3月上旬

3月8日 火曜日 寒い朝…

 今日は終日曇りで寒い一日だと言うから、昨日のうちに灯油を一缶買いに出掛けた。今朝も5時半には目が覚めたので、出汁取りの準備でもしてこようかと、蕎麦屋に出掛けるのでした。小雨の降る暗い朝なのです。ところが、不覚にも昆布が切れていて、午前中の仕入れを待たなければいけない。仕方がないから、洗濯機の中の洗濯物を干したり、昨日の洗い物を片付けたりして、ほうじ茶を入れてひと休みするのです。室内は以前ほど温度が下がっていない。
 今週は土曜日が年に一度の味噌の仕込みで、亭主も女将と一緒に出かけることにしたから、4日間の営業の仕入れをどうしようかと考える。張り紙を貼って臨時休業にした土曜日は、暖かい一日だというから、きっとお客が沢山来るのだろう。女将は亭主一人で営業をすればと言うけれど、先週の週末のように混んだら、とても一人では対応できないから、欲張らずに思い切って休みにしたのです。

 7時前には家に戻って、台所で女将が朝食の用意をするのをじっと待つ。新聞に寄れば、昨日の市内のコロナ感染者は150人を越えていた。前日が7人だったのが嘘のようだ。まだまだ普段の感染対策を緩めるわけにはいかないのでしょう。「ご飯が出来ましたよ」と食堂から女将が呼ぶ声がする。今朝は昨日の残り物のナスとピーマンの肉味噌炒めとお新香がおかずでした。
 お袋様を迎えに行くにはまだ時間があったので、亭主は書斎に入って横になる。10分でも眠れば頭がすっきりするのです。洗面を済ませて、定休日の今日はジャージ姿のままでジャンパーを羽織る。誰にも会わないからと着替えをしないのも、相当な横着に違いないけれど、コロナの時期ならではと自分を甘やかしている。

 お袋様を車に乗せて、地元の農産物直売所に行けば、春らしく蕗の薹や菜の花が随分出ていた。今週は天麩羅の具材に、ピーマンの代わりにこれを使おうと幾つか買っておく。隣町のスーパーに出掛ければ、雨だからか今朝は駐車場も随分と空いているのでした。いつも5日分の仕入れで、レタスやキャベツを買うものだから、これを4日で使おうと思っても難しい。結局、あまり節約は出来ない。

 蕎麦屋に戻って検品をすれば、生姜を買うのを忘れていた。先週の残りがまだ少しあるけれど、それで足りるだろうか。足りなそうならば、金曜日にでも買いに行けば好いか。お客の入り方次第なのです。筑前煮が随分と続いているから、今週は切り干し大根の煮物にしよう。白菜も小さい物をひと株だけ買って来て塩漬けした。
 家に帰れば女将はもう買い物から帰って来ていました。スーパーまで雨の中を歩いて来たから身体が温まったらしく、昼は昨日の残りの蕎麦を付き合ってくれる。小鉢を盛り付け、とろろ芋を擦って蕎麦を茹でるのは亭主の仕事。大盛りを食べて満足した亭主は、書斎に入ってまた横になる。「今日は2時5分だから、寝ていたら起こしますね」とスポーツクラブの予約を頼まれる。

 2時前になったところで、果物を持って女将が書斎に現れる。ブログを書いていた亭主は、パソコンの時計と睨めっこをしながら、一番好い場所を取ってやるのです。幸い今日は他の人に先駆けて、一番好い場所を取れたから、女将も嬉しそうなのでした。やっと午後の仕込みに蕎麦屋に出掛ける亭主。出汁を取りながら白餡を作って、小一時間を費やすのでした。
 後ろのシンクで蕎麦汁を冷やし、前の鍋では天つゆと二番出汁を仕込んだ後は、冷めた蕎麦汁を蕎麦徳利に詰め替え、残りは容器に入れて冷蔵庫にしまうのです。二番出汁は容器に濾して、鰹節はゴミ箱に捨てる。干し椎茸と昆布は袋に入れて冷凍庫へ。明日の切り干し大根を作るときに椎茸は使う。昆布は溜まったら家に持って帰れば、女将が大豆や人参と煮ておかずを作るのです。

 ここまで終わったところで時計はもう4時を過ぎていた。鍋類を洗って、硬くなった白餡を容器に詰め替え、火の元を消したのを確認して家に帰る。やはり切り干し大根までは作れなかった。先週の残りの出汁をペットボトルに詰めて持ち帰り、夜の鶏鍋の汁にしてもらう。暖房を入れないと部屋は12℃まで下がるから、ちょうど好いのかも知れない。テレビのニュースはまたウクライナ情勢。
 途中から冷凍のうどんを入れて蕎麦汁を足し、ぽかぽかと身体は温まるのです。確定申告の締め切りが近づいているから、今夜は少し頑張らなければ。どうも最近は晩酌をした後の夜が弱くなったので、何処まで頑張れるかが問題なのです。明日も休みだから、少しは進むだろうと期待をして、今日のブログを終わりにします。

3月9日 水曜日 6時間もパソコンに向かって…

 定休日の二日目。今朝は朝食を食べてひと眠りする間もなく、提出締め切りの迫った確定申告の書類作りに精を出しました。国税庁の入力ソフトもなぜか去年と様式が変わっているから、老人には慣れるまでがひと苦労なのです。収支内訳書は簡単に出来たが、確定申告書を作るのは入力のミスばかりで至難の業かと思えた。やっと入力を終えて印刷をして見れば、やはり抜けている項目がある。
 あと少しというところで、女将が書斎にやって来て「今日は11時半ですから宜しく…」とスポーツクラブの予約をしろと言う。画面を切り替えて、予約開始の時刻まで時計の秒針と睨めっこ。席を取るだけだから訳もないことなのですが、昼食の支度もあるから、確定申告書の作成はここで一度ストップなのです。厨房に立てば気分も変わるかと書斎を出るのでした。

 家の中は13℃とじっとしていると足元から冷えてくる室温です。暖房の効いた稽古場にいる女将に湯麺でいいかと断って、鍋に湯を沸かして中華鍋で肉と野菜と海鮮具材を炒めたら、大量の水を入れてぐつぐつと煮込む。塩とコショウと砂糖を入れて水溶き片栗を注げば、どろりとした汁が出来る。その間に麺を茹でておくから、短時間であんかけ湯麺の出来上がりです。

 亭主は豆板醤と海苔を加えたから、熱い麺を食べて汁を飲めば身体も温まるのでした。食後にお茶を入れてもらって、再び書斎に入って申告書作成の続きに取りかかる。去年と入力様式が変わったところを理解してクリアしたら、あとはスラスラと進むのでした。本人確認の書類や証明書類を添付して、後は役所に持って行くだけ。
晩にもう一度見直して、提出は明日にすることにしました。女将は何時の間にかスポーツクラブに出掛けていて、亭主は車を出して気分転換にコンビニまで出掛けていく。

 もう午後の3時だったから、陽もだいぶ傾いていたけれど、青空が広がって気持ちが好かったのです。通りを走る車の数もいつになく多い気がしました。コロナ禍でスポーツクラブもお休みしている亭主の移動は、家から1㎞ほど離れたコンビニエンスストアまで。後は蕎麦屋と週に一度の仕入れに隣町のスーはパーまでと、コロナに感染しないようにとできる限りの対策を取っているつもりです。

 煙草と酒のつまみを買ったら、その足で蕎麦屋に行って今日の仕込みをしました。パソコンをやり過ぎたせいか、首の辺りが凝って頭が痛いのです。そうも言っていられないから、肩や首を回して鴨せいろに入れる小松菜を茹でて、天麩羅の具材の野菜をきざむ。蓮根の皮を剥いて輪切りにしたら、酢水で茹でていきます。カボチャはスライスしてレンジに掛けておく。最後に小鉢の切り干し大根を煮て、洗い物を片付ける。これで約1時間半だから慣れたもの。

 家に帰れば女将が夕食の支度をしていました。今夜も鶏鍋にすると言うから、「味噌味にしてよ」と注文を付けておいたのです。テレビはまたウクライナ情勢を報じている。可哀想な映像を見るのは耐えられないから、テレビを消して夕日の差し込む居間で一人静かに座る亭主なのでした。今日は慣れない仕事で疲れたのです。
 明日は営業を終えたら市役所に確定申告の書類を提出に行くつもり。女将にそれを話せば、「明日は1時半から予約開始だからお願いします」ときたものだ。苦労をしてでも申告をするのは、亭主が蕎麦屋を営んでいるからだという認識なのだろうか。暖かいとは言うけれど、コロナ禍の平日のお客入りはどうなのだろう。

3月10日 木曜日 昼は暖かい陽気でしたが…

 昨日の疲れか、朝が冷えたからか、今朝は6時過ぎまで起きられなかった。仕方がないから、洗面と髭剃りを先に済ませて、朝食の出来るのを待つ。女将も寒かった見えて、餅粥に葱と卵を散らして塩味でさっぱりと美味しかった。小鉢には蕎麦屋のお新香。北海道育ちの父親が、亭主の子どもの頃に好く作ってくれたのです。

 いつもより30分も早く家を出て、みずき通りを渡れば、今朝の空は雲ひとつないから気持ちが好いのです。看板を出して幟を立て、駐車場のチェーンポールを降ろしたら、店の暖房を入れて蕎麦打ち前に小鉢の盛り付けを済ませる。切り干し大根を四鉢、お新香を切って同じく四鉢用意しておく。蕎麦は8食分だからちょうど好い。

 大釜に水を張って火にかけたら、蕎麦打ち室に入って今朝の蕎麦を打つ。いつもより20分は速い計算です。蕎麦粉を捏ねて菊練りを済ませたら、蕎麦玉を寝かせている間に、厨房に戻って金柑大福を包んでしまう。そして再び蕎麦打ち室に入って、生地を伸して畳んで包丁切り。切りべら26本で一人分140gの束をキッチンペーパーに包んで、生舟に並べていきます。10時前に蕎麦は仕上がった。

 時間があったから、定休日に白餡を作ってレンジ周りにはねた汚れを綺麗に掃除する。時間が経ち過ぎるとなかなか汚れは落ちないのです。ブロッコリーとアスパラを茹でて、野菜サラダの具材を刻めば、後は三皿分盛り付けるだけ。大釜の湯が沸いていたから、ポットに湯を入れておく。天麩羅の具材も冷蔵庫から取り出して、天麩羅鍋には新しい胡麻油を入れ、作っておいた天つゆの鍋を取り出して温める。11時を過ぎたら、テーブルをアルコールで拭いて開店の準備が整うのでした。風もなく、暖かくなった昼なのです。

 なかなかお客が来ないと待っていたところに、散歩の途中だと男性客が一人いらっしてカウンターに座る。「女の人はいいよね。やれ、お茶会だと言っては出掛けて行くから。俺らはすることがないから大変だよ。」と独り言のように言って、「何が美味しいの?」と自分の注文する蕎麦を決めかねている。「お蕎麦が好きな方はせいろ蕎麦、天せいろなんかもよく出ますよ」と亭主が応えれば、天せいろを頼まれる。70前後か無精髭を伸ばした老人なのでした。

 今日は1時過ぎになって隣町の常連さんがいらっして、「なかなか感染者の数が減らないね」と、いつものご注文。野菜サラダはもうご自分でカウンターから取っていく。亭主は慌てて箸とお茶とドレッシングを持って行く。何処にも出掛けないからと、露西亜での体験やいろいろな話をし始める。スポーツクラブから帰って昼を済ませた女将が、片付けの手伝いに来てくれて、閉店時刻には常連さんもお帰りになる。スポーツクラブの席の予約もあったけれど、亭主は、これから確定申告書の提出に市役所まで出掛けなければならなかった。大急ぎで家に戻ってパソコンに向かい、女将の予約を済ませたら今日の売り上げ伝票のデータを入力する。

 市役所への30分の道程はいつになく車が空いていた。毎年、順番をまつ確定申告の受付に誰も並んでいなくて、直ぐに終わったから驚いた。帰りがけに隣町のスーパーに寄って、晩のおかずにと刺身の盛り合わせとカキフライを買って家に戻るのでした。女将には出がけに言っておいたから、夕食の支度をしなくて済んだのです。

3月11日 金曜日 風もなく暖かい日だったけれど…

 朝食を終えて女将の朝ドラの時間になると、居間と食堂の扉が閉ざされる。亭主はテレビも点けずに、静かに今朝の段取りを考えるのです。そして次第に出掛けるぞという気分になってくる。カーテン越しに外を眺めれば、晴れて今日も天気が好さそう。コロナ禍の中で、平日はそれほどお客は来ないと分かってはいるけれど、打ちひしがれた気分で蕎麦屋に向かうことはないから不思議です。

 森や休耕地の景色がいくぶん春めいて、雲一つない空も春霞が漂っている。めっきり暖かくなった陽気のせいか、身体の中に元気がわき出てくるのを感じる。『お客も来ないのに、何のために毎日蕎麦屋に通うのだろうか?』と自問するけれど、それが隠居の亭主の選択だったのであり、結局は自分の心身の健康のためだろうと思うのです。コロナ禍になってそれが一層のことよく分かってきた。

 蕎麦屋に着いて手入れを怠っているミニ菜園を覗くと、仏の坐と誘引もしていない絹さやの蔓が一緒になって、手の付けられない状態でした。少し暖かくなったらなどと思っていたけれど、今となっては草刈りを始めるまで、このままで好いだろうという気になる。辛味大根も間引きをしていないから、そのまま大きくなって雑草に埋もれている。不思議なことに春菊のところには雑草が生えていない。こんな春もあっても好いのかも知れないと思う。

 朝の仕事を終えたら、早速、蕎麦打ち室に入って蕎麦を打つ。昨日の残りの蕎麦だけでは、いくら何でも足りなくなったら困るからと、500g五人分だけ打ち足しておくのでした。最近はお客の数が読めないから、初心に返って最小限度の量を打つことが多い。このところ加水は45%を少し越えている。この時期の湿度と気温では、硬すぎず、柔らかすぎないのでちょうど好い生地に仕上がるのです。

 大釜に湯を沸かして大根を卸したら、野菜サラダの具材を刻む。金柑大福は二日目までは十分に柔らかいので、今日出なければ家に持ち帰って女将とお茶を飲むのです。天麩羅鍋に油を入れ、天つゆの鍋を火にかけて、天麩羅の具材と天ぷら粉を調理台に並べたら、11時には開店前の仕込みが終了する。それから着替えて店の掃除をするのです。といっても、お客が少ないから床もテーブルもほとんど汚れていない。暖かくなったので換気のために窓を少し開ける。

 暖簾を出す前に店の前で止まった車が、また何処かへ行って帰ってくるから、早めに暖簾を出しておいたら、5分前になって駐車場に入ってきた。リピーターの老人二人がテーブル席に座って天せいろのご注文なのでした。男性客の割には随分と話し込んで、40分ほどしてやっと席を立つ。「お蕎麦美味しかったよ」と言って出られたから、やはり来ようと思っていらっしたお客なのでした。

 次のお客が来る前にと、テーブルの盆や皿を片付けて洗ってしまう。蕎麦屋の洗い物は蕎麦皿、蕎麦猪口、薬味皿、小鉢、湯飲み、蕎麦湯入れと、細かな物が多いから、忙しい時には、奥の廊下に下げたままになってしまう。女将のいる時は、亭主は洗うところまでだけれど、亭主一人の平日は、客の帰ったテーブルを拭いて、しまえる皿を戸棚に片付けるところまでやらなければいけない。

 外は春の陽気だから、絶好の蕎麦日和なのに、なかなかお客は来ないのです。散歩の夫婦が玄関先まで来て、看板を見ているらしいから、次のお客かと思えば、犬を連れていたから見ているだけなのでした。市内でも施設のクラスターとかで感染者の数は減らないから、やはり皆さん出掛けるのを避けているのか知らん。1時を過ぎて昼の時間帯が終わる頃に、蓮根と菜の花を天麩羅にして、ぶっかけで賄い蕎麦を食べておく。こんな美味しい蕎麦なのにと、一人で納得しているから世話がないのです。

 閉店の15分前がラストオーダーと決めているから、お客がいなければ片付けに入る。売れなかった野菜サラダと金柑大福をラップにくるみ、薬味の葱と大根おろしとを容器に詰めて、天麩羅を揚げるのに使ったパットの油を、キッチンペーパーで好く拭き取ってから洗うのです。油をそのまま流すと、外にあるグリストラップにべっとりと油が固まって、掃除も大変。そう言えば寒い時期だったからしばらく掃除もしていない。春になるといろいろとやることがまた増える。まあ、それが愉しみでもあるのですが…。

3月12日 土曜日 味噌造りの日は…

 今日は味噌造りに行く日だから蕎麦屋の営業がないので、ゆっくり寝ていれば好かったのに、そういう日に限って早く目が覚めてしまうのです。明日の日曜の準備を少しでもしておけば、時間に追われなくて済むだろうと、5時半になって空が少し明るくなる頃に、蕎麦屋に出掛ける亭主。まだ夜が明けていないから、車にも新聞の配達人以外には誰にも会わない。静かな朝なのでした。 

 さすがに店の中はまだ暗いから、明かりを点けて奥の部屋に干してあった洗濯物を畳み、洗濯機の中の洗い物を干しておく。カウンターの洗い物を片付けたら、大釜にも水を汲んだり、天麩羅のバットにキッチンペーパーを敷いたり、細々と明日の準備をする。調理台に何もなくなったところで、まな板を取り出して、明日の小鉢にお新香を切り分け、残りは更に小さな漬けもの器に移す。切り干し大根を盛り付けて、それぞれラップを掛けて冷蔵庫に入れる。

 何か忘れていることはないかと厨房を見回して外に出れば、やっと朝日が昇る時間なのでした。この時期は6時半頃には日の出になるらしい。家に戻れば昨日今日の暖かさで、我が家の塀の縁に植えた姫水仙が一斉に花を咲かせていました。黄色い花が何故か春らしい気がするのです。まだ7時前だというのに、今朝は女将も早くから台所に立って、もう昼食の用意が済んでいた。

 お蔭で早くから朝食にありつけて、書斎に入って食後のひと眠りも出来たから、頭をすっきりとさせて今日の味噌造りに出掛けられる。洗面と着替えを済ませて、女将が朝ドラを見るのかと思って居間で待っていたら、「今日は見なくても好いのよ」と支度を終えて待っているではありませんか。味噌造りの会場までは車で30分もかからないから、9時前には十分間に合うのです。

 佐倉駅の前にあるミレニアムセンターの駐車場に、一番乗りで車を停めて、圧力鍋や仕込んだ味噌を入れる容器などを持ち、調理室のある四階まで昇る。9時にならないと会場は開かないから、ロビーの椅子に座って待つこと30分。やっと主催者の女性が現れて、女将共々挨拶を交わす。コロナ禍で味噌造りも二年ぶりなのでした。

 今日は朝から暖かい日で、駅前を見下ろす窓からは雲のない青空が広がっているのが見えた。コロナ時期だから、集まる人数が多くならないようにと配慮してくれたらしく、亭主を含めて4組6名の参加だと言う。いつもなら昼食を夾んで午後も作業をするらしいけれど、会食は避けようと昼頃には終わる予定なのでした。前日に豆をミスに浸して、麹まで各調理台に用意してくれていました。ところがいざ始まってみると、調理室にガスがきていないようで、警備の人たちや管理の人がやって来て、いろいろ調べて1時間遅れ…。

 やっと10時になってガスが通り、水に浸したあった3㎏の大豆を次々と圧力釜で茹でていきます。亭主は女将の指示通りに3㎏の麹に1㎏の塩を入れて綺麗に潰していく。茹で上がった大豆は熱いうちにミンサーで潰すから、力仕事だからと亭主が他の人の分まで挽いていくのですが、どうもすぐにハンドルが外れてやりにくい。二年ぶりだからと主催者の女性が止めねじや内部のカッターを付け忘れていたらしいのです。やっとミンサーが正常に戻って、ひと組大笊3杯分の茹でた大豆を挽き終わったのは1時過ぎでした。 

 皆さん年配の方ばかりだから、恐らく一番若い女将は、遠慮して最後に豆を挽く。挽いた大豆を麹と合わせて捏ねていくのですが、これは蕎麦屋の亭主には蕎麦打ちの要領で慣れたもの。団子を作って味噌の容器に潰しながら入れていく女将と、二人でやるから早いのです。明日もまた同じ会場で味噌造りをすると言うから、ボランティアの主催者は大変。明日の使う分の大豆を洗って水に浸して、調理台の上に置いたら終了。主催者の先生にお礼を言って、皆さんにご挨拶をしたら、重い荷物を抱えて駐車場まで降りる。家に戻って、昨日持ち帰った蕎麦を茹でて食べたらもう3時なのでした。 

3月13日 日曜日 薄雲の一日だった…

 今朝も暖かな朝でした。暖房を入れなくても部屋の中は15℃もあるから、動いていれば決して寒さは感じないのです。煙草を買いにコンビニまで車を走らせ、早めに着替えを済ませて居間の椅子に座って、出掛ける時間までゆっくりとする亭主。日曜日だからテレビはニュースもあまり放映していない。8時過ぎに玄関を出れば、姫水仙が随分と沢山さいているのでした。 

 蕎麦屋に着いて朝の仕事を終わらせたら、今朝は米を研ぐだけが最初の仕事で、早速、蕎麦打ち室に入って蕎麦粉を捏ねる。加水率は45%強で、このところ好い塩梅の生地が仕上がっています。菊練りまで終えて蕎麦玉を作ったところで、ビーニール袋に入れてしばらく寝かせて置くのです。今朝は時間があるので、厨房に戻ってコーヒーを入れて一服する。薄陽の差す天気だけれど外は寒くないので、店の中は15℃もあって、暖房を入れると直ぐに暖かくなる。

 風もないから、駐車場に建てた幟がよく見える。太陽は薄雲の中でぼうっと光っている程度。青空の見えない、曇った空を見ていると、暖かくてもこれではお客が来ないのではと不安になるのです。珈琲の苦みが亭主を現実に引き戻す。蕎麦打ちの後に予定していた葱切りや大根おろしの準備だけして、再び蕎麦打ち室に戻る。

 30分も寝かせた蕎麦玉は、伸してもしっとり、畳んで切っても綺麗な仕上がりになる。切りべら26本で140g。打ち粉の分の重さがあるから、だいたい130g台の計算なのです。今日は生舟に13食だけ蕎麦を用意して、営業を始めることにしました。経験からはこの天気だと、蕎麦は全部は出ないだろうと思えるのでした。味噌づくりで昨日一日休んだのは痛いのです。一番好い天気だったから。

 厨房に戻ったら、まずは葱切り、大根おろしを終わらせ、金柑大福を包んでおきます。大釜に沸いたお湯をポットに詰めて、10時半になったから、野菜サラダは11時に仕上がる計算。カボチャを切り分けてレンジでチーンしたら、鍋に湯を沸かして塩を少々、ブロッコリーとアスパラを茹でて水で冷やす。レタスとキャベツとアーリーレッドを刻んだところで一休み。四つの皿にこれらを盛り付け、パプリカを刻み、ニンジンのジュリエンヌ。胡瓜をスライスしてトマトを添えて、パイナップルを隣に並べ、ブロッコリーとアスパラを盛れば出来上がりです。11時前には仕込みが完了しました。

 油を天婦羅鍋に注いで、天つゆの鍋を冷蔵庫から取り出してレンジに置けば、丁度、女将がやって来る。亭主は奥の座敷で一休み。開店10分前になったら、暖簾を出して店の明かりを点けるのです。それでも今日は日曜日だから、お客の出足は遅く、12時を過ぎてやっと車が駐車場に入ってきました。若い男性客が天せいろの大盛りにキスと海老の天婦羅を追加でご注文。

 それから1時時近くまで待ってもおきゃが来ないから、亭主は蓮根と菜の花を天婦羅にして、賄い蕎麦をぶっかけにして食べておくのです。食べ終わって丼を洗ったところで、やっと次のお客がご来店なのでした。天せいろ二つを仕上げて出したところで、奥の座敷で一休みしていたら、店の方で何やら声がする。お客が来たのかと出てみれば、女将の友達がカウンターに座っていつものご注文。
 大きな声は女将と友達との話声だったのでした。そこへまた、若いカップルがいらっして、三組が入ったのでこれで満席。時間も1時半を過ぎていたから、おそらくは最後のお客なのです。最初のお客が金柑大福を頼んで、女将の友達も金柑大福をデザートに食べていたら、最後のカップルも二皿ご注文「お蕎麦もデザートもとても美味しかった」と言って帰られた。2時前には片付けに入る。

 日曜日にしては少しお客が少なかったけれど、「白菜のお新香が美味しい」と言って帰るお客もいたりで、気分はよかった。家に戻って女将のスポーツクラブの予約をしたら、亭主はそのまま書斎で横になってひと眠りするのでした。急に暖かくなって、花粉が沢山飛んでいるのか、いつもは何でもない亭主も、今日は朝から鼻水やくしゃみが出るからが嫌になる。

3月14日 月曜日 急に暖かくなって…

 朝のうちかなり激しく雨が降っていると思ったら、朝食を終える頃には止んで、蕎麦屋に出掛ける時間には晴れて青空が広がった。
天気予報通りだから驚いたけれど、ポロシャツ一枚ではさすがにまだ寒いかも知れないと、薄手のジャンパーを羽織って玄関を出たのです。春先にはこんな陽気もあったのかしらと、去年のことなどまったく覚えていないから暢気な亭主。陽射しは暖かいのです。

 ゴミ出しから帰って来る蕎麦屋のご近所のおばさんに挨拶をしながら、駐車場に入れば、朝日を浴びて馬酔木の花房がピンクに膨らんできているのに気が付いた。朝の仕事を終えて、厨房の温度計を見たら16℃もあるから、さすがに今朝は暖かいのです。店の窓を全開にしたら、蕎麦打ち室に入って今日の蕎麦を打ち始める。湿度は46%もあるから、45%強の加水では多すぎるかとも思ったけれど、急に変えても上手くいかないことが多い。果たしてちょうどいい塩梅で生地が仕上がりました。この辺が不思議でならないのです。

 一人分140gを越えて、切りべら26本で今朝の蕎麦を仕上げる。昨日の残りと合わせて、生舟には10人分の蕎麦が並んだ。コロナの時期だから、10人お客が来ることはまずないだろうと、小鉢も7人分しか盛り付けていなかった。厨房に戻って、熱々の求肥で白餡でくるんだ金柑の甘露煮を包み、「あちちっ」と言いながら大福を丸めた掌を水で冷やす。大根と生姜をおろして、後は野菜サラダだけ。
 と、いきなり玄関の扉が開いて、女将がやって来た。「昨日もらっていった小松菜が茹でたら甘くて美味しかったので、また取りに来ました」と言って、ミニ菜園の小松菜を採って帰る。種をまくのが早すぎたので、寒い時期にずっと植えたままで育ったから、美味しく仕上がったのかもしれない。ついでにと、今日残りそうな大根やパイナップルを持ち帰ってもらうのです。

 亭主は生姜をおろし金で擦っている。天せいろに使う天つゆに入れる大根おろしと一緒に使うだけだから、そんなにたくさんはいらないのだけれど、日が経つと色が変わって変に辛くなってしまうので、二日に一度は丁寧におろして真空のフリーザーに入れておくのです。そのまま冷蔵室に入れておくよりは鮮度が保たれる。これはわさびも同じで、本わさび入りのものを冷凍で仕入れて、容器に移すのだけれど、冷蔵室に入れておくだけでは、香りも味もすぐに駄目になる。その日に使う分だけ解凍して真空で保存するのが好い。

 いつもと同じく11時前に野菜サラダを盛り付けて、テーブルを拭いて回ろうかと思っていたら、もう駐車場に車が入って来た。若い元気な若奥さんが玄関を入ってきて、「お父さんも来たいというので今から迎えに行ってくるから、30分で戻ってきます」と言う。後から聞けば、店がやっているかどうかを、まずは若夫婦で見に来たらしいのです。ちょうど開店の時刻に戻っていらっした。亭主の心の準備とお茶やおしぼり、割りばしの準備ができたから好かった。
 天せいろ二つととせいろ蕎麦のご注文だから、これは簡単と思っていたら、ビールを二本に蕎麦焼酎のお湯割りとお酒を頼まれたから、にわかに忙しくなる。用意しておいた小鉢のお新香と切り干し大根の煮物も、突き出しで出るから後が盛り付けで忙しくなる。若いご主人は車の運転だから、静かに天せいろを食べて、蕎麦湯を啜っていた。飾り気のないざっくばらんな娘さんの気質が、かつて亭主の育った東京の下町っぽくて好感が持てるのでした。

 ところが、珍しくこの週末に来なかった隣町の老夫婦が、前のお客の調理が終わらないうちにいらっして、「平日はカレーうどんは出来ないのですよ」と言えば、辛味大根とせいろ蕎麦のご注文なのでした。前のお客も辛味大根のご注文が入っていたし、おろし金で辛味大根をおろすのも、他の作業をしながらでは大変なのでした。
 やっとすべての料理を出し終えて、デザートまで食べていただいた老夫婦が先に会計を済ませ、蕎麦焼酎を頼まれた先の三人組も、やっと一息ついてお会計。「今度は妹を連れてきますね」と言って帰られる。初めてのお客だから「またよろしくお願いします」と亭主も応える。沢山の種類の注文があれば片付けにも時間がかかる。

 沢山の洗い物をすべて片付けた頃に、また駐車場に車が入って来たから、平日なのに今日は忙しい。今日は昨日よりもお客が多かった。やはり暖かくなったからなのでしょう。美味しく蕎麦を食べるには丁度いい陽気なのです。最後のお客が帰ったのが閉店時間の少し前で、洗い物はお客のいない時間に終えたから好かったけれど、洗い籠がいっぱいで皿を拭いて片付けないと次が洗えない状態。一段落ついたら、昼飯を食べないと亭主も空腹なので、菜の花と蓮根の天婦羅を揚げて、ぶっかけで賄い蕎麦を食べるのでした。
 洗った皿をしまったら、今日は週の最終日なので、家に持ち帰る食材をまとめておかなければいけません。四日間使った天婦羅油を固めて、大鍋を洗い、生ゴミの袋を捨てる準備を終えたところで、もう3時をとうに過ぎていました。布巾類や手拭いを洗濯機に入れてスイッチを入れたところで、スポーツクラブから帰った女将が、持ち帰る荷物を取りに来てくれて、ほっと一息。
 家に戻って売り上げをパソコンに入力して、今日の写真を取り込んでいたら、机の前でふと意識が遠のいている。やはり疲れたのでしょう。女将が今日は小麦粉を買ってきたからと、夕食は野菜サラダの刻んだ野菜を使ってお好み焼きしてほしいと言うものだから、相撲中継をかけながら、二人でつましい食事。亭主はそのまま書斎に入って夜まで眠ってしまう。慣れなければいけないけれど、平日一人で営業するのは、若ければ何でももないことがやはり大変か。