2023年2月初め


2月1日 水曜日 朝は寒く、昼は暖かな、風の強い日 …


 午前6時の日の出前。森の向こうの空は綺麗な色なのでした。朝飯前のひと仕事に蕎麦屋へ出掛け、蕎麦豆腐を仕込み、水の上がった白菜の樽から、小さな漬け物器に漬け直す。塩を振りながら昆布を敷いて、また一日水の上がるのを待つのです。家に戻れば、昨日亭主が買って帰った銚子産の鰯が、唐揚げになって食材の食卓に並ぶ。冬の魚は脂が乗っているからとても美味しいのです。いつも塩焼きばかりだから、女将がたまには変わった食べ方をと工夫した。

 今朝も食後はひと眠りをせずに、空の灯油の缶を車に積んで、近くのガソリンスタンドに灯油を買いに行く。ひと昔前は千円でお釣りが来たと思ったけれど、今はその倍以上の値段だから大変です。考えたら、蕎麦屋の電気代もガス代もかなり上がっているはずだから、仕入れる食材費と合わせて何処かに破綻が起きているはず。冬場はお客も少ないから、まだ目立たないだけなのかも知れない。当分はメニューの値上げは考えていないけれど、不安はあるのです。

 その足で蕎麦屋に出掛けて、午前中の仕込みを済ませる。小鉢の二品目は切り干し大根。先週は、材料が多く、ちょっと値の張る筑前煮だったから、同じものが続くのもどうかと安上がりの一品。そして、キノコ汁を仕込む。鶏肉を鍋で炒めたら、四人分ほどのキノコを出し汁で煮込んで塩で味つけをしておくのです。蕎麦汁を入れて煮込むのは、明日の営業前。何度も温め直すと、やはり味が落ちるような気がしてならないのです。

 IH用の鍋に二人分の具材を入れて、残りはタッパに入れて保存する。鍋に一杯だったキノコは、火を通すと少なくなってしまうので、追加のキノコをあらかじめ冷凍してあるのです。沢山出る週と少ししか出ない週があるので、これも様子を見てから用意することにしています。後は午後に来て、レンコンの皮剥き、南瓜の切り分けから始め、天麩羅の具材を準備するだけ。時間が余ったので奥の座敷に干してある洗濯物を畳んで、洗濯機の中の洗い物を干す。

 昼になるにつれて暖かくはなってきたけれど、今度は風がとても強くなった。家に着けば、女将は外出している様子で、玄関には鍵がかかっている。居間の暖房を入れて暖まっていたら「昼は冷たい蕎麦だから、身体を温めようと郵便局に行って来たのよ」と言いながら女将が戻った。動かないとやはり寒く感じる気温なのです。大盛りのとろろ蕎麦に朝の鰯がまた出て、昼もご馳走なのでした。さすがに満腹になって、食後は陽を浴びながらひと眠りする亭主。

 その間に女将はスポーツクラブに出掛け、目を覚ました亭主は蕎麦屋に出掛けて午後の仕込みをする。蓮根の皮をピーラーで剥いたら、切り分けて酢水につけ、そのまま火にかける。南瓜を切り分けてレンジでチーンしたら、今度は玉葱と人参、三ツ葉を刻んでかき揚げの具材を作っておきます。そして、椎茸、ピーマン、ナスを切り分け、天麩羅の具材を切り分け完了。1時間ほどで終わって家に戻るのです。今夜は夜の防犯パトロールがあるから早い夕食です。

 それほど寒くはない夕刻でしたが、夕食は常夜鍋にして簡単に済ませる。脂身の多いバラ肉でも、生姜を入れた鍋で湯がいてさっぱりと醤油を掛けていただくのです。ぽかぽかと身体の芯から温まるから好い。集合時間の20分前には、着替えを済ませて家を出る。先週の寒い日には集まる人数も少なかったけれど、今日はほぼ全員が揃い、コースに分かれてパトロールの開始。足の具合が好くない亭主は、最近は平坦なコースに回されることが多いので有り難い。



2月2日 木曜日 2月最初の営業日は …


 今年は金柑が不作だったと女将が言う。例年、もっと粒が大きいのに今年は小さいのだとか。亭主も一度収穫して蕎麦屋で甘露煮にしたけれど、確かに粒が小さいので、半分に切って種を取ったものを一つ分にして大福に包んでいるのです。不作の実にはひよどりもあまり寄ってこないらしい。美味しくないのか知らん。そんな玄関先の金柑を眺めながら、2月最初の営業日だからと、早めに蕎麦屋に出掛けたのです。風が北風で随分と冷たく感じるのでした。

 今朝は朝飯前のひと仕事に来なかったから、まずは空の蕎麦徳利に蕎麦汁を詰めて、小鉢にお新香と切り干し大根を盛り付ける。それでもまだ8時半だったから、余裕で蕎麦打ち室に入るのでした。室温はまだ12℃までしか上がっていなかったけれど、加水率を47%にして蕎麦粉を捏ね始めたのです。ところが、これでもまだ水分が足りないのか、硬い生地に仕上がって大変なのでした。生地が硬いと伸すのにも時間がかかるから、早く始めていて好かった。

 包丁切りの感触はトントントンと乾いた音がして、昔の亭主が好んだ硬さなのでした。しかし、歳を取るにつれて、この硬さで打ち続けるのは無理だと、最近では思っているのです。両腕にかかる圧力で以前煩ったことのある腱鞘炎の危険性もあるからです。47%の加水率でもこの硬さなのは、やはり室温が低いからなのか。伸した時に硬い蕎麦は、確かに茹でても硬くコシがあるけれど、冷蔵庫で冷やせば同じコシが出るような気がするのです。

 厨房に戻って薬味の大根、生姜をおろし、小葱を刻んだら、金柑大福を包む準備をするのです。白餡が残り少なくなっているから、そろそろ仕込んでおかなければならない。金柑の甘露煮はまだ一瓶ストックがあるけれど、値段の安い時に仕入れた金柑がまだ冷蔵庫に残っているから、早めに甘露煮を作っておかなければいけない。大釜のお湯が沸いたから、四つのポットにお湯を入れて、また水を足して沸かしておく。とにかく、この時間帯が一番忙しいのです。

 野菜サラダの具材を刻み終えたのが11時で、いつもの時間と変わらなくなった。玄関が開いて「11時からでしょ」とお客が入って来たから「開店は11時半なのですけど、中で待っても好いですよ」と言えば帰って行く。準備が整って暖簾を出せば、先ほどのお客が現れたのでした。すぐご近所の方らしかったけれど、話し方がせっかちで、歳を取った亭主には、言っていることを理解するのに骨が折れた。続けて二組ほどお客が入ったら、やっと女将が来てくれた。



2月3日 金曜日 こんなに寒い節分の日があったかなぁ …


 今朝は暗い空なのでした。日中も気温が上がらず、寒いままだという予報だから、あまりお客も見込めない。冬の蕎麦屋の営業は、得てしてそんなものなのです。それでも支度だけはしておかなければならないから、亭主は今朝も朝飯前のひと仕事に蕎麦屋に出掛ける。エアコンのスイッチを入れて、昨日の洗濯物を干したら、ほうじ茶を飲みながら、厨房に入ってなくなった分の小鉢を盛り付けておきます。蕎麦の残りを確認すれば、あと三束だけでした。

 家に戻れば女将が台所で朝食の用意をしてくれている。何処で仕入れた知識なのか、節分には鰯を食べるのだそうだと、大きめの鰯が出ていたから昨日買って帰ったそうな。冬の魚は脂が乗ってとても美味しいのです。ナス焼きは亭主の好物で、大蒜醤油で食べると甘くてこれもまた美味しく、食が進むのです。カブと三ツ葉の味噌汁も甘くてなかなかの味。少し若ければご飯をお替わりして食べたいところですが、歳を重ねた自制心が働いてご馳走様なのです。

 夕べはプールへ行って泳いだので、ぐっすりと眠れたから、食後のひと眠りをせずに、朝ドラの終わる時間には蕎麦屋に出掛ける亭主。少しだけ青空も見えていたけれど、今日は寒い曇り空です。看板と幟を出してチェーンポールを降ろしたら、暖まっている蕎麦打ち室に入って、今朝の蕎麦を打つのでした。湿度は22%しかなかったから、室温は15℃になっていたけれど、今朝は47%強の加水率で蕎麦粉を捏ね始めたのです。ちょうど好い具合で絶妙の仕上がり。

 伸した生地も綺麗に角が取れて、最後まで140gで8束の蕎麦が取れた。蕎麦の生地が上手く仕上がると、時間もかなり短縮できて、10時前にはもう厨房に戻るのでした。こんな寒さではお客は来ないと思うのだけれど、開店の時間に間に合わせるために、野菜サラダの具材を刻む亭主。これが蕎麦屋の定めだと、今日も忙しく立ち働くのです。白餡を仕込んでいた鍋はまだ火にかけたまま。硬くなるまで煮詰めないと、包むときに柔らかすぎて苦労するのです。

 厨房に戻ればだいぶ煮詰まった白餡の様子を見て、天つゆを温めて、三つ目の火口で沸かした鍋で、ブロッコリーとアスパラを茹でる。出ようが出まいが毎日三皿ずつ作ると決めた野菜サラダは、今日も健在。少し硬めのキャベツを細い千切りにして、ニンジンも綺麗にジュリエンヌを刻んだ。胡麻油を天麩羅鍋に移して、天麩羅の具材と天ぷら粉を調理台に並べたら、いよいよ開店の準備。11時過ぎにはテーブルをアルコール除菌液で拭いて回ったら開店です。

 外気温は5℃。当然のことながらお客は来ない。駐車場のもみじの枝に、珍しく四十雀(シジュウカラ)がつがいで止まっていた。野生のシジュウカラを見るのは亭主も初めてなのでした。1時を過ぎても客が来ないから、端切れの蕎麦を小さな鍋で茹でて、ぶっかけで賄い蕎麦を食べておく。1時半近くにやっと車が駐車場に入って、リピーターの白髪の女性がご来店。隣町の団地から来るのだと言うけれど、いろいろな話を聞いたのでした。 

 洗い物も少なかったから、彼女が帰ったらもう帰宅する準備を整える。家に戻っても女将は当然まだ帰っていないから、居間のストーブに当たりながら亭主はウトウトとするのでした。女将が帰って書斎で本格的に昼寝をする亭主。夜のプールに出掛ける前に、しっかりと身体を休めてから、常夜鍋と鰯で夕食を食べておくのです。金曜日はプールも空いているから、人の少ないコースに入って、ゆっくりと身体を伸ばす。肌を流れる心地よい水の感触が楽しい。

2月4日 土曜日 今日は立春 …



 6時をだいぶ過ぎて、朝飯前のひと仕事に蕎麦屋へ出掛けたら、それほど寒くは感じなかったのです。曇り空なのだけれど、店の中は6℃だったから、エアコンを入れて、空になった蕎麦徳利に蕎麦汁を詰め、白菜のお新香を切り分けて盛り付けておきます。それでもう7時を過ぎたので家に戻るのです。このちょっとの仕事が随分と後に影響をするのです。室温が上がらないと、蕎麦を打つのも辛いから、暖房を入れておくだけでも違う。

 家に戻れば、女将が台所に立って朝食の支度をしてくれていた。最近はご飯も少なめだから、すぐに食べ終えてしまう亭主は、食後のひと眠りをせずに、またテレビの映画を観てしまう。前にも見たものだったけれど、ストーリーの細部をもう一度確かめたくて、ついつい見入ってしまうのです。朝ドラの終わる時間には見終えて、洗面と着替えを済ませ、「行って来ま~す」と元気よく家を出る。曇った空にほんの少しだけ青空が覗いている。

 みずき通りを渡れば、やはり青空が少しだけ覗いている。晴れて放射冷却で気温の下がるのも嫌だけれど、陽射しのないものまた寂しい。そんなことを考えながら、蕎麦屋に着いて看板を出し、幟を立てたら、チェーンポールを降ろす。昨日に比べたら随分と暖かいのだろうか。暖房を入れたままにしておいた蕎麦屋の店の中も、もう15℃になっていたのです。早速、蕎麦打ち室に入って、今日の蕎麦を打つ。加水率は47%強で500g5人分だけ打ち足した。

 ちょうど好い具合に仕上がった生地は、綺麗に四角形に伸して、包丁切り。今日は切りべら26本で140gで打ち終える。昨日残った蕎麦と合わせて13食分の蕎麦を生舟に並べ、暖かくなりそうだから少しは捌(は)けるかも知れないと思うのでした。不思議なことに蕎麦が沢山あると精神的に余裕が生まれる。お客が入っても、いつ蕎麦がなくなるかとハラハラせずに済むからなのでしょう。厨房に戻って、金柑大福を包む準備を始める。

 昨日仕込んだ白餡は、十分に硬くなるまで煮詰めたので、金柑の甘露煮を包むのにも随分と楽なのでした。更に熱々の求肥でくるむのにも、素早く包めるので都合が好い。四皿分の金柑大福を作ったら、今度は野菜サラダの具材を刻みます。今週はアスパラとブロッコリーはとても質が好かったけれど、レタスもキャベツも少し硬くて使いづらかった。硬いキャベツの千切りは、包丁がよく切れないと大変なことになる。道具の手入れはやはり大切です。

 開店と同時に常連さんたちがいつもの席に着いて、いつものご注文。今日は昼前にもう席が一杯になったから驚いた。これでもう終わりだろうかと思っていたら、1時を過ぎてからもう一度満席になる。やはり暖かいから、皆さん、蕎麦でも食べようかという気になるのでしょう。エアコンが暑いと途中で女将がスイッチを切った。気が付いたら、もう生舟の中の蕎麦がなくなっている。慌てて売りきれの看板を出して、最後のお客の蕎麦を茹でるのでした。

2月5日 日曜日 混んだ日の翌日は …


 午前4時半に家を出て、蕎麦屋に向かう亭主。有明の月が西の空に傾いていたから、今日は天気が好いと判るのでした。日曜日の未明だったので、ご近所を気にして静かに車を停める。蕎麦屋に入ってエアコンを点けたら、二つの大釜に水を張って火を入れる。それでも室内は8℃と昨日の温もりが残っていました。カウンターの干してあった沢山の盆や蕎麦皿を片付けていたら、ガシャーンと子供用のグラスが向こう側に転がって割れた。蕎麦徳利は無事だった。

 週末までに空になった蕎麦徳利に蕎麦汁を詰め、お新香を漬け物器から取り出して切り分けて、小鉢に盛り付けたら、いよいよ今朝のメインの仕事。出し汁に薄口の出汁醤油と砂糖と唐辛子を沸かして、十分に冷ましておく。玉葱を薄くスライスして水に浸け、ニンジンを千切りにして塩で柔らかくしたら、昨日解凍しておいたワカサギの水分を拭き取って、天ぷら粉にまぶす。硬めに水に溶いた天ぷら粉に浸して、天麩羅鍋で揚げていく。再び南蛮漬けです。

 野菜と揚げたワカサギを出し汁に浸けたら、東の空が明るくなっていたので、外に出て写真に撮る。放射冷却でかなり外は冷えているのでした。向かいの畑は真っ白に霜が降りて、駐車場に停めて一時間以上も経った車のフロントガラスはうっすらと凍っている。家に戻るのに300m走る間に、外気温は氷点下になっているのでした。女将はまだ起き出していない。書斎に入って横になったらしばしの眠り。「ご飯が出来ましたよ」と女将が呼びに来る。

 食後もまたひと眠り30分。8時過ぎには洗面と着替えを済ませてお茶を一杯もらうのです。早朝の2時間はひと仕事には長すぎた。コロナ以前の混んでいた時期は、夜に仕込みをしたりと大変だったのを思い出す。10年近い年月を経て亭主もだいぶ歳を取ったから、今では夜に仕込みをするのも辛いのです。早く寝て早く起きる生活が定着しているから、どうしても朝に仕込みをするのだけれど、混んだ日の翌朝は辛いものがあるのです。

 しかも、昨日の蕎麦はすべて売り切れたから、今朝の蕎麦打ちは二回。早く家を出て蕎麦を打ち始めても、準備から後片づけまで1時間半はかかる。10時過ぎにやっと蕎麦を打ち終えて、厨房に戻って金柑大福を包み、野菜サラダの具材を刻むのです。その間に、薬味の葱切りをして大根をおろし、四本のポットにお湯を入れて、天麩羅油を鍋に移して温める。天つゆとキノコ汁を温め、天麩羅の具材と天ぷら粉を調理台に並べる。これで開店の準備が整うのです。

 週末は女将が来てくれるから随分と助かるのです。割れたグラスも綺麗に掃除してくれて、飛び散ったガラスの細かな破片は、亭主が掃除機をかけるのでした。暖かい日で陽射しもあるのに、昨日のように昼前からはお客が来なかった。亭主はやっとカウンターの椅子に座ってひと休み。昼をだいぶ過ぎて暖かくなってから、一人二人とお客が入って、せいろ蕎麦やぶっかけの注文が入る。電話でまだ蕎麦かあるかと聞いたリピーターさんが1時過ぎには現れた。