2022年6月上旬

6月7日 火曜日 梅雨の始まりは …

 今朝も朝からしとしとと雨が降っていました。夕べは風呂から上がって、居間の部屋で焼酎を飲んでいたら、何時の間にか眠ってしまったらしく、目が覚めたらもう真夜中だった。明日は休みだからともう一度布団に入って寝直したのです。最近の習慣で4時過ぎには目が覚めて、珈琲を入れて今日は朝飯前に何をするのだったかと考える。雨も霧雨に変わっていたから、以前剪定したモミジの枝を袋詰めしようと家を出た。今日は業者のゴミ回収の日なのです。

 蕎麦屋の西側のスペースに積み重ねておいたモミジの枝は、長すぎるものはノコギリで切り、細い枝は剪定ばさみで切って、90㍑のビニール袋に入れていくのです。約30分軒下で作業をして、まだ少し残っていたけれど、一回に袋一杯分で終わりにしようと決めている。小径に木槿やタラの木の枝が伸びているし、まだまだやることは沢山あるのでした。店の中に入って、洗濯物を畳んだり、洗濯機の中の洗い物を干したりしているうちに6時半を過ぎた。

 家に戻って女将が台所に入る前に、亭主は中華鍋で昨日蕎麦屋から持ち帰った茄子とピーマンとインゲンを炒めて、味醂に味噌と醤油と砂糖を溶いてからめれば、味噌炒めの完成。女将が現れて他のおかずを用意したら朝食の時間なのでした。亭主は食べる前からもう眠たくなっている。食事を終えて書斎で横になれば、すーっと眠りに入って、30分ほど眠ったのか、女将が朝ドラを見終えて洗濯物を干していた。お袋様に電話をして今日の仕入れに出掛ける。

 農産物直売所に行けば、トマトがやたらと沢山出ている、いつもトマトを買う農家の親父様が野菜を運んで来て「暖房を使わなくても出来る季節になったからあちこちで出しているんだよ」と教えてくれた。キャベツも立派なのでもらって帰る。隣町のスーパーは雨が上がったからか珍しく混んでいた。小さな新レンコンが出ていたが、まだ値段が高すぎるので、天麩羅の具材には茨城産のインゲンを買っておく。女将に頼まれた魚や肉を買って帰る。

 お袋様を家まで送り、蕎麦屋に帰って沢山の野菜類を冷蔵庫に収納したらひと休み。煙草を持って出るのを忘れたと思っていたら、胸のポケットに入っていたから世話はない。ついこの間までは暑かったから、胸にポケットのない半袖のシャツを着ていたのでした。11時前には家に戻ってパソコンに今日の仕入れのデータを入力すれば、やっと女将が買い物から戻って来た。今日は駅前の100均の店まで足を伸ばしたのだとか。小さなグラタン皿を見せてくれた。

 昼飯には昨日打って残った蕎麦を茹で、辛味大根と山芋をおろして、タンパク質が足りないと女将が厚揚げを買ってきたから、焼いて蕎麦汁を掛けて食卓は俄に豪華になった。午後は女将は稽古場で今月提出の作品を書き、亭主は女将のスポーツクラブの予約をしようとパソコンの前で時計を睨んでいる。一番好い席が取れてホットしたところで、蕎麦屋に出掛けて木曜日から使う出汁を取る。4時過ぎに家に戻って、そろそろ夕食モードなのでした。

 亭主は冷凍の茶豆を流水解凍して、蕎麦屋で残った蕎麦豆腐を皿に入れただけ。今日のメインは昔懐かしいジャガイモのグラタン。二人ともあまり食べられなくなったから、100均の小さなグラタン皿でもおなかが一杯になった。女将もご飯は食べられないと笑ったのです。風呂の時間までこのブログを書いて、風呂に入れば何故か「あの素晴らしい愛をもう一度」の曲が思い出される。懐かしむだけでも好いから、またギターを弾いてみようかと思ったのです。

6月8日 水曜日 雨がひと休みの定休日二日目は …

 夕べは10時半に床に就いて今朝は5時前に起床。最近、近所のコンビニに亭主が愛飲している黒伊佐錦を置いていないので、昨日は店でビールなどをケースで買っている酒屋で一升瓶を買ってきた。割安なのですが、先週も5日間で一升を飲んでしまったから、沢山あると飲む量が増えるのかも知れない。その分、酔ってバタンと眠るのだけれど、身体に好いのか悪いのか。アルコール度数は25度だから、ちょっと飲み過ぎなのかも知れない。

 足の親指は痛くなかったけれど、今朝は6時に車で家を出て、まずは昨日使った鍋やボールの洗い物を片付ける。そして、ほうじ茶を沸かして何から始めようかとひと休み。夜にバタンと倒れ込んで眠るから、以前のように、次の日の朝飯前のひと仕事のことを考える余裕がないのです。頭の中が空っぽになっているから、神経が休まるのか、ぐっすりと眠れるから好いと思うのだけれど、女将に言わせると飲んで寝るのは睡眠が浅くなるのだとか。

 切り干し大根を水で戻して、ニンジン、油揚げ、干し椎茸をもどしたものを刻んで、いつものように胡麻油で炒めていく。出し汁を入れて煮込み、先週は後半に味が染みて濃くなったから、今朝は出汁醤油を少なめにして砂糖を入れる。ここで初めて、昨日の仕入れで砂糖を買うのを忘れたことに気が付く。もう一度煮物をするならちょっと足りないかも知れない。今日は夕刻に天麩羅油と海老などの食材が届くので、予算が余れば買いに出掛けようか。

 家に戻って朝食の時間。納豆とお新香、茄子とピーマンの味噌炒めはシンプルで好かったけれど、ズッキーニの切り方がちょっと雑なのでがっかりする亭主。ズッキーニを輪切りして使うやり方は、何処かのレシピサイトに載っている品のない料理と思えるのです。料理は見て楽しみ、食べて楽しむものだから、家庭でも普段から気にはしているのです。食後にひと眠りしに書斎に入り、例によって小一時間眠ったら、伸びた髭を剃り、着替えて蕎麦屋に出掛ける。

 隣のお花畑のポピーも、気温が低いから花を閉じていました。厨房に入って、まずは蕎麦豆腐を仕込み終えたところで、玄関の扉を叩いて隣の奥さんがやって来た。先日、仕事から帰った彼女とたまたま顔を合わせ、全部売れ残った野菜サラダとデザートを食べませんかと尋ねたら、喜んでもらってくれたので、お皿のまま煮物などと盆に載せて上げたのを、ご丁寧にお茶とお菓子を持って、洗って返しに来たのでした。かえって悪いことをしたかなと思う亭主。

 息子と同じ歳だけれど、なかなかよく気の利く女性なのでした。定休日に黙々と一人で仕込みをしていると、つい、人恋しくなるものだから、少しおしゃべりをして、余り気味の出汁と出汁醤油を持たせる。天麩羅の具材を切り分けたら、後は夕刻に来たときにぬか漬けを漬けるだけ。11時前に家に戻って、蕎麦もあったのだけれど少し寒かったので、あんかけラーメンを作って女将と二人で食べるのでした。そして、例によってスポーツクラブの予約です。

 無事に一番好い席が取れて、テレビでニュースを見ながらひと休みする。ここで午後の昼寝かと思ったのだけれど、昨日から気になっていた「あの素晴らしい愛をもう一度」の歌詞を印刷して、ギターのコードを振ったら、埃まみれのギターを取り出して、歌ってみたのです。自分の歌声を何年振りかで聴いた。爪弾く指も上手く動かないし、転調後のコード進行も老いた自分にはまだ難しい。でもこれなら当分は暇をつぶせそう。お蔭で眠気が覚めたのです。

 若い頃は眠るのが惜しいほどやりたいことが沢山あったけれど、歳を取ったら、やることが限られて眠ってばかりいる。女将も書の稽古がなかったら、眠気も覚めないと言うから、少しずつ楽しめれば好いと思うようになったのです。固まった指が動くようになればもっと楽しくなるのかも知れない。ピックを置いて、ツーフィンガー、スリーフィンガーで弾いてみる。歌詞を忘れた昔の曲を弾いて懐かしむだけでも好いから、少しは元気になれば好いと思う。

 業者が食材を持ってくる1時間前には蕎麦屋に出掛け、まずは奥の座敷の掃除をしておく。食材の届いた段ボールを潰して紐で括ったら、厨房に戻って、カボチャの煮物をしたり、糠床にお新香を漬けたりしながら、業者からの電話を待つのでした。4時過ぎに珍しく早く電話が入り、あと10分で着きますと言うので、珈琲を入れる準備をしておく。やっと着いたと思ったら、来月から海老と油が値上げになりますと申し訳なさそうに言うのでした。

6月9日 木曜日 朝は霧のような雨が …

 煙るような雨の降る朝なのです。昨日の朝よりも更に気温が低いから、朝からストーブを焚いていた。梅干しを囓ってお茶を一杯飲んだら、朝飯前のひと仕事に蕎麦屋に出掛ける亭主。駐車場の柊南天の葉に、沢山の水滴が…。厨房に入って糠床を出したら、昨日の夕刻に漬けた茄子と胡瓜と蕪とを取り出して、小鉢に盛り付けるのです。水が出てびしょびしょになった糠床には、煎り糠を足して味噌の硬さにまで戻しておく。簡単な漬け物だけれど管理は大切。

 玄関を出て外の水道の前に置いた植木鉢を見れば、実生のモミジが元気に育っている。亭主が針金で枝を曲げようとした方の枝は育ちが悪いのです。球根から芽が出たユリの苗は、強い風で折れてしまったから、もう一度根が出ないかと挿し木をしてある。東のミニ菜園も入り口付近だけは、育ちすぎたベビーリーフを根こそぎ取り除いて、雑草を取ったのだけれど、奥の春菊や絹さやの付近は、まだ掃除をしていない。雨の降らない日に少しずつやるつもり。

 時間が早かったから、書斎に入ってひと眠り出来た。女将が朝食の支度が出来ましたと、起こしに来るまではぐっすりと眠っていたらしい。用意してくれた食卓に着けば、今朝はミツバの卵とじと身欠き鰊を焼いたものがおかずで、蕎麦屋で残った三ツ葉や太い長葱が使われていた。食事を終えた亭主は、洗面と着替えを済ませてもう出掛ける準備が完了。まだ早すぎるから、女将が紅茶を入れて朝ドラを見ている間に、自分で珈琲を入れてひと休みなのです。

 蕎麦屋に出掛けようと玄関を出たら、なんだ雨が降っている。梅雨入り前に新しい傘を買わなければと思っていたけれど、ついつい忘れて買いに行かないものだから、何十年前かのぼろぼろの傘を差して蕎麦屋に向かう。小雨だけれど、傘なしでは行けない。午後の女将のスポーツクラブの予約にと、彼女のスマホを持たされて、とぼとぼと歩いて蕎麦屋に着く。幟を出してチェーンポールを降ろしたら、早速、蕎麦打ち室に入る。室温は18℃なのに、湿度が高い。

 今朝は42%強で蕎麦粉を捏ね始めて、蕎麦玉を寝かせている間に葱切りと大根、生姜をおろして、また蕎麦打ち室に入る。生地の硬さはちょうど好い具合で、伸して畳んで包丁切りに入れば、切りべら26本で130gの束を8.5人分取って生舟に並べる。「よーしッ」と今朝も大きな声で気合いを入れて、厨房に戻るのでした。デザートのマスカット大福は、昨日のうちに試作品を作って味見をしてあるので、今日はそのまま使えそう。シャインマスカットは1600円。

 野菜サラダの具材を刻んで、沸いた大釜の湯をお茶と温め用のポット四つに入れたら、11時前には朝の仕込みが終わった。店の掃除を終わらせて、開店の時刻の5分前には暖簾を出す。しばらくして駐車場に車が入って、見ればスリムな出で立ちの女性が、なかなか上手く停められずに、やっと玄関を開けたから、「いらっしゃいませ」と出迎える亭主。ヘルシーランチセットのご注文で、まずは野菜サラダと蕎麦豆腐をお出しするのです。

 話を聞けば、母親の介護でニューヨークから戻って来たとかで、コロナ禍前に母親と二人で霊犀亭に来たことがあるのだそうな。日本に戻って美味しい蕎麦を食べたいと、亭を覚えていてくれたらしいのです。しばらく話をして、ゆっくりとされる。実家は近くだから、今度戻った時にはまた来ますと言って帰られた。その後は、しばらくお客がなかったけれど、バス通りを歩いて来る例の少年が見えたから準備をしておく。と、別のお客の車も駐車場に入る。

 珍しく話をした少年の話では、少年のお婆さんはやっと退院したものの、転んで手と足を骨折して料理が出来ないのだと言う。お婆さんにとマスカット大福を持たせて帰す。隣に座っていたお客の親父様も話を聞いていたらしく「大変だねぇ」と同情するのでした。1時を過ぎたから、ぶっかけ蕎麦にして昼を食べていたら、スポーツクラブのなかった女将がやって来て、片付け物を手伝ってくれるのでした。空は青空が覗いて陽も差してきたのです。 

 お隣との塀際のスモモの木が、ついこの間、剪定したばかりなのにまた枝が伸びているから、今日は切ってやろうと脚立を出して、鋏を入れる亭主。塀の上に登って上の枝を剪定ばさみで切ろうとしたのだけれど、やはり、足の指が痛いからかなかなか登れない。お隣の小母さんも出て来てどうしたのと言う。女将に助けられてやっと登った塀の上で、綺麗に枝を落としたのでした。後はカッシアと南天の木の剪定が残っているだけ。疲れて午後の昼寝をする亭主。

6月10日 金曜日 蒸し暑い一日でした …

 今朝は蕎麦屋での仕事がなかったので、5時過ぎに目覚めて珈琲を一杯飲んだら、自宅の庭の樹木の剪定に取りかかる亭主。昨日、無理な恰好で塀の上に登ったせいで、太腿が筋肉痛で歩くのにも苦労をしたのだけれど、また女将の喜ぶ顔が見たいと剪定鋏を手にして玄関を出る。朝まだ早い時間だから、小さな鋏で庭の植えてある木槿と南天の木を一枝ずつ落としていく。思ったよりも量があったので、後から袋詰めをする女将が大変だろうと心配した。

 最近、定着した一汁山菜の朝食が、とてもバランス好くて量もほどほどだったから、鯖の塩焼きも蕪の葉のお浸しも薄味のぬか漬けのキュウリも、とても美味しく頂きました。女将は食後にもう庭に出て、亭主の切り落とした枝を袋に詰めてくれた。朝ドラの終わる時間までひと眠りして、「行って来ま~す」と家を出れば、途中のお宅に金糸梅が見事に咲いていたので、写真に撮らせてもらった。和名はあるけれど、どこか西洋風な花の美しさなのでした。

 蕎麦屋に着いたら、駐車場の美央柳(ビオウヤナギ)が満開だったので、これも写真に撮っておきました。花の大きさは同じくらいなのですが、やはりその花の形が儚(はかな)いから、心がゆらりと動かされるのです。朝の仕事を終えたら、蕎麦打ち室に入って、今日の蕎麦を打つ。室温22℃で湿度が75%だったから、今朝は水加減が難しい。昨日と同じく42%強の加水で打ち始めたけれど、どうも少し柔らかめなのでした。地伸しも丸出しも難しかった。

 厚味は均等になったはずなのですが、生地が柔らかいとやはり包丁打ちは得てして上手くいかないもの。130g~135gの間で、切りべらも25本だったり27本だったり。何とか包丁を打ち終えて、生舟に蕎麦の束を並べる。昨日の蕎麦の残りと合わせて、10食の蕎麦を用意したのですが、平日ならお客が来ても十分な量です。ただ、お客が来ないと明日の蕎麦打ちがまた困る。蕎麦打ち台を掃除して、厨房に戻る亭主。朝は傘を差してきたけれど外は薄陽も差している。

 マスカット大福を包んで、野菜サラダの具材を刻む。準備を終えたら、大釜の湯が沸いていたから、お湯のポットを四つ満タンにして、天麩羅油に油を入れて、天つゆの鍋を温める。ここで11時。まだ早いから、店の掃除を終わらせて、しばしの休憩。と、思ったら駐車場に車が入ってくるのでした。あまりにも早すぎて、まだ水を足した大釜の湯は沸いていない。暖簾も出していないのに、玄関を開けて「もう好いですか?」と若い男性が入って来た。

 「11時半の開店なのですが、お茶を入れますからお湯が沸くまで座ってお待ち下さい」と亭主が言えば、「まだ20分もある」と、外に出てしまうのでした。杖をついた老人が一緒だったから、外に出て「すぐですから中でお待ちになれば」と言っても聞かない。急いでいるにしては、車の前で迷っている風。老人が「また来させてもらいます」と言うものだから、それ以上は何も言えないのでした。まったく会話に応じないのが亭主には不可思議でならなかった。

 こちらの対応におかしな点はないと思うのでしたが、後味の悪い思いをするのでした。いろいろなお客がいるから、いちいち気にしていたら始まらないけれど、なぜかしばらくは気分が悪いのです。開店の支度が調うまでは、準備中という看板を出しておいた方が好いのかも知れないな。外は陽が差して明るくなったけれど、結局、今日はお客がなかった。暖かくなったのに、不思議なのでした。早く片付けを終えて、女将が帰る前に家に戻るのでした。

 昨日無理な恰好で身体を支えた筋肉痛はあったけれど、疲れていなかったから、脚立を出して、庭の残った金柑とカッシアの木の剪定を始める。女将がスポーツクラブから帰って、切り落とした枝の袋詰めをしてくれた。棘のある金柑の枝に苦労しながら、4時前には作業が終わるのでした。一時、強い雨が降ったけれど、もう青空が覗いていました。すっきりした気分で、夕食にポークステーキが出たので喜ぶ亭主。食休みを終えたら、またギターの練習です。

 もう夜だからと、歌う声もギターを爪弾く音も小さめに。二曲目の歌になぜか「学生街の喫茶店」が頭に浮かんで、歌詞を印刷してギターのコードを書き込むけれど、これがまた難しい。それでも指が少し動くようになって、「Don’t Think Twice」をツーフィンガーで弾いたら、50年前の記憶が蘇るから不思議。でも、歌詞はしどろもどろで、まだまだ楽しめない。楽しむためにも、少しずつ昔の記憶を辿(だと)るのが、元気になる秘訣なのかも知れない。

6月11日 土曜日 24年振りの再会で元気を貰う …

 夕べは10時就寝で今朝は4時半起床。生活習慣とは身体の中のリズムが、その前の日の記憶を呼び覚ますのか。今朝は浅漬けを漬けるだけの仕事しかなかったから、珈琲を入れて飲んだらワールドニュースを見て、6時なったら車で蕎麦屋に出掛けるのでした。陽は昇っているのに雲がかかっていました。昨日、○○さんのお兄さんが、草刈り機で蕎麦屋の前の畑を刈っていたから、綺麗になった。仕事もあるのにやっと田植えも終えて、元気をもらう光景でした。

 昨日はお客もなかったので片付けるものもなく、野菜を出して少し薄めに切り分けたら、浅漬けの素に漬けていく。よくかき混ぜて重しをしたら冷蔵庫に入れて、次ぎに来たときに小鉢に盛り付ければ好い。糠漬けは前の晩に来なければ浸けられないので、足の指が完治していないから、わずか300mでも歩いて来るのは敬遠してしまう。夕刻からは酒を飲んでしまうから、車では来られない。あまり無理をせずに、出来るところからやるようにしているのです。

 7時前に家に戻れば、女将が珍しく早く台所に立っていたので、早起きの亭主も朝食が早めに食べられると喜んで食卓に着く。朝が早いからか、少し動いて帰るともう眠たいのです。メインの魚が焼けるのを待ちきれずに、揃ったおかずだけで朝食を食べ始めるのでした。お蔭で今朝は1時間近くゆっくりと眠ることが出来ました。目が覚めたら頭もすっきり、洗面と着替えを済ませて、「行って来ま~す。今日はよろしくね」と元気に玄関を出るのでした。

 天気が思わしくないから、お客が来なければまた蕎麦が余ってしまうと思ったけれど、今朝も最小限度の蕎麦を打ち、生舟には15食を用意しておく。天候の不順なこの時期の週末は、まるで予測が付かないのです。売りきれにして看板を出すのは簡単だけれど、来る客の気持ちになれば、蕎麦屋なのになんだと言うことになるから、まさに営業は難しい。蕎麦打ちを終えて厨房に戻って、野菜サラダの具材を刻むのです。これも週末だから四皿分の用意をしておく。

 マスカット大福は昨日作ったものだけれど、今日は全部売り切れたのです。開店直後に、常連のいつもカレーうどんの親父様が珍しくお一人でいらっしたので、聞けば奥様は孫の世話なのだとか。暑い日だった前回は、ちょうどなかった辛味大根が今日はありますよと言えば、やはりカレーうどんが食べたいとおっしゃる。すぐに次のお客がいらっして、天せいろのご注文。遠くからご夫婦でラベンダー祭りに来たそうなのですが、蕎麦が美味しいと褒められた。

 例の少年が学校も休みなのに歩いてやって来たから、聞けば手足を骨折したお婆さんは昼を作れないのだと言う。ヘルパーさんは本人の食事しか作らないのだとか。続けて三人連れのご家族がご来店なのですが、息子さんらしいマスク姿の男性が「先生、僕がわかりますか、○○です」と言う。遠い記憶が鮮やかに蘇る。「クラスで文化祭でラーメン屋をやりましたよね」と言われ、600食を売り尽くして、校内の模擬店で一番の売り上げを出したのを思い出す。

 運動部に所属していた彼は、いつも明るく元気で皆に好かれていたのです。一緒にいらっしたお父様も「いつも話には聞いていました」とまだ若くて元気だった頃の亭主の話をする。今は大手の食品メーカーに勤めて中堅の社員なのだと言う。他のお客もいなくなったから、ゆっくりと話をして帰られたのです。途中で母と娘らしきお二人がいらっして、天せいろのご注文。お蕎麦がとても美味しかったと言って帰られたと後で女将から聞くのでした。

 天候の悪い土曜日にしてはまずまずのお客の入りで、コロナ禍の徐々に回復しているという実感がある。気温は高くないけれど、蒸し暑い日だったから、女将も何故か疲れたと言う。亭主が昼寝をして居る間に、買い物に出掛けた女将は、珍しく刺身を買って帰ったらしく、夕食はハマチと本マグロとサーモンの刺身。近くに住む前のスタッフが新じゃがが採れたからと、わざわざ家まで届けてくれたので、夕食はそれだけでもうお腹がいっぱいになるのでした。

6月12日 日曜日 めまぐるしい天気の一日 …

 いつもと同じく4時半に目が覚めていたけれど、雨が降っていたから、無理に蕎麦屋に出掛けなくても好いと思っていた。蕎麦汁を蕎麦徳利に詰めて、浅漬けを漬ければいいだけだった。昨日の洗い物の片付けも直ぐに終わるからと、今朝はもう一度眠りに入る。次ぎに目が覚めたら、もう7時なのでした。逆に寝過ぎで頭がぼうっとしている。珈琲を一杯飲む暇もなく、朝食の支度が整ったので、食卓に付く亭主。今朝は縞ホッケが焼かれていた。

 時折、小雨が降る空模様でしたが、何とか傘を差さずに蕎麦屋まで大根を辿り着く亭主。途中の休耕地も綺麗に草を刈ってあった。これから耕すのだろうか。落花生の植え付けはもう止めたらしいから、ただ草が伸びないように根から掘り起こすのでしょう。その労力は大変なものだと、常々思っているのです。四十代の若いお兄さんだから、自分の勤め以外に、田んぼもあるのに頑張れるのかも知れない。亡くなった親父様のいた頃は、まだ楽だったのです。

 草を刈った朝の畑には沢山の鳥たちが集まっている。椋鳥は群れて何やら啄(ついば)んでいる。山鳩まで集まっているから大変。低い中空を雛が孵(かえ)ったらしい燕の親子が飛び交っていくのです。雀たちはバス通りの水たまりの中で、羽を広げて遊んでいるようにも見えるけれど、水浴びとしか思えない仕草が可愛らしい。幟を立てて、チェーンポールを降ろしたら、亭主も今朝の仕事を始めるのでした。まずは、野菜をスライスして浅漬けを漬けておく。

 大根と生姜をおろして、薬味の葱切りをしたら、カウンターに乾してある昨日の洗い物を片付け、蕎麦打ち室に入って今日の蕎麦を打つ。この天候だから、今日は昨日の蕎麦と合わせて12食もあれば十分だろう。昨日よりも室温は低く22℃だったけれど、湿度は75%もあるのです。窓を開ければ涼しい風が入ってくる。加水率は41%強でちょうど好い柔らかさになる。蕎麦玉を寝かせておく間に、厨房に戻ってマスカット大福を包む準備をするのです。

 その間に「お早うございます」と言いながら女将がやって来て、洗濯物を畳み、店の掃除を始めてくれる。大福を包み終えた亭主は蕎麦打ち室に戻り、蕎麦玉を伸して八つに畳んで包丁切り。今日は硬さがちょうど好かったと見えて、トントントンと乾いた包丁の音が響くのでした。これが柔らか過ぎると、包丁の刃に生地がくっついて、なかなか綺麗に切れないのです。切りべら26本で135g。予定通り12食の蕎麦を用意する。ところが雲の間から陽が差してきた。

 野菜サラダの具材を刻んで、新しい油を天麩羅鍋に入れたら、もう午前中の仕込みは完了です。ひと足先に準備を終えた女将は、新聞を読んでいるから気楽なもの。客の出足の遅い日曜日だから、昼になるまではお客が来なかったのです。12時を過ぎると、どうして同じ時間に来るのかと思うほど、あっという間に駐車場が一杯になって、後から入ろうとする車は諦めて帰って行く有様。皆さん、天せいろのご注文なのでした。晴れて来たのが幸いしたのか。

 西の空には青空も覗いていましたが、東の空には黒い雨雲が広がっている。天気予報の通り、午後からは雨が降り出すのでした。それでも最後のお客が帰るまでは、雨が降らずに好かった。1時半になったので、亭主は蕎麦を茹でてぶっかけで食べておきます。天かすとおろしと山葵に葱だけでも、今日打った蕎麦だからとても美味しい。生舟に少し蕎麦の束を残して、今日の営業はお終いです。奥の座敷で休んでいたら、突然の雷。女将が店の窓を閉めていた。

 ザーッと凄い雨の勢いなのです。ドドーンと大きな雷の音。辺りは薄暗くなって、消した店の電気をまた点けて片付けと洗い物をするのでした。野菜サラダと大福はすべて残ったから、サラダはラップのままくるんで家に持ち帰る。亭主が大鍋を洗って、天麩羅鍋の油を濾している間に、女将は洗いかごを拭いて、まな板の消毒をしてくれる。小さな折りたたみ傘しか持って来なかったと言う彼女。亭主は傘も持って来ていないのです。小降りになるまで待つ。

 それでも雨は止みそうになく、小降りの隙を狙って女将は帰ってしまう。仕方がないから置き忘れの傘を借りて、家まで帰る亭主。途中でザーザー降りになって、傘を差していてもびしょ濡れになってしまったのです。いつもは買い物に出掛ける女将も、さすがに今日の天気は判らないからと、家で自治会の仕事をしていた。夕食は残ったサラダを消化しようと、例によって、亭主がお好み焼きを作る。食べ終えて煙草を買いに出れば、雲一つない青空なのでした。