2023年3月下旬



3月20日 月曜日 今日も大勢のお客様がいらっして …


 混んだ日の翌朝は、仕込みや片付けなどやることが多いから、つい早く目が覚めるのです。夕べも疲れて10時には床に入ったのに、今朝は4時前にはもう目が覚めてしまいました。居間の部屋の椅子に座って珈琲を飲みながら、じっと今朝の朝飯前の仕事についてあれこれと考える。暗いうちに家を出て、歩いて蕎麦屋に向かう。とにかく身体を動かさなければ、しっかりと目が覚めないのではと、半分寝ぼけた頭で通い慣れた道を歩くのでした。

 まだ暗いうちに店の電気を点けて、カウンターに積み上げられた盆や蕎麦皿などを戸棚に入れていく。空になった蕎麦徳利を調理台に並べて、冷蔵庫から蕎麦汁の入った容器を取り出し、お玉とじょうごで蕎麦汁を詰めていくのです。朝早くはしっかりと目覚めていないから、火や包丁を使う作業は出来るだけ後に回すようにしている。次に二番出汁を鍋に150cc入れ、200ccの返しを加えて天つゆと温かい汁を作る。隣の火口ではキノコ汁を仕込んでおく。

 6時を過ぎた頃に、やっと太陽が向かいの森の彼方から姿を見せる。玄関を出て日の出の写真を撮ったら、朝飯前のひと仕事の片付けに入るのです。6時半には家に戻り、女将はまだ起き出してく来ないから、書斎に入ってごろりと横になる。30分ほど眠って食堂に行けば、そろそろ朝食の時間なのです。久し振りに混んだ昨日の疲れで、女将も珍しく足が痛いという。亭主は腰が痛くて堪らないから、二人ともそれなりに年を取ってきているのでしょう。

 簡単な朝食を済ませて、女将が朝ドラを見ている間に亭主は着替えと洗面を済ませる。朝ドラの終わる時間に「行って来ま~す」といつものように家を出るのでした。混んだ日の翌日は、小鉢もすっかりなくなっているから、最後のお新香を盛り漬けて、それでも足りないから、玉葱をスライスして水に浸し、人参を千切りにして塩を振って、出し汁を沸かして出汁醤油とお酢と砂糖で味付けをしたら、天麩羅鍋に油を入れてワカサギの天麩羅を揚げていく。

 時計が9時を回ったところで、亭主は蕎麦打ち室に入って今朝の蕎麦を打ち始める。加水率は46%、切りべら26本で140gの蕎麦を8束仕上げたら、今日はお終い。月曜日は亭主一人での営業だから、これ以上は忙しくなりすぎて難しいのです。一人でお茶を出したり注文を取ったり、会計をしたりだから、女将と二人の時の半分の量しかこなせない。それ以上お客がいらっしても「お蕎麦は売り切れ」でご免なさいと謝るしかないのが辛いところなのです。

 空は晴れて空気はヒンヤリとしているけれど、陽射しは強くなりそうなのです。厨房に戻って金柑大福を包み、昨日研いだばかりの包丁で、野菜サラダの具材を刻んだら、いよいよ開店の準備を始める。今日は開店前からお客がいらっして、ご家族連れが二組も入ったから大変でした。昼前にもうテーブル席は満杯になって、小学校の卒業式を終えたという例の少年もやって来た。12時半を過ぎた頃に、もう蕎麦の数のお客が入ったので、「売りきれ」の看板を出す。

 駐車場に次々と来るお客は、看板を見て皆帰って行く。天麩羅うどんを注文するお客がいらしたので、一人客だけは亭主が出て行って店に入っていただいた。昼にお客が集中したのです。オーダーを3人分覚えておくのも大変なのでした。天麩羅を揚げたり、蕎麦を茹でたりしている時に会計をするお客には、ちょっと待っていただく。狭い店だから、お客も状況を察して下さるのでした。全ての注文の品を出し終えたのは、もう1時前なのです。

 一人客の女性が会計の際に、「細い蕎麦を打つお店だと聞いて来たのです」と言うから、「蕎麦が細いと怒るお客もいますけれど」と意気投合。今は切りべら26本で130gだけれど、以前は28本まで細くしていたのです。田舎蕎麦と呼ばれる蕎麦は随分と太いのが一般的。これはその地方の食文化なのだろうと亭主は思っている。細く均等な厚さで打つ方が難しいけれど、何処で折り合いを付けるかは更に難しい。1時半にはお客は帰ったけれど、まだ車が入ってくる。

 明日は定休日だけれど、朝からお袋様を連れて墓参りに出掛けなくてはならない。それでも休みだからと、ゆっくりと片付けをしてゆっくりと洗い物を済ませていく。スポーツクラブから帰った女将が亭主の帰りが遅いからと、心配して来てくれた。片付けも女将と二人でやる時の二倍の時間がかかるから、仕方がないのです。4時前には二人で家に帰って、明日の墓参りの花を隣町のスーパーに買いに行った。ほとんど売り切れなのには驚いたのです。

 

3月21日 火曜日 春分の日でお彼岸の墓参りに …


 WBCの決勝戦の合間に書いているこのブログ、毎日見て下さっている方には大変失礼しました。ブログのサーバーの契約が一年だったのを忘れていたら、すべての機能が停止になってしまっていたのです。早速、支払いを完了したら、この画面に戻ることが出来ました。一年経つともう去年の事を忘れてしまうから怖いのです。

 今朝は曇りかと思ったら青空も覗いて、お彼岸の中日だからとお袋様と女将とで近くの霊園まで墓参りに出掛けました。昨日のうちに女将が草取りに来てくれて、無事に墓参が出来たのです。入り口にあるソメイヨシノが三分咲きで、何やら黒い鳥が止まっていました。先程来、女将が鶯が鳴いていると言っていたので、これは鴬だとすぐに判ったのです。黒っぽい茶色の身体が動くと、我々人間には「黒い」鳥にしか見えない。メジロの黄緑とは大違いなのです。

 そのまま三人で隣町のスーパーに出掛けて、今週の仕入れを済ませる。いつも行っている駅前のスーパーよりも安いと、鰯まで買い込んで帰る女将なのでした。二人を家まで送って、亭主は蕎麦屋に戻り白菜のお新香を漬ける。本当に今年は、白菜もこれで終わりなのだろうと思うと何故か寂しくもある。やっと美味しく漬けられるようになった頃には、季節が終わるのです。来週からは、糠漬けを再開するのだろうか。家に戻って昼飯の用意を始める亭主。

 蕎麦屋の回りの景色も春めいて、菜の花畑も今日の青空に映えていた。昼飯は先週の小鉢の残りものを寄せ集めておかずにする。ワカサギの南蛮漬けとトマトととろろ芋のおろしたものに、キノコ汁を薄めた汁物にして、十分に美味しい昼飯なのでした。WBCの準決勝を勝ち抜いた日本が、明日はいよいよ決勝でアメリカと戦う。夕刻からは大相撲もあるし、観ている方もなかなか大変なのです。午後は日本の決勝進出で興奮して眠ることが出来ない。

 しばらく行っていなかった西の町のホームセンターに出掛けて、洗剤や消毒液や天削げの割り箸を仕入れてくるのでした。通り道の桜の花もまだ四分咲き。店に戻って朝のうちに昆布と干し椎茸を浸けておいた鍋で出汁を取る。一番出汁を取ったら蕎麦汁を仕込み、二番出汁は少し大きな鍋で5㍑の量を取っておくのでした。来週は少し冷えるというから、暖かい蕎麦の汁も仕込んで置かなく。明日はいよいよ午前中から決勝戦だから、余分に仕込みをしておく。

 切り干し大根の煮物も作って、明日の仕事を減らしておくのでした。家に戻れば、庭の雪柳がやっと綺麗に咲きそろっていた。刈り込みすぎると花が咲かなかったりで、何年か掛けてやっとこの形に花を咲かせられるようになった。花の好きな女将も、冬の間、寒かったせいか植木鉢をそのまま庭に転がしてある。春を過ぎたらまた草取りをしたり、いろいろと忙しくなる。亭主も蕎麦屋の庭木の手入れが大変になるのです。一年は早いもので、もうすぐ4月 …。



 3月22日 水曜日 朝は通りも濃い霧に覆われて …


 今朝は目が覚めたら窓の外がやけに暗いので、障子を開ければちょっと先までも見えないほど霧が立ちこめていたのです。雨ではなかったので、雪駄を履いて歩いて蕎麦屋まで出掛ける。朝からWBCの決勝戦があるから、女将に早めに仕込みを終えた方が好いと言われて、朝飯前のひと仕事に出掛けるのです。プレイボールのじかんを知らないから、テレビはもう朝から日米の決勝戦ムード一色で、もう直ぐ開始と言いながらも、前置きが長すぎるのです。

 蕎麦屋に着けば、向かいの菜の花畑も霧に包まれて、不思議な光景なのでした。店の中は15℃と暖かく、動いていれば暖房は要らないのです。昨日、樽に塩で漬け込んだ白菜は、四分の一カットを四つも漬けたのに、もう時期が終わりの頃なので、すっかり水が上がって萎んでいた。値段も一つ100円を超えているから、かなり割高なのでした。しかし、まだ季節の早くて値段の高い蕪と胡瓜と茄子をぬか漬けにするよりは、経済的だと思ったのです。

 昆布と京唐辛子とを間に挟んで、冷蔵庫に入る小さな漬け物器に移し替えておきます。縮み方がいつもよ激しかったので、二度目の塩は振らないで漬け込みました。二日間も洗濯機に入ったままの洗濯物を干して、家に戻って朝食を食べる。WBCの決勝戦はなかなか始まりそうもないから、昨日のブログを書き上げてしまうのです。それから3時間近く、居間の椅子に座ったままでテレビに釘付け。やっと優勝が決まってテレビから解放されるのでした。

 昼飯は亭主が店で残ったキャベツを使って、玉葱を入れて肉野菜炒めをカレー味で仕上げ、女将と二人で美味しくいただく。女将がスポーツクラブに出掛けた後も、いつもなら書斎で昼寝を決め込むのに、日本の選手達のファイトに今日は元気をもらったから、蕎麦屋に出掛けて午後の仕込みに入るのです。駐車場に車を止めたら、モミジの上の電線に一羽の雀が羽の手入れをしていた。仲間を呼んで鳴くけれども、辺りにはもう雀たちの姿が見えない。

 厨房に入って蕎麦豆腐をしこんだら、空の蕎麦徳利に蕎麦汁を補充して、蓮根の皮を剥き酢水で茹でる。南瓜の種を取って切り分けたらレンジでチーンして、天麩羅の具材を次々に切っていく。最後にキノコと鶏肉を切ってキノコ汁の仕込み。明日の朝には小鉢を盛り付けなければならないけれど、暖かくなると言うから、蕎麦は二回打たなければならないので、朝飯前に一回は蕎麦を打ちたい。週末は天気が崩れると言うので、木金が勝負なのかも知れない。

 気分転換に向かいの菜の花畑の傍まで歩いて写真を撮っておく。朝に霧の出た日には、昼は晴れるというのが経験知。背の低かった菜の花も随分と育って満開なのでした。夜はプールに出掛ける予定なので、家に帰ってやっとひと眠りする。足の親指の故障からもう直ぐ一年になるけれど、リハビリのつもりで月水金とプールで泳ぐことにしているのです。それでも店の混んだ日には疲れて出掛けられないこともある。未だに身体に故障があるのは困ったものです。



3月23日 木曜日 今朝は霧が出たら、菜種梅雨の始まり …


 朝飯前のひと仕事に車で蕎麦屋へ向かう。バス通りの手前で一時停止したら、幼稚園の辺りの桜が随分咲き出している様子だったから、左折しないで右折した。この界隈では一番桜の綺麗な通りで、古くからの太い桜の木が多い。明るければここから蕎麦屋が見えるはずなのです。Uターンしてすぐ蕎麦屋に着けば、霧が出ているのに今にも雨になりそうな天気なのでした。厨房に入って、まずは小鉢を盛り付ける。お新香の漬け物器を出して、七鉢盛り付ける。

 7時前には家に戻って、今日は女将が早めに台所に入ったので、すぐに朝食にありついた。食後はお茶も飲まずに亭主は書斎に入って、ゆっくりと眠ることが出来たのです。朝ドラの終わる頃には洗面と着替えを済ませて、少し早めに家を出て蕎麦屋に向かう。我が家の庭の端に植えた連翹と雪柳が、綺麗に春を織りなしていた。曇り空でしたが、暖かいけれど今日は一日中雨になるらしいので、蕎麦を打つ数はいつも通りでいいのかも知れないと考える。

 幼稚園の裏の入り口には、この何日かで随分と花が増えた桜と、雪柳が、今日の曇り空にしては見事なのでした。紫陽花の新芽も伸びて、しっかりと次の季節の準備をしている。自然の推移に教えられるようには、我々人間の生活はなかなか次の準備が出来ないでいるのです。植物は素直だけれど、人間にはいつまで経っても思い入れが残っているからだろうか。蕎麦屋に着いて、看板と幟を出したら、蕎麦打ち室に入って、今朝の蕎麦を打ち始める。

 今日の加水率も46%だったけれど、湿度があったからか少し柔らかめの生地に仕上がった。それでも打ち粉を振って何とか伸したのですが、久し振りに薄く広がって細い蕎麦が打てそうだと、内心では喜んでいる亭主。切りべら28本で135gと、昔の細い蕎麦を八束半打ち上げて生舟に並べる。細い蕎麦が好きだと言っていた先日の女性が来れば、どれほど喜んでくれるだろうかと思うのでした。天気予報よりも早く降り始めた雨は一向に止みそうにないのです。

 蕎麦の生地を寝かせている間に、生姜や大根をおろして葱を刻んでおいたから、今度は厨房に戻って金柑大福を包む。キッチンペーパーで金柑の水分を取ってから、白餡で包んで、氷糖蜜と水で溶いておいた白玉粉でじっくりと求肥を作る。火を止めてから小さなお玉でぐりぐりと捏ねて餅の状態にしたら、片栗粉を付けていよいよ包み込みの作業に入るのです。これがとても熱いから、手早くやらないと手が耐えられない。掌で丸めて四皿分の金柑大福を作る。

 野菜サラダの具材を刻んで、いつもと同じく三皿に盛り付ける。これでちょうど11時になるから、後は天麩羅の具材や天ぷら粉を調理台に並べて、天つゆを温め、天麩羅油を鍋に入れて温める。IHの調理台にはキノコ汁の鍋を掛けて、沸騰しないように注意しておく。後は店の掃除をしてテーブルをアルコール消毒液で拭いて回るのです。開店時刻の10分前には全てを終えて、いよいよ暖簾を出す時間。暖簾を出したらすぐにお客がいらっして活動開始です。

 三人連れのお客だったから、どんなご注文かとはらはらしたけれど、天せいろ二つにお婆さんは天麩羅蕎麦のご注文。ここで次のお客が来たらもう大変だから、家にいる女将に電話をしようと思っていた。それでもじっと頑張って、女将の来てくれるのを待つしかない。三人の注文の品を出したところで、駐車場にもう一台車が入ってくる。最近よく来る宅配便のお兄さんで、カウンターに座って、いつもと同じヘルシーランチセットの天せいろ大盛りを頼まれる。

 ランチセットは野菜サラダと蕎麦豆腐を出しておけば、食べている間に天麩羅と蕎麦の準備が出来るので助かるのです。12時を過ぎてやっと女将が来てくれた。亭主はほっと肩をなで下ろす。会計も女将に任せて、亭主は奥の部屋に入って一息入れる。雨は時折激しく降って降り止まず、まさに菜種梅雨。1時半近くに常連さんの母と娘がいらっして、ヘルシーランチセットの天せいろのご注文。今日は何故か天麩羅ばかり出るのでした。野菜サラダも完売です。




3月24日 金曜日 平日なのに久々に10人越えのお客様で … 


 夕べは早く床に就いたから、早く目覚めた朝なのでした。5時過ぎまではお茶を飲んで、居間の部屋でニュースを見ていたけれど、6時前には蕎麦屋に出掛けて、朝飯前のひと仕事をする亭主。小鉢のお新香を切り分けて盛り付けたら、後は洗濯物を畳んで、洗濯機の中に入ったままの昨日の洗濯物を干す作業をするだけなです。朝だけは晴れるという予報だったから、期待していたのだけれど、東の森の上空に僅かに朝焼けが見られただけで曇り空の朝でした。

 家に帰ればまだ6時半だから、女将は起き出していないので、書斎に入ってひと眠りする。30分ほど眠ったところで女将の声に起こされた。暖房を入れなくても暖かな朝なのでした。朝食を終えたらまだ眠り足りないので、書斎に入って横になる。あまり早くから起き出すのも考えものなのです。8時半になってやっと目覚めて、髭を剃って着替えをする。珈琲を一杯入れて飲んでいるうちに、もう時計は9時を回るところなのでした。春は眠たいものなのか。

 蕎麦屋に着いたら、早速、蕎麦打ち室に入って今朝の蕎麦を打つのです。加水率46%と昨日と同じなのですが、今日も少し柔らかい生地に仕上がる。やはり室温が20℃もあって湿度が70%だから、梅雨時と同じで少しは水を減らさなくてはいけない。季節の変わり目というのは、蕎麦打ちの加水に気を遣うのです。明日は45%にして打ってみよう。あまり生地が柔らかいと、包丁切りをしてエッジの効いた蕎麦が打てないので、見てくれが悪いというもの。

 それでも8.5束の蕎麦を打ち上げて、昨日の残りと合わせて今日は10食半の蕎麦を用意する。暖かかった昨日の勢いで、今日もお客が増えたら困ると考えたのです。明日は一日中雨で今日より10℃も低い気温だと言うから、曇りとは言え、暖かくなるのは今日で終わりなのです。金柑大福を包んで、野菜サラダの具材を刻み、いつもと同じ数だけ用意したらもう11時なのでした。今日は女将のスポーツクラブの予約が取れなかったから、来てくれるとは言ったけれど。

 果たして、12時10分前に女将が来て、店にお客が一人もいないので拍子抜けなのでした。昨日は初めから混んでいたのに。それでも4月からいよいよ中学校へ通うと言う、例の少年が一人でやって来て、いつものせいろ蕎麦を食べて帰る。その間にテーブル席は二つとも一杯になって、せいろに天せいろに、キノコつけ蕎麦四つと数が出るのでした。このペースでは、亭主一人ではこなすのが難しいのです。家にいても暇だからと女将は言うけれど有り難い事です。

 後半になってもお客は止まらず、天せいろの女性がテーブル席に座り、カウンターには隣町の常連さん。1時半を過ぎた頃に、歩いていらっした年配の男性客が二人。蕎麦は残り一つだったけれど、うどんでも好いから食べさせて欲しいと言うから、うどんと蕎麦の天せいろをお出しする。洗い物と片付けが済んだのは3時前で、家に戻って餅を二つ焼いてもらって遅い昼飯。亭主は隣町のスーパーにキノコ汁の具材を買いに出て、蕎麦屋の片付けに出掛ける。

3月25日 土曜日 雨の降り続く日なのに …


 夜明け前から雨の降る朝なのでした。今日は終日の雨だという予報だったけれど、給料日後の週末だから、以前も混んだ覚えがあったので、とにかく出来る準備はしておかなければと、夜明け前から蕎麦屋に出掛けていく亭主。昨日の洗い物を片付けたら、蕎麦汁の詰替えをして、小鉢を盛り付け、洗濯物を畳み、洗濯機の中の洗濯物を干しておくのです。それでやっと6時半過ぎ。本当はここで蕎麦を一回打っておきたいのだけれど、もう疲れてしまった。

 近所の桜の花もあっという間に満開になった今年は、晴れて青空も見えないうちに散ってしまいそうな雰囲気なのでした。そんな春もあるのかと雨の中を家に戻れば、今朝は珍しく早く女将が台所に立って、朝食の用意をしてくれていました。亭主は居間の椅子に腰を下ろして、暖房で身体か暖まると、もう眠くて仕方がなかったけれど、煙草をふかしながら「ご飯が出来ましたよ」と女将が言ってくれるのを待つのです。今朝はキノコ汁に焼いた餅を入れて雑煮。

 食後のお茶も飲まずに書斎に入ってひと眠りする亭主。食べたばかりだけれど、習慣になっているからすぐに眠りについて、朝ドラの時間には目が覚めるのです。洗面と着替えを済ませて、出掛ける前に珈琲を入れてひと休み。蕎麦屋までわずか300mの距離なのに、雨の日は出掛けて行くのが憂鬱なのです。テレビも照明も暖房も消して、今朝の仕事の段取りをもう一度おさらいする。週末だから、足りなくなるのを心配するよりも、蕎麦は二回打つことにする。

 看板と暖簾を出して、雨の中を幟を立てれば、後は蕎麦打ち室に入って蕎麦を打ち始めるだけ。蕎麦打ちを始まれば、それまでの雑念が吹っ切れて、今朝も好い蕎麦を仕上げようと無心で捏ね始めるのです。外は雨。こんな天気でお客が来るのかとも思うけれど、前向きに考えて、来たときのことを心配するのでした。蕎麦は残れば明日も使えるから、丁寧に打って包丁切りをしておく。切りべらは26、7本で135gと細めの蕎麦を仕上げるのでした。

 加水率は昨日の反省から45%にしたのですが、それでもまだ少し柔らかい。雨だからきっと湿度も高いのでしょう。無事に二回の蕎麦を打ち終えて、万が一、沢山のお客が来ても、出来るだけのことはやったと思えるのが、自分としては満足なのです。厨房に戻って野菜サラダをいつもの通りに三皿盛り付け、開店の準備を終わらせたのです。果たして、暖簾を出せば、昼前に見覚えのある軽トラックが駐車場に入り、運転手の女性が手を振るではありませんか。

 薪を売る仕事をなさっているご夫婦で、前回いらっした時にパンフレットを置いていったのですが、レジの前に置いておいたら、興味のあるお客が持って帰ったのか、注文があったというのでした。「雨の中を有り難うございます」と言えば、「雨で仕事も出来ないから遊びに来ました」と言う奥様。電気代も値上がりして、最近は薪ストーブの需要も増えているのだとか。ヘルシーランチセットの天せいろと鴨せいろのご注文なのでした。

 これで今日は終わりかと思えるほど、雨も激しく降ってきた。亭主は天麩羅を揚げて久し振りに賄い蕎麦を食べておく。最近は混んでいる日が多いので、亭主の食べる蕎麦が残らないことが多いのでが、今日は蕎麦を沢山打ったから、じっくりと揚げたての美味しい天麩羅と蕎麦を味わって、奥の座敷で一休みしていたのです。すると女将が大きな声で「○○さんがいらっしたのよ」と言うものだから驚いた。厨房に戻れば、古い友人がテーブル席に座っていた。

 「病院に行った帰りなのです」と彼が言うので、じっくりと話を聞けば、酔ってホームから転落して首や顔面を骨折したのだとか。手術の後であまり物が噛めないと言うから、豆腐やとろろ芋など柔らかい食べ物を出して、キノコつけ蕎麦を出してあげるのでした。話をしている間に、雨の中を一人で歩いていらっしたリピーターの女性が、天せいろのご注文。車が入って男性客が一人でやはり天せいろのご注文。雨だと言うのに今日は思ったより客が入った。


3月26日 日曜日 今日も終日の冷たい雨で …


 昨日の夜の防犯パトロールで、随分と歩いたせいか、今朝は朝食の時間まで起きられなかった。早めに家を出て蕎麦屋に向かえば、もう霧雨が降っているのでした。バス通りの桜並木が見事だったので、写真に撮っておく。菜種梅雨という言葉通りに、菜の花畑も雨で煙っている。蕎麦屋の下の調整池の桜も、もう満開になったようで、折角の桜の花も雨の中でしか見られないのは残念なのです。毎年のように青空を背景にした写真を撮ることが少ないのも頷ける。

 蕎麦屋に入って、雨の中を幟を立ててチェーンポールを降ろしたら、看板と傘立てを玄関脇に出して、亭主は早速蕎麦打ち室に入るのです。昨日の反省から、今朝は44%の加水率で打つことに決めていた。蕎麦粉を捏ねる段階では、少し硬めだけれど、捏ねていくうちに水分が回るのか、ちょうど好い硬さになるのでした。これなら蕎麦切りをしても、綺麗にエッジの効いた蕎麦が仕上がるのです。やはり、毎回、こんな具合に綺麗に切れる蕎麦が打ちたい。

 エプロンに付いた粉を払いに玄関に出れば、雨は少し強くなっていました。玄関先の馬酔木の花の脇には、大きくなった紫陽花の新芽が目立ち、決して同時には花が出会うことのない二つの植物の運命を感じる。移ろう季節に合わせて植えたから当然なのだけれど、もしかして我々人間にも、決して出会えないこんな営みがあるのかも知れない。むしろ出会ったことの方が幸いという繋がりもあるのだろう。出会った人たちのとの繋がりは大切にしていきたいもの。

 厨房に戻って、いつもの通り金柑大福を包み、野菜サラダの具材を刻んで、開店までの準備には抜かりがない。雨はますます強く降ってきた。雨が小降りになったら、近所の桜を見に出掛けたいと行っていた女将も「これでは無理ね」と諦めたらしい。暖簾を出しても1時間経ってお客は誰も来ないのです。腹も減ったけれど、蕎麦を茹でていない大鍋を汚すことはしないのが亭主の信条。1時過ぎになってやっとお客がいらっしゃるから、さすがに日曜日 … 。



3月27日 月曜日 桜が満開の時期で …


 このところの雨で散ってしまうのではないかと心配した桜も、咲き始めだったからか元気に満開の時期を迎えています。今朝は雨もすっかり上がって、少しだけ青空も見えたから、今日が一番のお花見日和なのかも知れない。昨日は10時前に休んだのだけれど、夜中に一度目が覚めたきり、朝食の時間になるまで長い時間眠っていたのです。明方になっていろいろな夢を見るのも楽しく、次はどうなるのかという場面で「ご飯が出来ましたよ」と女将の声で目覚める。

 今日は昨日の蕎麦が生舟に一杯残っているから、蕎麦を打たないことにした。それでもいつもの時間に家を出るから、時間にかなり余裕があるのでした。お隣の畑まで出れば、菜の花畑の向こうに調整池の桜が見えるのが素敵だった。遠くの山の木々も新緑が芽生えて淡い黄緑色に包まれ、春の訪れを感じさせるのでした。金柑大福も蕎麦豆腐も二皿分ずつ残っていたから、今日はもう作るのを止める。明日は定休日なので、沢山作った物が残っても困るのです。

 月曜日だからお客の数も知れたもの。野菜サラダだけはいつもと同じく三皿盛り付けたけれど、開店してみれば、今日はサラダ付きの鴨南蛮蕎麦が二つも出たからちょうど好かったのです。外の気温は17℃ほどだから、少しヒンヤリとした空気なのです。店の中はエアコンの暖房を入れて23℃になるように設定している。窓を少しだけ開けて換気をする都合上、厨房の亭主はちょっと暑いと感じるけれど、外から来るお客様のことだから仕方のないこと。

 久し振りにビールと蕎麦を頼む男性がいらっして、カウンターの隅で静かに本を読んでいる。他にもお客がいるから、聞こえるのはBGMの音楽だけ。皆さんがお帰りになって、1時半過ぎには亭主も腹が減ってきたので、残った蕎麦を一把半茹で、かき揚げを揚げ、ぶっかけで賄い蕎麦を食べておく。お腹の空いたときに食べる蕎麦はまた格別。レンコンの端切れを天麩羅にしたら、これがまた歯ごたえがあって美味しいのです。後片付けには3時までかかる。