代だから、スマホのカメラにも高機能のものがあるのかも。

 「今日は寒いわね」と、女将が先に立って家の前の通りを歩き出したけれど、公園の脇にある農家の畑に来て足を止める。ついこの間、垂れ梅の花を見に来たときよりも菜の花畑の花が開いて、黄色い春の風景が広がっている。その奥に大きな桜の木が一本あるのだけれど、まだあまり花が咲いていなかった。これがいつも女将の野菜をもらいに行く農家の裏庭だから、手入れも大変なのでしょう。畑の間の細道を通って家の裏手のバス通りに出る。二人とも、今日の曇った空にがっかりして、直ぐにみずき通りを左に折れた。

 亭主は家に戻って車を出したら、お袋様を迎えに行っていつもの仕入れの店を回った。車外温度は11℃だったから、暖かい日になれた身体にはとても寒く感じられるのです。スーパーでまだ出ていなかったアスパラを残して、今日の仕入れは完了。そろそろデコポンが終わって清美オレンジが出る頃らしい。やはり旬の果物は苺なのか。当分、苺大福が続くのかと、今日も冷凍の白餡を買って帰った。野菜を冷蔵庫に収納したら、散髪に出掛ける亭主なのです。

 床屋の親父様の話は、何と言ってもウクライナ情勢。髭を剃ってもらいながら、しばし微睡む亭主。昼前に家に戻れば、女将が蕎麦を茹でるお湯を沸かしてくれていた。昨日揚げて帰った天麩羅をグリルで軽く焼いて、蕎麦の大盛りを食べるのでした。女将はこの寒いのに冷たい蕎麦を食べるからと、ショッピングセンターの本屋に歩いて行って身体を温めて来たのだと言う。客の来なかった翌日には、家に持ち帰った蕎麦が沢山あるからなのです。彼女には申し訳ないけれど、天麩羅も蕎麦も美味しいから許されるか。

 午後はやっぱり定休日だから、ひと眠りしてから蕎麦屋に出掛ける。暇な時にまた出汁を取っておかないと、次の出汁取りが営業日になるから、一番出汁、二番出汁を取って、蕎麦汁を仕込んだら鍋のままラップを掛けて冷蔵庫に入れておく。帰り道、調整池の畔の桜を見に寄ったら、やはりまだ五分咲きにも満たなくて、空も曇っていたからあまり綺麗だとは感じなかったのです。アサリのむき身を大量に仕入れて、先週は蕎麦屋で出す機会がなかったから、夜は亭主が老舗のレシピを印刷して、女将に初めて深川丼を作ってもらう。庶民的な味わいで女将も意外と喜んでくれたから好かった。

3月30日 水曜日 曇り空の続く定休日 …

 夕べの天気予報では今朝は晴れると言っていたのに、起きてみれば昨日と同じような曇り空。春の天気に一喜一憂するのにも疲れるので、なるべく気にしないようにはしているのですが、写真を撮るとやはり物足りなく思うのです。気が晴れないというのは、こういう状態を言うのでしょうか。
 今週は小鉢の食材も作ったばかりだし、蕎麦豆腐も蕎麦出汁も仕込んだばかりだから、蕎麦屋に出掛けていっても、洗濯物を畳んだり干したりするぐらいしか仕事がない。汚れた厨房の床を綺麗にするか、モミジの切り落として残った枝を袋詰めするかと考えていたら、小雨が降り出してきたから困ったものです。

 幼稚園の裏口の階段を昇って、桜の花の様子を見れば昨日よりは大分花が開いている。空が青く晴れていないのが悔しい限り。コロナの感染者が市内でもまた増えていると、新聞を読む習慣のある女将が言っていた。テレビのニュースも朝からウクライナ情報で、明るい話題がないのは寂しいのです。
 洗面を済ませて着替えをしている間に、陽が差して青空も覗いてきたから、少し気を取り直して蕎麦屋に出掛けることにしました。今日は11時半に女将のスポーツクラブの予約を取らなければならないから、午前中に残された時間は2時間足らず。僅かな距離だけれど、のんびりと歩いて蕎麦屋まで出掛けて行こうか。

 蕎麦屋の前の畑には仏の座の花が映え広がり、菜の花畑の向こうの森の木々も、新芽が出てうっすらと綠がかって見える。薄曇りの太陽が出て、気温はどんどん上がっているようなのです。すっきりと晴れた青空は望めそうになかった。蕎麦屋の店内は16℃と、暖房を入れなくても作業は出来る。鍋やボールなど、昨日の洗い物を片付け、IHでポットにお湯を沸かしてほうじ茶を飲む。何から始めれば好いのか、しばし思案の時なのです。明日の準備で残っているのは、天麩羅の具材の切り分けと糠漬けを漬けることだが、これは夕方に業者から荷物を受け取る時にした方が好い。

 取りあえず洗濯物を畳んで、洗濯機の中の洗濯物を干したら、軍手をはめてミニ菜園に出るのです。この間は手前の雑草を取ったから、今日はその奥の絹さやのある菜園と野菜ポットに生えた草を取っていく。多くは仏の座で、根が浅いから直ぐに抜ける。お隣の芝生の庭にもクローバーの芽が出ているけれど、取りあえずはこちら側から雑草の種がこぼれて仕舞わないうちにと、30分ほど頑張る。
 30㍑のビニール袋が一杯になって、後は空いた場所に抜いた草をどんどん置いていくだけ。腰をかがめて作業をするので、これ以上は無理だと諦める。伸び広がった絹さやの茎をまとめて支柱で支えておく。花が咲いているから、これから実が付くのだろう。確か、四株ほどしか植えていないのに、こんなに大きくなるのだったら、初めからきちんと支柱を立てるのだったと反省するのでした。

 10時半を過ぎたから、家に戻って昼食の支度をしなければと、昨日訪ねた調整池の桜を見ながら家路につく。曇り空ではとうてい綺麗な写真は撮れないけれど、花はだいぶ開いてきたのです。こんな天気では花見気分にはなれないのが残念。家に帰れば、買い物に出ていた女将も戻っていて、昼はとろろ蕎麦で好いかと尋ねる亭主。大きな鍋に湯を沸かしている間に、調理台に蕎麦笊を出して、食堂のテーブルを拭く。そのうちに女将も稽古場から現れて蕎麦猪口や蕎麦汁を用意してくれる。時計は11時をとうに過ぎていました。

 二日続けて昼は蕎麦。暖房を入れなくても暖かいから、気温は上がっているのでしょう。今日も大盛りにした蕎麦を啜って、ああ美味いと満足そうな亭主です。やはり蕎麦屋の蕎麦汁も美味さの秘訣なのだった。蕎麦を茹でる家の鍋は、大きいと言っても直径26cmでせいぜい5㍑だから、蕎麦屋の大鍋にはとうてい敵わない。たっぷりのお湯で茹でた方が、蕎麦は美味しいし、蕎麦を洗う笊とボールもたっぷりの流水で洗った方が好く締まるというものなのです。蕎麦湯を飲んだら急いで書斎に入り、パソコンに向かって時計の針が11時半になるのを待つ亭主。今日も無事に好い席が取れた。

 昼食を食べ終えても今日は眠くならなかった。あまり動いていないからかも知れない。不思議なことに、定休日でゆっくり休むと腰痛もなくなるのです。女将は近所の桜を見て回ると言って、一人出掛けて行った。亭主は3時過ぎに車でコンビニに出掛け、煙草と酒の肴を買って帰る。花見から帰った女将は、桜の花が随分開いていたと言う。やはり曇り空が今ひとつと亭主と同じ感想なのでした。
 荷物を置いたら蕎麦屋に出掛けて、明日の天麩羅の具材の仕込みを始める。今週は好い蓮根が出ていたので、値が張るけれど仕入れてしまった。冷蔵庫から糠床を出して、キュウリとナスとニンジンとカブを漬け込んだ。4時半過ぎに業者が天麩羅油と海老を持って来た。胡麻油と綿実油の天麩羅油は1000円も値上がりしたと言うから驚いた。ガス代も電気代も何時の間にか値上がりしている。蕎麦屋の料理の値段は、去年の春に一部分上げたばかりだから、当分は今の料金で頑張らないといけない。明日は晴れると言うけれど…。

3月31日 金曜日 散り始めた桜 …

 暖かい朝でした。家の裏窓から見える幼稚園の桜も満開です。つい先日咲き始めたばかりだと思っていたのに、季節の巡るのは早いもので、曇っていた昨日までの温かさも手伝ってか、今朝の陽射しに薄いピンクの花が目に染みるのです。みずき通りを左に折れれば蕎麦屋に向かうのに、今朝は右に曲がって幼稚園の入り口にある桜の木を眺めたのです。この間見た時と違って、やはり花は満開。バスの停留所が出来て、私鉄の駅からここまで約5分。日に何本かしかないけれど、ここからは蕎麦屋まで約100メートルなのです。

 幟を立ててチェーンポールを降ろせば、今朝の青空が眩しい。金木犀の木の裏側に、もう一つのバス停があります。こちらはモノレールと同じ地元のディベロッパーの運行するミニバスで、日に3本だけだけれど、団地の中を回って駅までも行くようになったから便利なのです。農家の畑に植えた菜の花が今が盛りと咲きほこっている。いつもより早い時間なので亭主も余裕がある。厨房に入ってまずは残り少ない天麩羅油の缶を空にしておきます。鍋には一杯。

 珈琲を一杯飲んで、今朝の段取りを考えたら、蕎麦打ち室に入って蕎麦を捏ねる。水回し、菊練りを済ませ、蕎麦玉にしてビニール袋に入れて寝かせて置きます。今日の加水は43%。少し硬めだけれど、このくらいが最近はこれでちょうど好いのです。蕎麦玉を寝かせて置く間に、厨房に戻って夕べ漬けた糠漬けを取り出し、切り分けたら小鉢に盛っておく。9時を過ぎたから、再び蕎麦打ち室に戻って蕎麦を伸します。いつもより30分は早い。

 今日は天気が好くなり、気温も上がると言う予報だったから、蕎麦は 800g 9人分を打ちました。今月の曜日別の来客数を見ても、そんなにお客が来るとは思えないのだけれど、コロナ禍がなければ、春は蕎麦屋もかき入れ時なのです。コロナ禍以前は3月は売り上げも数万円も余計にあった。それが二年前にはがくんと落ちて、去年は幾分持ち直したけれど、今年は去年ほどはお客が来ていないのです。それでもこの春の桜日和りだから、少しは期待するのですね。

 800g の蕎麦粉からは、切りべら26本で135gの蕎麦が9人分取れるから、今日はきっちり135g にして少し細めに仕上げました。いつもは最後に残る端切れの処理が面倒だから、140g にしているのだけれど、実際にはこれでは少し多すぎるのです。先日蕎麦屋にいらっしたお客も、蕎麦屋で蕎麦を打っているという話でしたが、一人前は 120g ほどだと言うことでした。少なければ大盛りを頼めば好いのだから、少ししか食べられない人のためには、120gも好いのか。

 蕎麦打ちを早めに終えて、葱切り、大根、生姜をおろし、苺大福を包んだら、野菜サラダの具材を刻む。天麩羅鍋の油と天つゆを温めて、店とトイレの掃除とテーブルのアルコール消毒。開店の準備が出来たところで、亭主は一休みなのです。朝から3時間以上も立ちっぱなしで、また腰が痛くなりました。それでも最初のお客が来れば、もうそんなことは忘れて元気になるから不思議なのです。
 今日は一人のお客が多かった。天気が好いから散歩のついでに立ち寄った方は、ノンアルコールのビールも頼まれてゆっくりする。大きな車でいらっしてお一人でカウンターに座る方、皆さん天せいろを注文するのは暖かい日の証拠なのです。年配の女性客お二人はヘルシーランチセットのご注文。テーブルに座れば女性は話は長いから、亭主は蕎麦茶のポットを置いてくる。最後は隣町の常連さんで、野菜サラダと辛味大根でせいろ蕎麦。いつも話が長いから、亭主はとうとう昼飯を食べ損なう。 

 やっと洗い物を終えた頃に、玄関が開いてスポーツクラブから帰った女将が来てくれる。片付けるだけでも二人だと時間は半分になるから有り難いのです。家に戻って女将のスポーツクラブの予約を済ませたら、彼女が焼いてくれた餅を頬張ってテレビ映画を観る。亭主は今日は昼寝もしないでパソコンに向かい、今月の売り上げの集計をするのでした。やはり、去年には及ばない。
 夕刻になって、コンビニまで酒と煙草を買いに出たついでに、その隣の公園の桜が素敵だったから、写真を撮りに入り口の坂を登る亭主。空の青さが少しは見られて好かったかも知れない。午後からは冷たい風が吹き始めて、団地の中も桜の花びらが飛んでくるのでした。もう散ってしまうのかと儚(はかな)い定めの春の出来事。家の中では暖房を点けるほどではなかったけれど、晩ご飯はちゃんこ鍋。明日の朝は寒くなると言うけれど、昼間はどうなのだろう。