2022年8月中旬

8月13日 土曜日 台風上陸通過の日だったけれど…

 昨日、一昨日と続けて平日の二日にお客が入ったので、お新香も蕎麦汁も底をついたのです。昨日のうちにお新香は糠床に漬けて、出汁を取る準備をしておいたから、今朝は6時前に蕎麦屋に出掛けました。出汁を取りながら、糠床から取り出したお新香を切り分けて、蕎麦汁まで作って約1時間。今日は蕎麦豆腐とデザートを仕込まなければいけなかったけれど、7時を過ぎたので家に帰ることにしました。隣のひまわり畑を眺めれば、可愛い花が沢山でした。

 日中、畑の様子を見て回っていたお隣の息子さんに挨拶をして、立ち話をすれば、去年、種が沢山取れたので、今年は広い範囲に播いたのだとか。「道楽でやっているから」と言うので、「私の蕎麦屋と同じですね」と言えば、予約をしなくても食べに行けるかと聞かれ、いつでもどうぞと応えておいた。家に戻れば、今朝は庭の隅にアオイと並んでモミジアオイが一輪ずつ咲いていた。蒸すけれども涼しい朝なのでした。気温は低いのでしょうか。

 女将の用意してくれた朝食は、いつになくボリュームがあって、全部は食べきれない。二人でホッケを半分ずつ残して、晩のおかずにすることに決める。今日は台風だからあまりお客も期待できないので、食後のひと眠りもゆっくりと、30分ほど熟睡するのでした。それでも、やることは沢山あったから、8時半過ぎには家を出て、エアコンの効いた蕎麦屋に向かう。台風がいつ上陸するのかをよく知らずに、少し北に進路を変えたことだけを覚えていた。 

 とは言っても、台風の進路の南側は雨風が心配されるから、みずき通りを渡りながら、この雲行きはもう台風の影響なのかと考えている亭主。まだ雨こそ降りだしていないけれど、店は開店休業になるかも知れないと、心配をするのでした。蕎麦屋に着いて幟を立てるのだけれど、雨風が強くなれば耐えられないかも知れないと、あらかじめ隣との境に立てた幟を降ろす場所を確認しておく。青空も見えてそれほど激しい天候ではないのが、ちょっと心配ではある。

 看板を出してチェーンポールを降ろしたら、厨房に入って抹茶小豆と蕎麦豆腐の仕込みを済ませる。抹茶が少し固まらないと小豆が沈むから要注意。蕎麦打ちが終わったら、薬味の葱を刻んで、大根をおろせば、後はいつもの野菜サラダの具材を刻む行程。少し仕事の多い分、時間はどんどん過ぎて行くのでした。蕎麦打ち室に入ったのは、女将が来た9時半過ぎなのです。今日は一回だけ打てば好いから、慌てることはないと慎重に蕎麦粉を捏ねていく。

 ちょうど43%の加水率で、今日もしっとりとした生地が仕上がったので、蕎麦玉を作って生地を寝かせる間に、厨房に戻って葱きりと大根おろしを済ませる。時間のない時には、ここで休憩をしてはならないと自分に言いかせるのです。一度椅子に座ってしまうと、立ち上がるまでに時間がかかるのが歳を取った証拠。大釜に火を入れたら、直ぐに蕎麦打ち室に戻って伸しにかかるのです。今朝も綺麗に伸して畳んで、八人分の蕎麦を仕上げ、生舟には12食の蕎麦。

 時折、雨が降る天気だったけれど、12時半を過ぎた頃にやっとお客が来てくれました。続けて1時を過ぎてリピーターのカップル。天せいろの大盛りとヘルシーランチセットを頼まれて、今日は綺麗に出来上がったと思っていた野菜サラダが出たので嬉しい。それでも空が暗くなって雷鳴が鳴り響く有様だったから、今日はこれでお終いだろうと、亭主はかき揚げを揚げて賄い蕎麦をぶっかけで食べるのでした。女将も残った野菜差サラダを包み、片付けに入る。

 家に帰って冷たく冷えた梨を剥いてもらって食べる。女将が美容院に行こうと電話をしたら、台風だからともう店を閉めたと言われたそうな。亭主は書斎に入って、今日の売り上げと写真のデータをパソコンに入力したら、横になってひと眠りする。目が覚めたらもう4時を過ぎていたから、随分と長い時間寝たことになる。夕食には早いから、ブログを書き始めて外が雨なのに気が付いた。明日は台風一過でお盆の墓参りが出来る天気。店は混むのだろうか。

8月14日 日曜日 台風一過、お盆も休まずに営業したら …

 台風が過ぎた翌朝は、からりと晴れ渡るかと思いきや、薄雲がかかった森の向こうから、今朝の太陽が光を放っていました。天気予報では昼過ぎまで曇り。お盆で墓参をするにはちょうど好い陽気だけれど、コロナ前のように墓参帰りのお客が来るということも、最近ではあまりない。以前なら、この時期はいつが休みかと電話が鳴ったもの。斯くして、定休日以外は休まずに営業をしようと女将と話していたから、今朝も6時には蕎麦屋に出掛けて行ったのです。

 陽は差していたけれど、見渡せば空には雲ばかり。隣のひまわり畑の写真を撮りながら、西側の小径に散ったムクゲの花殻を掃き集める亭主。今日は日曜日だから、こんな早い時間には通る人もいない。昨日作っておいた蕎麦汁を徳利に詰めて、カウンターに干してあった盆や蕎麦皿を片付け、洗濯物を干してもまだ時間が早かったのです。小鉢は11人分を用意してあるけれど、余裕があった方が好いだろうと、インゲンを茹でて胡麻和えの準備をしておく。

 家に帰れば朝食の支度が調い、今朝は卵焼きと厚揚げ、とろろ芋のおかずで美味しくご飯をいただくのです。ナスの味噌汁も子どもの頃はよく食べたのですが、ナスは栄養がないと思い込んでいる女将の嗜好で、我が家ではあまり出た試しがない。冷蔵庫に残った食材がそろそろ尽きてきたらしく、今朝は珍しくナスの味噌汁。食後は面白そうなテレビの映画も観たかったけれど、書斎に入って横になれば、30分ほど熟睡出来たのです。頭がすっきりした。

 蕎麦屋に出掛ければ今朝はいきなり蕎麦打ち。750gを打って、昨日の残りと合わせて15食の用意をしました。馬鹿に出来ない日曜日だからと、野菜サラダも四皿盛り付けて、女将が早お昼から帰る頃には、もう開店の準備が終わっていたのです。10分前には暖簾を出して、沢山ある蕎麦が少しでも捌ければと思ったのですが、願いが通じたのか昼前に続けてお客がいらっした。天せいろの老夫婦に配膳をしたら、カウンターに座った若い女性はぶっかけ蕎麦。

 それからしばらくお客は来なかったから、亭主は蕎麦を茹でてぶっかけで食べようとした矢先、駐車場に車が入ってきたから、奥の座敷でスルスルッと昼を済ませる。厨房に戻れば「6人なんですって、分かれて座ってくださいと言いましたよ」と女将が言うので、注文の決まるのを待てば、天せいろに鴨せいろ、せいろ蕎麦に天麩羅蕎麦とてんでにバラバラなご注文。天せいろとせいろ蕎麦を先に出して、鴨せいろ二つを出して、最後が天麩羅蕎麦の順に出す。

 話す言葉を聞けばどうも中国の人らしく、天つゆの器に薬味の葱や山葵を入れたりして、女将が対応していた。旅行なのか、何処か観光が出来ないかと捜しているらしかったけれど、この時期はもうラベンダー祭りも終わっている。小一時間ほど涼んでいる間に、常連さんの女将の友人がいらっして「いつものを」とご注文。暑い中を1キロ近くも歩いて来たらしいのです。今日はお客の帰るのが遅かったから、片付けにも時間がかかった。

 帰り道、みずき通りで珍しくアブラゼミを間近で見た。その名の通り油で揚げるようなジリジリという音で鳴いていました。家に帰れば、先に着いた女将がエアコンのスイッチを入れておいてくれたから、ヒンヤリと涼しい。冷たい梨を剥いて、居間で涼む亭主の所に持って来てくれるのは有り難いことです。昨日行けなかった美容院に電話をして、直ぐに出掛けた女将でしたが、5時前には戻らないだろうと、亭主はかしらを焼いて、珍しく日本酒で一献です。

8月15日 月曜日 お盆の中日、終戦記念日 …

 午前5時半、家を出て蕎麦屋に向かう亭主。西側の小径に散ったムクゲの花の様子を見ながら、隣のひまわり畑を眺めれば、いつのまにか沢山の花が開いているではありませんか。毎日、見ているのに、今朝は急に花の数が増えているような気がするのです。蕎麦屋に入ってエアコンのスイッチを入れ、厨房の明かりを点けたら、まずは朝刊を開いて、昨日の市内の感染者数を調べるのです。三桁が続いていたのに16名と激減しているのは、お盆のせいだろうか。

 厨房に入って冷蔵庫にある小鉢のお新香に、インゲンの胡麻和えを作れば全部で七鉢。そんなにお客が来るとも思えないけれど、ギリギリの数ではちょっと心配だったから、残っていたキュウリとナスとカブをスライスして、浅漬けを漬けておきました。急に足りなくなっても、直ぐには小鉢は作れないのです。残ったら残ったで家に持ち帰って食べるだけ。食材は少し多めに種類と数を仕入れてあるから、何をいつどう使うのかが思案の分かれ目なのです。

 カウンターに干してある昨日の洗い物を片付けたら、洗濯室に行って、洗濯機の中に洗ったままの布巾や手拭いを干していきます。昨日は混んだから洗濯物が沢山あったのです。隣の風呂場は綺麗なままで、ほとんど使っていないから勿体ない。よほど暑い日には、仕事が終わったからシャワーを浴びたりもしたけれど、ガス会社の点検の人には、「たまには水を入れて沸かした方が、風呂釜が長持ちしますよ」と言われているけれど、そのままです。

 7時前に家に戻れば、今朝は早くから女将が台所に立って朝食の支度をしてくれていた。とは言っても、空っぽに近い冷蔵庫の中身を知っているから、あまり期待はしていない。それでも、あり合わせの材料で、美味しいおかずを揃えるのは、さすがとしか言いようがない。そう言えば夕べはひじきを煮ていたっけ。早めに朝食を終えて、亭主は書斎に入ってひと眠りするのでした。エアコンで除湿していたから、ぐっすりと30分ほど眠れたのです。

 元気を取り戻して再び蕎麦屋に向かおうと玄関を出れば、相変わらず綺麗な花を咲かせている木槿(むくげ)が、朝日を浴びて亭主を見送ってくれているようなのでした。9時前だというのに、もう家々の影はほとんどなくて、今朝は熱い太陽が照りつけている。エアコンを効かせている蕎麦屋の涼しさを思って、わずか300mの暑さを我慢して歩く。駐車場の入り口でふと足を止める亭主。お隣の軒下の巣から飛び出してくるツバメの集団がまた飛び回っている。

 今朝はいつもと違って低く滑空したり、蕎麦屋の換気口に止まって休んだりと、興味深い動きをしているのでした。しばらくカメラを構えて何度かシャッターを切る。子ツバメが疲れて休んでいるのを、親ツバメが飛び立たせようとしているのだろうか。換気口に止まっているツバメは確かに身体の大きさが小さいのです。ジリジリと照りつける朝日に我慢が出来ずに、亭主は涼しい店の中に入って朝の仕事を開始するのでした。

 早朝に漬けておいた浅漬けを取りだして、鉢に盛り付ければ五鉢分だけ作れた。時計はとうに9時を回っていたから、急いで蕎麦打ち室に入って今日の蕎麦を打つ。昨日の蕎麦が4束残っていたから明日から定休日なので、今朝は500g5人分だけ打って9人分の蕎麦を用意しておきました。平日の月曜日だから、これで十分に足りるはず。厨房に戻って大根をおろし、ブロッコリーとアスパラを茹でて、野菜サラダの具材を刻み始める。

 後はいつもの手順で、11時前には大釜の湯も沸いて、店の掃除を終わらせてひと休み。と、開店時刻の20分も前だというのに、駐車場に車が入ってくるではありませんか。早すぎるけれど、湯が沸いていれば断るわけにもいかないので、暖簾を出して中に入ってもらうのでした。年配のご夫婦だったから、時間も気にしていないらしいのです。奥様が「天麩羅が食べたいわ」と天せいろ二つを頼まれて、お二人でゆっくりと蕎麦を召し上がるのでした。

8月16日 火曜日 風の強い定休日 …

 今日は定休日だからと夕べは少し夜更かしをしました。それでも朝はいつもと同じ時刻に目が覚めるから、ちょっと寝不足気味の亭主なのでした。お湯を沸かしてコーヒーを入れたら、目を覚まして蕎麦屋に出掛ける。駐車場の金木犀が伸びすぎて、お客の車を入れるのにもバックセンサーが反応するのではないかと、少しずつ剪定ばさみで刈り取って、ついでに脚立を出して上に伸びた枝を刈り取ったのです。今年は花が咲かないかも知れないと心配する。

 90㍑のゴミ袋が一杯になったところで作業を止めて、エアコンの効いた店内に戻って、カウンターに乾した洗い物を片付け、洗濯機の中の洗濯物を乾すのです。これでちょうど7時前になったから、家に戻ってやっと朝食です。今日の買い出しで亭主が家の食料も仕入れてくるから、空っぽの冷蔵庫を見回して、女将は最後の力を振り絞ったと言う感じ。すべて蕎麦屋で昨日残った食材なのですが、見事にアレンジされていた。今朝も美味しくご飯をいただいた。

 食後はエアコンの効いた書斎に入って横になれば、朝が早かったから30分ほどぐっすりと眠れました。寝不足の上に早朝から身体を動かして、満腹になれば、人間幸せに眠れるものなのです。すっきりした頭で目覚めて、お袋様に電話をして仕入れの迎えに行く。農産物直売所に向かいながら、まだお盆は終わっていないから、今日は休みじゃないかと気が付いた。隣町のスーパーは今朝の新聞に広告が入っていたから大丈夫と、今日は沢山買い物をする。

 お袋様が畑をやっている知り合いから冬瓜をいただいたと言うので、半分分けてもらって蕎麦屋へ戻って早速茹でる亭主。彼女は冬瓜をあまり食べないと言うので、先週作った鶏胸肉挽肉とのあんかけ煮の話をしたら、作って見る気になったらしい。蕎麦屋に帰ってから電話をして、15分ほど下茹でしたら、塩と砂糖と生姜に醤油で味つけをして、挽肉を入れて片栗でとろみを付けるところまで念を押しておく。彼女も調理が好きだから、上手く作るはず。

 茹でた冬瓜を冷蔵庫に入れて、家に帰ればちょうど女将も買い物から帰ったところで、二人とも汗だくだから大笑い。昼は昨日残った野菜サラダを載せて冷やし中華にしようと話していたから、湯を沸かして亭主が麺としゃぶしゃぶ用の肉を茹でる。皿のまま車で持ち帰った野菜サラダを、茹でて冷やした肉とそのまま載せて、附属の酢味のタレをかけるだけだから、とても簡単なのです。亭主は麺の下に氷を敷いて、最後は汁まで綺麗に飲み干すのでした。

 食後は昼寝もせずにパソコンに向かい、食材の購入記録を入力して、忘れないうちにとお袋様の米寿のお祝いを発注しておく。女将は二週間後のスポーツクラブの予約をしてくれと、自分のスマホを持ってくるのです。午後の2時過ぎ暑い最中に蕎麦屋に出掛けて、午前中の仕込みの続きをするのでした。先週のレシピを少し変更して、オクラと京唐辛子を輪切りにしてそれぞれ二本入れて見ましたが、オクラが冷えても色が悪くならなければ好いのですが、

 次ぎに定番となった夏野菜の揚げ浸し。硬い野菜から先に炒めてミョウガとシメジは後から入れて、冷やしておいた出し汁にさっと浸ける。小鉢二品の仕込みは終わったから、明日はデザートと蕎麦豆腐、天麩羅の具材の切りわけ、そして夕刻にぬか漬けを漬ければいい。朝は蕎麦汁を作らなければと、干し椎茸と昆布を3㍑の鍋に浸けておくのでした。家に戻っての夕食は鶏のもも肉のカリカリ焼き。これで昨日残った野菜サラダは食べ終わった。

8月17日 水曜日 定休日二日目は、飽きずに小豆を煮る亭主 …

 午前6時に蕎麦屋に出掛けたら、隣のひまわり畑がまた一段と賑やかに花を咲かせていたので、しばらく眺めていたのでした。左手の蕎麦屋は金木犀の枝を剪定したのは好かったけれど、つい先日枝を払ったばかりと思っていたモミジの枝がまだ残っていた。次は西の小径の側に脚立を立てて上に伸びた枝を払わなければいけない。今朝の朝飯前のひと仕事は、昨日、準備しておいた出汁を取って、蕎麦汁を仕込まなければならなかったのです。

 出汁取りはどんなに急いでも小一時間はかかるから、蕎麦汁まで作って、天つゆを仕込んだら、もう7時近くになっていた。先週の残った一番出汁でも蕎麦汁を作り、二番出汁を取る鍋と、天つゆの鍋と三つの火口を全部使って作業を進めるのでした。洗い物を済ませて、水で冷ました蕎麦汁と天つゆは鍋のまま、二番出汁は容器に入れて冷蔵庫に収納する。作ったばかりの蕎麦汁は、冷ましてストックしてあるものと一緒に蕎麦徳利に詰めて、これも冷蔵庫に。

 家に戻れば、女将は台所に立って朝食の支度をしていました。今朝のおかずは、昨日、亭主が買って帰った鰺の開きと蕎麦屋の残り物の最後の小鉢。長葱の塩焼きも蕎麦屋で残ったものだけれど、よくぞまあ、バランス好く組み合わせてくれたと感謝。食欲旺盛な若い頃なら、旅館や民宿で食べる小さな鰺の開きなどは、どうしてこんなに小さいのだろうと思ったものですが、今では沢山食べられないから、かえって味わいのあるひと品なのです。

 食後は例によって書斎に入ってひと眠り。定休日の二日目は、あまり多くの仕事はなかったから、午前中に床屋に出掛けて髪を刈ってもらおうと考えていたのです。お盆休みがいつからなのかを確認していなかったけれど、40年も通って世間の盆休みの後で休むと知っていたから、出掛けて行ったのです。果たして、今日は盆の明けなのに休みになっていた。仕方がないから、酒屋に寄って焼酎を買って帰ろうと思ったら、こちらも10時開店で閉まっていた。

 仕方がないから蕎麦屋に行って、明日の小鉢を盛り付けておく。夏野菜の揚げ浸しと冬瓜と鶏胸挽のそぼろあんかけ。旬の野菜が食べたいと通われる常連さんがいらっしたら、どちらを出そうかと迷ってしまいそう。ラップで蓋をして冷蔵庫に入れたら、今度は小豆を煮て抹茶小豆の仕込みです。ところが、この小豆を煮るにはやはり1時間はかかるから、洗濯物を畳んだり、朝の洗い物を片付けたりと時間をつぶすのが大変なのでした。

 隣の火口では小鍋に抹茶の粉に寒天とタピオカ粉を混ぜ、水と氷糖蜜を加えて沸騰するまで火を入れる。これが少し固まるまで待たなければならないから、小豆の煮えるまでの時間でちょうど好い。ほどよく固まった頃に、三回に分けて砂糖を入れた小豆の鍋に塩を少々。このタイミングがとても大切で、小豆は沈まずに表面に浮いたままで抹茶が固まってくれる。水羊羹ではないからタピオカ粉を加えて、ぷるんとした食感が欲しいところなのです。

 11時過ぎには家に戻ったら、女将がもう鍋に湯を沸かして、朝から話していた焼きうどんの準備をしてくれていました。亭主は台所に入って、肉と残り物のキャベツとピーマンを柔らかくなるまで炒めたら、茹でたうどんを加えて中華鍋を振る。本当は豆板醤をちょっと加えて作りたいところなのだけれど、辛いのが苦手な女将を気にして塩と胡椒だけで仕上げる。仕上げにほんの少しだけ出汁醤油を垂らして、昼のひと品が完成なのです。

 午後は天麩羅の具材の切り分けと、ぬか漬けの漬け込みだけだったから、スポーツクラブの予約のために、女将の持って来たスマホで無事に予約を済ませたら、また蕎麦屋に出掛けて今日最後の仕込みに取りかかるのです。本当に蕎麦屋が道楽でなければ、休みの日にもここまで頑張れないかな。夕食には女将が久し振りにピカタを作ると言っていたから、亭主は蕎麦屋で用意した小鉢を味見に持って帰るのでした。美味しい食事は人を幸せにするとは名言です。

8月18日 木曜日 午前中は雨の陽気で …

 雨の音で目が覚めた朝。夕べ漬けておいた糠漬けが気になって、6時前には車で家を出て蕎麦屋に向かう亭主。エアコンを入れなくても涼しい朝だったから、お新香を切り分けて小鉢に盛り付け、昨日の洗い物を片付ける。他に仕事はなかったから、西側の小径に散ったムクゲの花殻を掃き集めて、小鉢に入りきれなかったお新香の残りを持って家に戻るのです。天気予報を何度も見ているのに、その都度変わるから、目の前の天気で今日の予定を立てるしかない。

 今朝の食事は鰺の開きと豚汁、高野豆腐に亭主が持ち帰ったばかりのお新香。鰺の開きは四枚でひと組だから、二日続くのも仕方がないか。蕎麦屋で残った長葱を焼いて添えるのも女将のひと工夫。豚汁は店で残った大根のあるうちは続きそう。これで十分美味しい食事だから、満足して食後のお茶を飲むのでした。まだ7時半前だから、食後は書斎に入って女将の朝ドラの終わる時間までゆっくりとひと眠り。これがまた至福の時なのです。

 台所で朝の洗い物をしている女将に頼んで、珈琲を入れてもらったら、傘を差すのは嫌だけれど、仕方なく蕎麦屋に出掛ける亭主。今朝はエアコンを入れなくても涼しい朝なのでした。みずき通りを渡って、バス通りを蕎麦屋に向かえば、お盆が明けたせいかいつもより車の通りが激しいような気がする。いつも群れている鳥たちは姿を見せずに、蕎麦屋の隣の畑にひまわりだけが、今朝も変わらずに咲いているのでした。静かな朝なのです。

 昼には雨が止むという予報だったから、チェーンポールも降ろさず幟も立てずに、今朝はまず蕎麦打ち室に入って、定休日明けの蕎麦を打つ亭主。店の中の温度は26℃と低かったけれど、湿度は60%を越えてやはり雨のせいなのです。それでも加水はいつもと同じく43%。捏ねて行けば少し柔らかいかなという感触でしたが、これは伸し方を加減すれば解消できる程度の問題です。蕎麦玉をビニール袋に包んで寝かせている間に、厨房に戻って次の準備をする。

 一週間、毎日、蕎麦屋に通っているから、定休日明けとは言っても、今日が何日目の営業日なのか、つい忘れてしまうことがある。女将には「呆けてんじゃないの?」などと言われることもあるけれど、決してそうではなくて、毎日が同じ繰り返しなだけなのです。だから、「今日は木曜日なので」と仕切り直して、また蕎麦を打つのです。気温の低い雨の日の営業では、お客の数はあまり見込めないから、いつもと同じく750g八人分を打って生舟に束を並べる。

 野菜サラダは平日だからと従前の決まりに従って三皿だけ盛り付ける。ところが今朝は、ブロッコリーを仕入れるのを忘れたことに気が付いて、家に電話をして女将に買い物に行くのかと尋ねれば、「雨だし今日は行かない」との応え。仕方がないから、何か綠の野菜はないかと冷蔵庫の中を捜せば、オクラが予備に買ってあるのに気が付いた。塩で茹でて斜めに切ってブロッコリーの代わりにしたら、食べたお客は「案外あうものですね」と喜んでくれた。 

 雨の日のお客は、あらかじめ来ようと思っていたお客か、通りがかりのお客。今日も開店前に電話が入り「予約できますか」と言うので、予約はやってないけれど、空いているから大丈夫と言えば、暖簾を出して直ぐにいらっしゃる。聞けば、仕事でいらっした義理の息子さんが、白髪の老婦人を連れてきたのだとか。前にもいらっしてお蕎麦が美味しかったから、蕎麦好きの息子さんを連れて来たとおっしゃる。ヘルシーランチセットの天せいろを頼まれた。

 閉店間際になって仕事の途中らしい若い男性がカウンターに座ってせいろ蕎麦のご注文。スポーツクラブが休みの女将が来てくれて亭主は少し気が楽になる。1時半に彼女のヨガ教室の予約があったので、スマホを朝から渡された亭主は気が気ではなかったのです。早めに店の片付けを終えて、亭主がブロッコリーを買いに行くと言えば、午前中が雨で何処にも出掛けなかった女将が、珍しく一緒に行くと言う。お蔭で夜は鯛や鮪の刺身のご馳走を食べられた。

 夕食後に、スマホを持って歩かない女将に、いつも何処のお花が綺麗だったとか話をするので、少しは写真でも撮ってみたらと、食後に亭主が被写体になってカメラの練習。夜は夜でラジオを聞きたいといつも言っていたから、スマホにアプリを入れてやって使い方を教えてやるのです。二人とも時代遅れのアナログ人間なのだけれど、女将は必要がないものには関心を示さないから合理的。彼女が子供や孫たちとテレビ電話で話せる日は来るのでしょうか。

8月19日 金曜日 晴れて爽やかな陽気だったけれど …

 朝が涼しかったからか、今朝は6時過ぎまでぐっすりと眠った。昨日はお客が少なかったから、朝飯前のひと仕事もお休みで、台所に入った女将が、朝食の支度をしてくれるのを、居間の椅子に座ってじっと待つ亭主。床が椅子に変わっただけで、まだ頭が働かない状態なのです。「ご飯が出来ましたよ」と言われて食堂に行けば、今朝のおかずは鯖の塩焼きで、ちょっと食べ応えのありそうな大きさなのでした。最近の魚は骨が取ってあるものが多いので助かる。

 朝食が終わっても今朝はひと眠りをせずに、やはり居間の椅子に座って、テレビも点けずにじっと物思いに耽る亭主。今週はまだ営業を開始して今日が二日目だというのに、随分と日にちが経ったような気がしてならないのでした。お茶を運んでくれた女将に話をすれば、「お客が少ないから、待ってる時間が長いんじゃないの?」と、朝の仕事が忙しいから相手にされない。今年は盆休みも取らなかったから、夏の疲れが出始めているのだろうか。

 洗面と着替えを済ませ、女将の朝ドラの始まる前に、自分で珈琲を入れたら、またしばらく椅子に座って朝ドラの終わるのを待つ。今朝は昨日買ってきたブロッコリーや油や豆乳を、蕎麦屋まで持って行かなければならなかったから、短くなった日影を選んでゆっくりと歩いて行くのでした。朝の空気は涼しかったのですが、陽射しはまだジリジリと暑いのです。夏から秋にかけてはいつもこうだったからしらと、思い出すすべもないのです。

 蕎麦屋に着いたら看板を出し、幟を立てて、チェーンポールを降ろしたところで、ゴミ捨てから帰るお隣の奥さんに出会って挨拶をする。いよいよ盆休み明けの出勤らしく、制服を着て車に乗り込むのでした。若い人は見るからに元気そのもの。老いた自分は傍目にはどんな風に見えるのだろうかと、蕎麦打ち室に入って今日の蕎麦を打ち始めるのです。「疲れを知らない年代は遠い昔」だけれど、疲れても日々の稼業は休むことは出来ないと空元気を出す。

 いつも決まってこの時間帯に燕たちが飛び回るのです。蕎麦屋の駐車場の上野電線には、五羽の子ツバメが羽を休めていた。中には止まったまま毛繕いをするものもいれば、眠っているかと思えるものまでいる。親鳥は何処にいるのだろうか。そろそろ移動の時期なのだろうけれど、今年は随分と長い間、一箇所に止まっているような気がするのです。43%の加水で今日もしっとりとした生地が仕上がり、750gで八人分の蕎麦を打ち上げて、生舟の中に束を並べる。

 昼前にリピーターの母娘がご来店で、天せいろのご注文。随分とゆっくりと食べて行かれたけれど、その後はしばらくお客がなかったので、1時過ぎに亭主はかき揚げを揚げて、賄い蕎麦をぶっかけで食べておく。月曜日に残った五日目の蕎麦でしたが、これがまた美味しい。お客には出すことはないけれど、よく締まってコシの効いた味わいになるのです。1時半を過ぎてそろそろ片付けを始めようとしていたら、バイクの音がして最後のお客がご来店でした。

  天せいろにキスとメゴチの天麩羅を追加で頼まれ、しっかりと昼の食事を摂られて帰るのでした。片付けは少しだけでしたが、大釜の洗いや天麩羅油の後処理など、することは沢山ある。全部片付けて家に帰ったのは3時過ぎ。暑さもそれほどではなかったから、それほど辛くはなかった。女将もスポーツクラブから戻ったばかりで、二人で桃を剥いて食べる。亭主は書斎に入ってパソコンに向かい、ひと眠りしたら蕎麦屋に出掛けてお新香を漬けてくる。夜は残った野菜サラダに肩ロースの肉を焼いて一献です。


8月20日 土曜日 久々の満員御礼、お蕎麦売り切れ …

 午前5時半、蕎麦屋に出掛ければ、森の向こうから雲間に朝日が昇ってきました。隣の畑のひまわりたちも朝の太陽を待つかのように、みんな東を向いている。朝はまだ少しの間、青空が見えたのです。夕べ漬けておいたお新香が心配で、厨房に入って冷蔵庫から糠床を取り出せば、ナスはちょっと硬めだけれど、皮を剥いたカブはちょうど好い味で、キュウリもすっきりと甘い香りがする。空の蕎麦徳利に蕎麦汁を詰めて、今日一日の分を用意するのでした。

 カウンターに干してある盆や蕎麦皿を戸棚にしまい、洗濯物を畳んで、大釜に水を張ったところで、今朝の仕事はもう終わり。お客が少ない分、片付け物も少しだから楽なのです。朝早くから姿を見せるのは鳩の群れ。次ぎに鴉が現れて、燕の親子は9時過ぎになってやっと活発に飛び回る。このところ赤とんぼが畑の上を随分と飛んでいるのが見えるから、やはり季節は移り変わっているのです。名残惜しそうに蕎麦屋のたたずまいを眺めながら家に戻る亭主。

 夏の初めに蕎麦屋の向かいの親父さんが持って来てくれた南瓜の一つは、蕎麦屋で天麩羅にして使ったけれど、もう一つは女将が家に持ち帰って涼しい玄関に転がしてあった。昨日、これを煮て食べようと、鰺出刃で切ったけれどやはり切れないと言うから、亭主が蕎麦屋に持っていって牛刀で四つに切り分けてきた。家にも出刃があった筈なのに、古くなって使わない物は捨てるのが女将の習慣らしい。これが今朝はやっと食卓に上り、柔らかいので驚いた。

 朝ドラの終わる時間まで書斎で横になってひと眠り。雲が出て陽が翳った頃に家を出て蕎麦屋に向かえば、今朝は随分と蒸し暑いのに今ごろになって気が付いた。早く店についても、今朝はもうあまり仕事がない。昨日の蕎麦がそのまま生舟に残っているから、今日は500g5人分だけ打ち足して、13食の蕎麦を用意する。天気も悪くなると言うので、今日はこれだけあれば十分と考えたのです。蕎麦豆腐を仕込んで、野菜サラダは週末だからと四皿盛り付けておく。

 その写真を撮ってやろうとカウンターの向こうからカメラを構えていたら、大釜の湯が沸いて白い湯気が立ち上っていた。お茶のポットと温め用のポットに四本湯を入れて、天麩羅油を鍋に入れ、天つゆの鍋を冷蔵庫から出したら、もう開店の準備は出来上がり。早お昼を食べに帰った女将も、あまり仕事がないのを知ってか、11時を10分過ぎてやっとやって来る。早いお客が店の前で車を停めたけれど、暖簾の出ていないのを見て帰ってしまう。

 昼はしばらく見なかった椋鳥が戻って来たらしく、畑や電線に群れていた。昼前に3人のお客がいらっして、今日はこれで終わりかなと思っていたら、1時前から一挙に10人のお客が続けてご来店。厨房は嬉し楽しの大忙しで、女将もお茶出し、配膳、会計と休む暇がないのでした。新しいお客とリピーターの方と常連さんと、それぞれがゆっくりと食事をなさって帰って行く。最後のお二人がいらっして、「お蕎麦売れ切れました」の看板を出すのでした。

 二人で洗い物をして片付けても今日は後半が混んだから、珍しく3時過ぎになって家に帰る。いつも運動が足りないと買い物に出る女将も、雨が降ってきたこともあるけれど、今日は疲れて出掛けなかった。カレー蕎麦のお客に野菜サラダを出しただけだったから、サラダは三皿分持ち帰っている。万札を出したお客が多く、釣り銭もなかったから、亭主が車を出して夕食の総菜を買いながら両替をしてくる。かくして久々に出来合いのおかずでサラダを食べた。