3月20日 日曜日 朝はまだ霜の降りる寒さで…
午前6時前、蕎麦屋の前の畑には霜が降りていました。太陽はまだ森の陰に隠れていますが、随分と日の昇るのも早くなりました。畑の土から湯気が出ているように見えるから、地表は陽の光で辺りの空気よりも先に温められるらしい。気温は2℃と言うけれど、起きたばかりのせいか、ジャージを羽織っただけで、とりわけ寒いとも感じずに蕎麦屋に着きました。確かに室内は10℃だから、いつもに比べたら寒いはずなのですが、暖房を入れてもすぐに15℃まで上がっていくから、やはり春の陽気なのか。
厨房に入って出汁を取り、一番出汁で蕎麦汁を仕込む。まだ、蕎麦徳利10数本には蕎麦汁が入っているのですが、今日のお客の入りようでは一挙に明日の分の蕎麦汁が足りなくなる。出汁取りには約1時間かかるから、昨日のうちに昆布と干し椎茸を水に浸けておいて、今朝の作業となりました。疲れた午後や夜にはもう出汁取りに来る元気がないのです。2リットルの容器を二つ用意して二番出汁も取るのですが、今週のために取った出汁がまだ使い終えていないから、ペットボトルに入れて家に持ち帰るのでした。
持ち帰った二番出汁は、早速、朝飯の鮭粥に入れて使われた。野菜がないからと菜の花を入れたのは好いけれど、彩りは綺麗だが、ちょっと食べにくい。小さく切ったお餅も入っていたので、尚更のこと。「明日は何も入れないで素朴に作るわ」と女将も言うのでした。小さな茶碗に二杯も食べれば、汁があるから身体は暖まるし、もうお腹が苦しいのです。若いころの亭主なら物足りなかったろうけれど、今は胃が小さくなったのか、本当に少食になりました。
朝飯前のひと仕事で終わらなかった天婦羅の具材の仕込みが残っていたから、今朝も早めに蕎麦屋に出掛けようと思っていたのに、スティーブ・マックインの「ネバダ・スミス」という映画を観始めてしまったから大変。9時前に家を出て、急いで蕎麦屋に出掛ける亭主。蕎麦玉を作って寝かせている間に、椎茸も蕗の薹もナスもカボチャも蓮根も、昨日は天婦羅が好く出たので、新しく用意しなければなりませんでした。9時半にはいつものように、女将がやって来て店の掃除を始めるのです。三連休だから、三日間の彼女の手伝いは嬉しい限り。悪いと思って洗濯物だけは干しておきました。
蕎麦打ちは加水を今日も44%にして、少し硬めだけれど包丁切りをすれば、綺麗にエッジのきいた蕎麦に仕上がる。厨房に戻って野菜サラダを刻んで盛り付ければ、お湯をポットに入れ、天つゆと油を温めて開店前の準備が整いました。開店時刻の10分前には暖簾を出したのは好いけれど、すぐにお客がいらっして休憩する暇がなかったのです。注文の品を出したら一休みと思っていたら、もう次のお客さんの車が駐車場に入る。今度は料理を出し終える前に次の車が入って来て、12時前だと言うのに駐車場は満杯なのでした。
昨日の方が暖かくて風もなかったけれど、やはり青空で天気が好いのが一番の理由なのか。皆さん常連さんで、カウンターに座った隣町のお客は今週二回目のご来店。前回は寒かったからと暖かいぶっかけを食べて、蕗の薹の天婦羅が美味しかったと、今日はいつものせいろ蕎麦に野菜サラダ、辛味大根、そして「蕗の薹の天婦羅だけもらえる ? 」と言うから、蓮根の天婦羅の上に蕗の薹の天婦羅を三つあしらって100円でお出ししたのでした。
その後もご来店の客足は止まらないから大変。カウンターに三人座ったところで「ただいま満席です」の看板を出す。車が出入りした後は、歩いていらっしゃるお客だけなのでした。ちょっとした時間を無駄にせずに、亭主は洗い物、女将は片付けと忙しかった。お酒を召し上がるお客もいたけれど、天気の好い日はやはり天せいろが人気なのでした。カリッと揚がる銅の天婦羅鍋が大活躍です。すぐに温度が下がらないのが好いのでしょう。長い時間立ち続けて、腰の痛いのを我慢して洗い物を片付けた亭主は、2時過ぎにやっと解放されて、女将と一緒に蕎麦屋を出るのでした。
3月21日 月曜日 春分の日に…
明け方まで雨が降っていました。夕べは久々に昼の蕎麦屋が混んだから疲れたのか、夜は眠くて10時には床に就いたのです。そうしたら今朝は4時にはもう目が覚めてしまう。ぼうっとした頭で4時半には居間に行き、外が明るくなるまで待つのでした。朝飯前のひと仕事に、蕎麦屋に出掛けて蕎麦汁を徳利に詰めておかなければ、今日の営業に間に合わない。小鉢も用意しなければ。お客の多かった日の翌日は、何かと準備することが多いのです。
カウンターに干しておいた盆や蕎麦皿を片付けて、蕎麦汁を詰め替えたら、キュウリとカブとニンジンをスライスして浅漬けに浸けておく。店内の温度は10℃と寒い朝だったから、暖房を入れたままで家に戻る。女将の用意した素朴な鮭粥を啜ったら、書斎に入ってちょっとひと眠り。朝ドラの終わる時間に家を出て、再び蕎麦に出かかけるのでした。まずは、放っぽったままのミニ菜園の様子を見れば、肥料をやった辛味大根が随分大きくなっていました。
何はともあれまずは蕎麦打ちをと、9時前には蕎麦打ち室に入って、今日の蕎麦を打つ。少なくなった蕎麦粉の残りがどのくらいあるのかを確かめて、木曜日に打つ分だけはあることを確認。明日にでも発注をかけておけば、定休日明けの木曜日には次の蕎麦粉が届くだろうという計算です。以前なら、こんなにギリギリでは注文しなかったけれど、コロナ禍でお客が減ってからというもの、次の仕入れの支払いの出来る売り上げがあるまで我慢しているのです。
今朝も44%の加水でしっとりとした生地を仕上げ、地伸し、丸出しを終えたら巻き棒に巻いて、90度ずつ四角くなるまで伸し広げていきます。これをもう90度回転させて本伸しに入るのです。今朝も綺麗に包丁切りを終えて、いつもよりも早く蕎麦打ちが終わったから、厨房に戻って生姜と大根を下ろして、苺大福を包み、野菜サラダの具材を刻むのでした。と、向かいの畑にいた親父様が蕎麦屋に向かって歩いいてくるから、女将が出て話を聞いたのでした。
からし菜がたくさん採れたから食べないかという話らしく、亭主も玄関先に出て「いただきます」と食べ方を尋ねるのでした。店で売っている漬物は買ったことがあるけれど、採れたてのからし菜をどう調理するのかに興味があったのでした。畑に戻って両手に抱えきれないほどの量を取って来てくれて、葉の先端と茎の根元を切って塩で漬ければいいと教えてくれたのです。お礼に作り立ての苺大福を持って行ってもらって、じきに開店の時刻となりました。
今日は寒くて曇った割には休日だからお客が入って、常連さんがビールや蕎麦焼酎を頼まれて、つまみに天婦羅の盛り合わせや串焼き、出汁巻き卵などを注文したから、他のお客もいるので結構忙しかったのです。農家でいただいたからし菜は、あまりにも量が多かったので、お袋様に電話をして、残った蕎麦や大福などと一緒に半分近く持ち帰ってもらった。洗い物を終えて家に帰れば、早速、女将がからし菜を湯がいて、夕食にはベーコンとの炒め物が出た。
やはり採りたての野菜はとても美味しく、200mも離れた隣の農家の親父様には感謝なのでした。ご近所とは言っても広い畑を挟んでいるから、毎日、お互いに働く姿は目にしていても、なかなか話す機会はないのです。蕎麦屋にも何度か来ていただいているから、歳の近いご近所ということで、有難い存在なのでした。「塩漬け以外にどうやって食べるの?」と言っていたお袋様に、女将が電話をして話をしたら、もう全部湯がいて冷凍したと言うからさすが。
3月22日 火曜日 雨の中の仕入れ…
定休日の前夜は一般の人の金曜日の夜に当たるから、亭主は珍しく早い時間から酒を飲みながら大相撲を観る。酒の肴はコンビニで買ったイカ明太子。最近は1キロほど先のコンビニより遠くにはめったに出かけないのです。そのうち、蕎麦屋の残り物の浅漬けが出て、からし菜とベーコン炒め物が出て、女将が夕食を食べ始める。
相撲の最後にはもう居間に移って、6時のニュースの前にひと眠り。と、思ったら目が覚めたらもう風呂の時間ではありませんか。2時間以上も眠ってしまったらしい。女将がお湯を入れてくれていたから、急いで湯船に入って腰の痛いのが消えるまで温まる。立ち仕事で同じ筋肉の使い過ぎ、そして運動不足だから血流が悪い。分かってはいても、夕刻にはもう疲れてしまうから眠くなるのです。
今度は寝酒を飲みながら目を覚まし、ブログを書き終え、今日の仕入れのメモを一覧表にして印刷したら、もう0時を過ぎていた。
三日間、蕎麦屋の手伝いが続いた女将は、やはり疲れたのでしょうか、今朝はいつもの時刻には起きてこなかった。亭主は6時過ぎには目が覚めて、新聞の代わりにテレビのニュースを見る。最近は小さな文字を見続けると目が痛くなるし、耳も少し遠くなったから大きな字幕の出るニュースや洋画がちょうどいいのです。
外は雨だったけれど、いつもの時間に蕎麦屋に出掛け、昨日の洗いものの片付けをして、お袋様に電話をして迎えに行くのでした。仕入れ先はいつもと同じ。地元の農産物直売所と隣町のスーパー。雨の日は農家も野菜を持ってこないから、商品棚にはあまり品物が並んでいない。大多数はスーパーで揃えて、店に帰って検品するのです。後は、今日のうちに蕎麦の農場に電話して、木曜日には蕎麦粉が届くようにしてもらえばいい。早めに家に戻って昼の用意。
朝食は昨日美味しかったベーコンとからし菜の炒め物に、お粥だったから、亭主はトンカツでも買って来てスパゲッティーポロネーズでも食べたいと言ったら、女将が「午後からはもっと寒くなるのですってよ」と言うものだから、家にある肉とうどんと野菜とで、うま煮うどんを調理して温まる。昼を過ぎたら、たしかに雨は雪に変わり、ますます冷えてくるのでした。電力不足の警報が出ているらしく、停電になったら大ごとだからと少しでも協力しようと、布団にもぐって温まる。しかし、こういう時にはなかなか眠れない。
眠るのをあきらめて蕎麦屋に出掛ければ、折しも、雪が激しく降り始めていました。店の暖房を入れて、まずは銅の卵焼き鍋と天婦羅鍋をお湯に浸け、重曹を振りかけて置いておきます。後で金のたわしでこすれば、けっこう綺麗に汚れが落ちから不思議です。その間に、残り少なくなっていた返しを仕込む作業。蕎麦汁にしても、天つゆや温かい汁にしても、コンスタントにお客が来ていれば、二週間ほどで返しはなくなるから、暇のある定休日に仕込んで、一週間は寝かせておきたいのです。
重曹に浸けておいた銅鍋の汚れを取って、内側だけは特に綺麗にしておきます。卵焼き鍋も内側が汚れていると、出汁巻き卵を作る時に、すぐに焦げ付いて上手く巻けないので、十分に綺麗にしておくのです。外側の油の汚れはなかなか落ちないから、少しこすってすぐに諦めてしまう。天婦羅鍋も購入してから毎週のように洗っているのに、外側だけは油汚れが落ちないから困っている。もっと粘り強くこすらなくてはいけないのかも知れない。
雪はさすがに積りはしなかったけれど、家に帰るまでずっと振り続けていたから驚きでした。今夜はちゃんこ鍋にすると女将が言うから、「はい、分かりました」と亭主は応える。蕎麦屋で使ったキャベツが残っていたのを知っていたのです。コンビニで買っておいた本格キムチを肴にして、今夕も相撲中継を見ながら焼酎を飲む。電力消費を抑えるためにと、食堂と台所だけの電気で二人が集まるのでした。それにしても寒い夜なのです。
3月23日 水曜日 真冬の寒さで蕎麦屋は5℃…
昨夜は10時に寝てしまったら、今朝4時前にもう目が覚めたのです。頭もすっきりしていたから、4時半になったらまだ暗い道を歩いて蕎麦屋へ出かけました。やることが沢山あったから、暖房を点けて大釜にも火を入れ、室温5℃の店内を温めるのです。まるで冷蔵庫の中の冷たさだけれど、次々とすることがあるので、寒さは感じなかった。まずは昨日のうちに仕込んだ返しを甕に移して、出汁取りの鍋を火にかけるのです。
一番出汁を取ったら、二番出汁を取りながら蕎麦汁を仕込む。蕎麦汁の詰まった蕎麦徳利の数にはまだ余裕があるのだけれど、週の途中で出汁を取る作業をするのは、なかなか大変なことなのです。二番出汁は、暖かくなって、温かい汁が出るのが少なかったから、最近は余り気味。残った時には家に持ち帰って、みそ汁や鍋に入れて使っています。週に二度ほど出汁を取るペースが出来ると、お客が順調に来店している証拠なのですが、まだまだそうはいかない。
一時間ほどしてやっと空が明るくなった日の出前。寒いと思ったら、前の畑には真っ白な霜が降りているのでした。まだ6時前だから、今日はもうひと仕事できると頑張る亭主。昨日スルメイカを仕入れておいたので、今週は大根とイカの煮付けを作ろうと決めていました。あっと、逆で、先週は大根が沢山余ったから、イカを仕入れたのだった。本当はそろそろ終わりになるサトイモでイカの煮つけを作りたかったけれど、残った食材を使うのが最優先なのです。
イカをさばいて煮つけを作るには時間が足らないから、まずは大根を切って米を入れて下茹でをしておきます。柔らかくなるまで茹でるから、これが約30分かかる。根菜類は水から茹でるのが基本だから、その間に、洗濯物の乾き具合を見に行ったり、鍋やボールを洗ったりと、することはいろいろあるのです。茹で上がった大根は水で洗ってタッパに入れ、冷蔵庫で保存しておきます。消火の点検を終えたら、店の鍵を閉めて家路に就く。
7時前でしたが、朝の寝床でヨーガを終えた女将がやっと起きだして「おはようございます」今朝も寒いからと卵粥のはずだから、亭主は居間の椅子に座って一服します。お粥の土鍋が食卓には運ばれたのを見て、自分の茶碗を戸棚から取り出して食堂の椅子に座るのです。農家でいただいたからし菜とベーコンの炒め物が大皿に盛られていた。粥を二杯ほど啜って、亭主はもう眠くなるのでした。まだ今日は定休日だから、ゆっくりと眠ることができる。
朝が早かったから、9時前に目覚めて洗面を済ませる。着替えはせずに、寝た時のジャージの上にセーターを着こんだだけだから世話はない。コロナでほとんど外に出なくなって、上にジャンパーを羽織ってそのまま蕎麦屋に出掛ける。庭の片隅のレンギョウの花がスモモの花と共に春の訪れを感じさせるけれど、気温はまだ相当低いのです。蕎麦屋まではゆっくり歩いても5分ほどだから、二回往復をしてもたいした運動ではない。それでも今朝もまた歩く。
厨房に入ったら、早速、今朝の大根を出汁でもう一度煮て、味付けをします。昨日買った生きのいいイカをさばいて、包丁で網目状に切れ目を入れて短冊に切り、別の鍋でさっとゆがく。これを大根の鍋に加えて再び火を入れるのです。始めからイカを入れてしまうと汁が濁ってよろしくない。甘めで薄めだけれど、落し蓋をしてしばらく煮詰めていきます。その間に先週残った蓮根とニンジンを切って、隣の火口でごま油で炒め、こちらは濃いめに味付けをする。ここに出汁を少々、京唐辛子といりごまを加えて汁のなくなるまで煮込む。これで今週の小鉢二種類が出来上がりです。
11時半には女将のスポーツクラブの予約をしなければならないから、家に戻って昼の支度をする亭主。蕎麦屋の残り物の野菜を使って、今日はスパゲッティーナポリタン。スープも残った野菜サラダに豚肉少々。バランスはとれていると思うけれど、スパゲッティー一把の量が多いと感じる。やはり、胃が小さくなったのかも知れない。午後は女将がスポーツクラブに出掛け、亭主はテレビで洋画を観る。床屋に行こうかとも思ったけれど、今週は蕎麦粉の支払いもあるからと我慢したのです。3時を過ぎたころに女将が戻って、また蕎麦屋へ午後の仕込みに出掛けるのでした。
薄日が差す程度の天気だったけれど、だいぶ気温も上がったと見えて、蕎麦屋の店内も暖房を入れるほどではなかったのです。午前中に水に浸けたままの鍋やフライパンを洗って、やっと乾いた洗濯物を畳み、洗濯機の中の洗濯物を干し終えたら、明日の天婦羅の具材を切り分けながら、切り分けた蓮根を茹で、カボチャをレンジにかける。かき揚げの玉ねぎと三つ葉を刻み、仕込みはこれで完了。
冷蔵庫の中の棚が汚れて気になっていたから、中に入れるものがないうちに取り出して温水で洗う。床とレンジ周りの汚れも気になるけれど、これはまたの機会。定休日も今日で終わりなのに、やらなければならないことが沢山ある。蕎麦粉と豚のハラミの注文は済ませたけれど、支払いの金は足りるのだろうか。家に戻って夕飯を食べたら、相撲中継の最後とウクライナの大統領の演説を観る。
3月24日 木曜日 久し振りに晴れて…
夜中に雨が降ったと見えて、蕎麦屋の前のバス通りも濡れていました。久し振りに朝から晴れるのか、日の出前の空には雲がかかっていなかったのです。今朝の朝飯前のひと仕事は、お新香を糠床から取り出して小鉢に盛り付け、大根とイカの煮物とレンコンのキンピラも少しずつ小鉢に盛って、今日の準備をしておくことでした。珈琲を入れて飲みながら、今日の段取りを考える亭主。平日だからそれほどお客は来ないだろうけれど、準備だけはしなければ。
7時過ぎに家に戻って、玄関前の雪柳が咲き始めたのに気が付いた。この雪柳の剪定は案外難しいもので、切りすぎてしまうと花の咲く時期に形が悪くなるのです。お隣との境にある連翹と一緒に植えた雪柳は、あまり伸びたから短く切ったのですが、連翹の咲く時期にたいして花が付かない。黄色と白が咲き乱れる春の光景をイメージして植えたのに、毎年、うまく揃わないから残念なのです。狭い庭でなければ、もっと伸び伸びと咲くのでしょう。
亭主が家を出たのが6時過ぎだったから、女将も心得て、朝食の用意はまだ終わっていなかった。三ツ葉の卵とじと辛子菜とウィンナの炒め物に、蕎麦屋で残った浅漬けとナメコの味噌汁が付いて、亭主には多すぎるくらいのご飯が盛られていました。今朝は時間が遅かったから、食後のひと眠りはなしのまま、洗面所に立つのでした。今日は午前中に蕎麦粉が届く予定だったので、いつもより早い時間に家を出て、再び蕎麦屋に向かいました。
チェーンポールを降ろして幟を立てたら、早速、蕎麦打ち室に入って、蕎麦を打ち始める。最後の600gの蕎麦粉をビニール袋に入れて用意してあったから、小麦粉を150g足して、平日だから750g8人分の蕎麦を打つのです。蕎麦粉は篩に掛けてきめ細かくしてから加水します。44%の加水のつもりが、5gほど水が多かったら、少し柔らかくなってしまう。もう、暖かくなるこの時期は、44%以下の加水でないと、しっかりとした蕎麦が打てないらしい。
無事に蕎麦打ちを終えたら、厨房に戻って取りあえずひと休み。次に、葱切りを済ませ、生姜と大根をおろして、大釜の火を点ける。これで10時過ぎだから、まだ余裕はあるのです。野菜サラダを盛る皿と苺大福を盛る皿を並べて、まず大福を包んでしまいます。今週の苺は少し大きかったから、白餡の量も多く、求肥もちょっと多めに作って、丸めればいつもより随分大きな大福になる。それでも、今日はこれが全部売れたから嬉しかった。
それから野菜サラダの具材を刻み、平日だから三皿に盛り付けて大福と一緒にカウンターに並べる。外は晴れて菜の花畑の黄色が今日の青空に映えていました。と、電話が鳴って「今日はお店やっていますか?」「予約は出来ますか?」と男性の声。「12時ごろ行きたいんですけど、大丈夫でしょうか?」小さな店だから、予約は受けていないということと、コロナ禍でお客が少ないから、多分大丈夫と亭主は応える。初めてのお客らしいのです。
電話の主が奥様を連れて現れる前に、出掛けた帰りだと畑の向こうの常連の小母さんがいらっして、まずは野菜サラダを頼まれる。天せいろの注文を受けたところで、奥様の運転の車で先のお客が暖簾をくぐる。同じく天せいろのご注文だったから、三人まとめて天麩羅を揚げ、蕎麦を茹でてお出しする。ご主人は熱燗の注文だったから、突き出しと一緒に先にテーブルに運ぶ。隣町の団地から来たとおっしゃる。小母さんも交えて賑やかな会話のひとときでした。
長く話をしたから、12時半になっていました。洗い物を済ませ、1時になったら亭主は蕎麦を茹でて、大根おろしと山葵でぶっかけを食べる。暖かくなってきたから、冷たい蕎麦がやけに美味しい季節だと感じる。それでも、やはりお客は来ない。ラストオーダーの時刻が過ぎて、片付け物もすべて終わったところに、女性の三人連れがいらっして「もう終わりですか?」と玄関を開ける。暖簾をしまっておかなかったから、幸か不幸かお客が増えたのです。
三人揃って天せいろのご注文で、今日は天せいろのオンパレードでした。銅の天麩羅鍋が大活躍なのです。蕎麦豆腐や苺大福も頼まれたけれど、大福は前の三人がそれぞれ注文したから残り一つ。それでも食べるからと三人で一つの大福を食べ、「白餡の苺大福は初めてです。めちゃ美味しい」と喜んでいただいた。
片付けた材料やボールを取り出して、盆や蕎麦皿を並べ、これは大変だと思っていたら、玄関が開いて女将が来たから救いの神。全部の料理を出し終えて、亭主は奥の座敷で一休み。「お蕎麦がとても美味しかった」と言って帰られたのでした。天気が好くなって、暖かくなるとやはりお客が増えるのかも知れない。明日はさらに天気が好くて暖かくなると言うから、一人で頑張れるか…。
3月25日 金曜日 少しずつお客が増えて…
あまり寒いとは感じなかったけれど、朝はまた畑に霜が降りているのでした。5時半に家を出て蕎麦屋に向かう亭主。少しずつお客が増えてくると、仕込まなければならないものが沢山あるから、今朝も眠い目をこすって出掛けて行くのでした。店の混んでいた以前なら、前日の夜に仕込んだものですが、さすがに歳を取ったのか、今はその元気がないのです。夕べも、明朝は何をしなけれと、いろいろ考えながら床に就いたから、なかなか寝付けなかった。
厨房に入って、カウンターに干してある昨日の洗い物を片付けたら、次にする蕎麦汁の詰替えの用意をして、まずは珈琲を入れて目を覚ますのです。レンジの火口では、白餡を氷糖蜜と水で溶いて煮詰めています。『後は何をすればいいのだったか?』と、夕べ何度も繰り返したシュミレーションを思い出してみる。白餡を煮詰めるときに苺大福を載せる例の皿は出しておいたけれど、大福を包むのは蕎麦打ちの後だからまだ先の仕事なのでした。
目の前にないものを思い浮かべるのはひと苦労だから、歳は取りたくないものです。ほどなくして冷蔵庫からキュウリとカブとニンジンを取り出して、夕べは糠漬けを漬けに来なかったのを思いだして、野菜を切って浅漬けの素を用意する。火にかけた鍋は、プツプツと音を立てながら煮詰まってきているけれど、火を弱めて更に硬めになるまで待つのです。時折かき混ぜないと鍋の底が焦げついてしまうから、他の作業をしながら辛抱強く待ち続ける。
6時半を過ぎて、やっと朝飯前のひと仕事が終わって、白餡もタッパに移し、洗い物を片付けるのでした。火元の点検を済ませ、出しっ放しの食材がないかをチェックしたら、玄関の鍵を閉めて家路につく。前の畑に降りていた霜も、朝日陽が昇ったらあっという間に溶けていました。春の陽の光は暖かいのです。今日は風もないから、お客が入るかも知れないと思いながら、家の前の道路から黄色い姫水仙や連翹と、その上にあるスモモの花を眺めて門を入る。
まだ7時前だったけれど、亭主が出掛けたのが早かったからか、女将はもう朝食の支度をしていました。有り難いことなのです。食卓に並んだのは、若い昔が懐かしい卵焼きとウインナソーセージ。冷蔵庫の食材も尽きてきたと見えて、イカと大根の煮物も浅漬けも野菜サラダも、すべて昨日の蕎麦屋の残り物なのでした。それでも「ああ美味しかった」と食べ終えた亭主は居間でひと休み。女将の内助の功は計り知れない … 。亭主も寡黙になる今日この頃です。
早く朝食を食べ終えたので、書斎に入ってごろりと横になれば、30分ほどは眠ったのだろうか、今日も午前中に宅配便が来る予定だったから、洗面と着替えを済ませてまた蕎麦屋に出掛ける。団地の外れにある蕎麦屋だから、宅配便の運転手が最初に荷物を降ろすことが多いのです。人間は勝手なもので、蕎麦粉の届く日には嬉しいし、ゆっくりしたい朝には忙しないと感じる。蕎麦屋に着けば、駐車場の馬酔木の花が、今朝の青空に映えて綺麗なのでした。
朝の仕事を終えたら、9時前に蕎麦打ち室に入り、今日の蕎麦を打つ。昨日の反省から、今朝はぴったり44%の加水で水回しを始めたら、やはりこれが正解。室温15℃、湿度は36%だけれど、この時期はもう、多すぎる分分は大敵なのです。大気全体の暖かさが原因なのだろうか。11時過ぎには野菜サラダの盛り付けまで終えて、テーブルをアルコールで拭いたら、もう開店の準備は完了。天麩羅油と天つゆを温めて、今日のお客を待つのです。
昼前に、駐車場に車が入って、家の近所の親父様が若いカップルを連れてご来店。この間まで杖をついていたのに、今日は2回目の手術を終えて好くなったのですよと嬉しそう。お子さんは確かアメリカにいると聞いた事があるけれど。皆さんヘルシーランチセットのご注文で、用意したサラダはすべて出尽くした。続けてサイクリングのご夫婦がテーブル席に座って、天せいろのご注文。前の三人に料理を出すまでに、お茶を入れたり注文を聞いたりで大変。
二組ぐらいなら、何とか一人で対応できるけれど、同時に三組が入ったらどうなるのだろうかと、心配になる亭主。幸い、次のお客が来る前に、洗い物を全部片付けて、テーブルまで拭くことが出来たから今日はセーフ。最後のお客はリピーターの母娘さんで、温かい天麩羅蕎麦と天せいろのご注文なのでした。暖かい日には天麩羅がよく出るのです。昨日の小母さんも「揚げたての天麩羅が食べられるからね」と言っていたっけ。週末は暖かい曇りと言うけれど。
3月26日 土曜日 春の嵐か、桜はまだ …
今朝は6時に家を出て、朝飯前のひと仕事。通りは夜明け前まで降った雨で濡れていました。「今年は椿が綺麗に咲いているお宅が多い」とは女将が言ったのですが、みずき通りにさしかかる角のお宅の椿も綺麗なのでした。ピンク色のオトメツバキは、昔は家にもあったのですが、チャドクガが出て女将が酷い目に遭ったから、確か、その後にスモモの木を植えたのです。手入れや消毒をきちんとしないと、椿も大変なのでした。若い頃はなかなか分からない。
今朝はお新香の小鉢がなくなったので、また漬けに行くのが主な仕事。夜に漬けに来られなかった糠床は、冷蔵庫から出して好くかき混ぜておきます。カブとキュウリとニンジンを今日は少し厚めに切って漬けたのですが、多分ニンジンは柔らかくはならないと後から思うのでした。毎日のように浅漬けになってしまうのがちょっと悔しい。天せいろが出ると、さっぱりするだろうとお新香を小鉢で漬けるから、お客が多いとその日のうちになくなるのです。
その他には、米を研いで炊飯器にかけ、カウンターの洗い物を片付けるのが今朝の仕事なのでした。珈琲を入れて飲みながら、タブレットで天気予報を確認したら、今日は一日中曇りだけれど、気温は高いとのことでした。そう言えば朝も暖かく、店も暖房を入れずに作業をしたのです。南風が強くなると言うから、もう春一番の季節なのでした。今年は寒かったからか、近所の桜はまだ咲いていない。強い風で散ってしまうよりも、その方が好いのかも知れない。
家に戻って、この間から気になっていた水仙の花をよく見たら、黄色い姫水仙の前に咲いた白い水仙は八重の水仙で、今、咲き始めているのは一重のオーソドックスな水仙なのでした。我が家に二種類の白い水仙があったと、女将は知っているのだろうか。それにしても植えた場所以外に生えてきているから不思議。チューリップの新しい芽もあちこちに出始めている。やはり、季節は食もう春なのです。いつもの年と違うのは、桜の花がまだ咲いていないこと。
蕎麦屋に着いて幟を立てたら、今朝は最初に蕎麦を打つ亭主。加水率44%以下だったのに、まだ少しだけ柔らかい生地に仕上がったから、明日は43%にしてみようか。単に室温ではなく、建物を取り巻く大気全体が、もう変わってきていると感じるのです。切りべらは26本で140gと、少し太めの蕎麦だけれど、今日も何とか無事に打ち終えて、厨房に戻るのでした。連日、ある程度のお客が入っているから、翌日に持ち越す蕎麦が少ないのがちょっと心配です。
苺大福も、このところ連日売り切れているから、苺の数が足らなくなりそう。明日はもう、金柑の甘露煮の残りを使って苺大福と二種類の大福を作らなければ、数が足りそうにない。嬉しいけれど、今までが毎日のように売れのこっていたから、作る手間が大変なのです。コロナ禍で客が少なかったので、楽をすることになれてしまったのでしょう。今週は少しずつお客が増えている気がするから、今日よりも暖かく陽も出るという明日が楽しみなのです。
定休日に仕入れた天麩羅の具材も、月曜日までは持ちそうにないから、今日のうちに買ってきてもらおうと女将に頼むのでした。小鉢も明日の分までしか用意できないから、明日の朝はカボチャと小豆の従姉妹煮を作っておかなければ。蕎麦も二回打たなければ足りないかも知れない。家のパソコンで年度別の売り上げ一覧票を調べて見たら、それでも今年は一番売り上げが低いのです。今月もあと三日、四月に向けて少し沢山働く習慣を付けなければいけない。